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タスマニアデビル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

?タスマニアデビル

タスマニアデビル Sarcophilus harrisii
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: フクロネコ目 Dasyuromorphia
: フクロネコ科 Dasyuridae
亜科 : フクロネコ亜科 Dasyurinae
: タスマニアデビル属 Sarcophilus
F. G. Cuvier, 1837
: タスマニアデビル S. harrisii
学名
Sarcophilus harrisii
(Boitard, 1841)
和名
タスマニアデビル
英名
Tasmanian devil

タスマニアデビルSarcophilus harrisii)は、哺乳綱フクロネコ目フクロネコ科タスマニアデビル属に分類される有袋類。

目次

[編集] 分布

タスマニア島に分布し、特に北東部に全般的に生息数が多い。

[編集] 形態

体高 
30cm程度
体長(尾を含まない) 
50-60cm
尾の長さ 
20-30cm
体重 
雄10-12kg、雌6-8kg

フクロオオカミ絶滅後は、現生では最大の肉食性有袋類である。 黒色(または黒褐色)の毛に覆われており、たいていは胸・腰のあたりに白い模様がある。 耳の被毛は薄く、興奮すると血色が透けてピンクや赤色が鮮明になる。

上顎部の2本の鋭い牙は、一生伸び続ける。 尻尾には栄養状態が反映されやすく、栄養状態の悪いデビルの尻尾は毛が薄い。

走るときには後ろ足を揃えて出すため、後ろ足よりも前足の方がやや長いことと相まって、ユーモラスな動きになる。 四肢に鋭い爪を備えているが、攻撃用ではなく、巣穴の土掘りに活躍する。 子供の頃は身が軽く、低木によじ登ることもできる。

有袋類の特徴である育児嚢は、コアラカンガルーと異なり、後ろ向きについている。 これは四足歩行で土を掘り返す習性のためで、袋の中に土が入らないようになっている。 本種よりも穴掘りがずっと得意なウォンバットの育児嚢も同じく後ろ向きである。

通常あまり臭わないが、ストレスを感じたり興奮したりすると強い体臭を発する。 視力は弱いが、優れた嗅覚と聴覚を持っている。

[編集] 生態

夜行性で、昼間は穴ぐらや藪の中に潜んでいるが、夜になると餌を求めて1晩に16kmほど移動することがある。 主には死肉を食すが、哺乳類鳥類昆虫類等も捕食する。 野生のデビルの胃からホヤが見つかったことすらある。 およそ肉食に分類される獲物ならば何でも食べるが、ポッサムワラビーウォンバット等の小型哺乳類を最も好む。 クロコダイルと比較されるほど強靭な顎を持ち、骨・皮・毛・羽等、何でもバリバリと噛み砕いて食べてしまう。 標準的には1日に体重の15%ほどの食餌を要するが、体重の実に40%近い獲物を30分でたいらげてしまう事が可能である。 動物の死体を処理することで、公衆衛生やスムーズな食物連鎖の回転に寄与している。

気性が荒く、個体同士が餌の奪い合いで激しい争いになることもある。鳴声が非常に特徴的で、「背筋の凍るような」「数km先まで響き渡る」と形容される唸り声・叫び声を上げる。 争いなのかコミュニケーションの一環なのか、恐ろしげな威嚇の鳴き声・ジャブの応酬・果ては本格的な喧嘩や多少の怪我はデビルにはつきものである。 顔や腰周辺の傷跡の多寡で年齢や性別を推測できたりもする。

一方で、自分より大型の動物に対しては臆病で、格上の個体や人間等に対して牙をむき出してうなるのは攻撃性のゆえではなく、むしろ恐惶に駆られているか直接的な争いを避けるためのハッタリである。 大きく口を開けて叫びつつ今にも襲いかかってきそうな野生個体に遭遇したら、人間はそのまま距離をおいて黙って待つことである。 攻撃しなければ、逃げていく。

縄張り意識はさほど強くはなく、数匹の縄張りが重なり合っていることもある。 腐肉の臭いに誘われて集まった同格の個体が、争ったり威嚇したりしながらも、ひとつの獲物に同時に食らい付いていることも稀ではない。 そのような時には、ヒゲで他の個体との距離を測りつつ食べては争う。

[編集] 生活環[1]

生まれたばかりのタスマニアデビルの発育段階。斜め線は変化の開始から終了までの期間を示す。例えば、体表が毛で覆われるのには41日間かかる。
生まれたばかりのタスマニアデビルの発育段階。斜め線は変化の開始から終了までの期間を示す。例えば、体表が毛で覆われるのには41日間かかる。

繁殖シーズンは3月(タスマニアでは初秋)。 雌はシーズンを迎えると首周りに脂肪がたまり、巣作りをはじめる。 雄同士は雌を巡って激しく争い、勝者の雄は雌を3日ほど巣に監禁して生殖行動を行う。 3日がすぎると雌のホルモン分泌バランスが変化して気性が(ますます)荒くなり、雄は巣穴を追い出される。

有袋類、言い換えれば無胎盤類であるタスマニアデビルの妊娠期間は約31日で、カンガルー等と同様、胎児が非常に未熟な状態で出産する。 一度に20-40匹生まれる米粒ほどのサイズの胎児は、産道の出口から6-7cm離れたところにある育児嚢に向かって移動する。 育児嚢には乳首が4つしかないので、生き残るのは無事たどりついて乳首にしっかり固定された最大4匹の胎児だけとなる。 通常は2-3匹の赤ん坊を子育てすることになる。

生まれたときは小さいジェリービーン様だが、育児嚢で4ヶ月すごすと200gほどに成長し、見た目は成獣とそっくりになる。 その時点で育児嚢から出てくるが、カンガルーワラビーと違い、いったん袋の外に出ると戻ることはない。 更に3ヶ月ほどは巣の中に留まり、母親の袋に顔をつっこんでは授乳してもらう。

10-12月(春)には巣の外に出るようになり、1月(夏)には独り立ちするが、その後の1年間を生き延びる野生のデビルは半数ほどである。 生後2年で成熟し、2年目の3月には繁殖期を迎える。

野生のデビルの寿命は5-6年、飼育下では6-7年である。

[編集] Status

LEAST CONCERNIUCN Red List Ver.3.1 (2001))

画像:Status iucn3.1 LC.svg

[編集] 歴史

現在はタスマニア島のみに生息するが、古くはオーストラリア大陸にも生息していたことが化石により判明しており、同大陸ではヨーロッパ人到達以前の14世紀終わり頃に絶滅した。 オーストラリア大陸での絶滅はフクロオオカミと同様に、人類がもたらしたイヌが野生化したディンゴの影響があると思われる。

1800年頃から入植を始めたヨーロッパ系住民は、家禽家畜を襲う害獣として、また鳴き声や死体を漁る姿を悪魔に例えて忌避した。 1830年には羊毛・畜産の民間企業による奨励金(雌35セント、雄25セント)が、また1888年には政府によって同様の奨励金が設けられ、タスマニアンタイガーと共に駆除が奨励された。 しかし、1936年タスマニアンタイガー絶滅するとタスマニアデビルを保護する気運が高まり、1941年保護法が成立し現在に至っている。

1996年に初めて公式に報告された「デビル顔面腫瘍性疾患」と呼ばれる病気によって、この10年間で30~40%まで個体数が減少している。 自然発生的な伝染病のみを原因として生物が絶滅することは稀だが、環境的な要因が加わると、加速度的に個体数が減少する可能性がある。 2000年前後にハンティング目的で不正にもたらされたキツネが野生化して個体数を増やしつつあり、仮にDFTDが収束したとしても、いちど食物連鎖の頂点を追われた動物が元の地位・生息数・生息地域に戻ることは困難である。 絶滅危惧種指定は受けていないが、危機的状況である。

[編集] デビル顔面腫瘍性疾患

重篤なDFTDに罹患したデビル
重篤なDFTDに罹患したデビル[2]

DFTD(Devil Facial Tumour Disease)、または単純にデビル病(デビル癌)と呼ばれる。 タスマニアデビル成獣の顔・首にできる腫瘍)で、徐々に周辺組織を侵しいずれは死に追いやる 。 多くはまず口の周辺に腫れ物ができ、腫瘍が肥大化(口や目を塞いでしまうこともある)、頚部・頭部の周辺組織や、時には腰・背中など他の部位にまで転移し、症状が現れてから3~6ヶ月で餓死する。 現段階では原因、治療法共に不明である。

餌を巡る争いや求愛行動の際の咬傷を介して伝染するという説が有力。 そのため、主に成獣に発症していると考えられる。 生態数調査で捕獲される発病したデビルのうち83%までが成獣である[3]

癌の直接的な病因が伝染するのか、はたまた癌を誘発する別の何かが伝染するのか定かではないが、感染に対する免疫反応や治癒例は現在のところ確認されておらず、感染地域は拡大の一途をたどっている。 1996年にタスマニア北東部で報告された後、2006年12月までにタスマニア東部~中部(島面積の約2/3)で感染例が報告されている。 19921995年20022005年の目撃数を比較すると、タスマニア州平均で約60%、北東部では約10%までに減少している[3]

因みに19641995年に捕獲されたデビルの総数は2020匹にのぼるが、その時期のDFTD様の症状に関する報告は皆無だった。 epidemic / pandemic(爆発的に広がる強い伝染病)、zoodemic(その動物版)などと評される所以であろう。

[編集] 公的な保護活動

タスマニア州政府農水省(DPIW:the Department of Primary Industries and Water)・大学・自然公園・動物園などによる共同保護プログラムが実施されている。主には以下のようにに分類されている:

  • 生息数調査
  • 病理研究
  • 野生保護区
  • 人工飼育

なお、DFTDプログラムでは、随時ボランティアを募集している。

[編集] 生息数調査

野生のデビルを捕獲・観察し、また捕獲後はりリース前に動物医による診断を行っている。 罠による捕獲では毎日チェックし中のデビルをケアする必要があるため、日次チェックに適さない地域では遠隔操作カメラも導入され効果をあげている。

捕獲に使用される罠は特製で、日中穴倉にもぐりこむデビルの習性にあった形状をしている。 ストレスを感じさせないのは勿論のことだが、よほど居心地が良いのか、中にはしょっちゅう罠に入り込んでは仰向けで熟睡している個体もいるそうである[3]

[編集] 病理研究

DFTDの原因、治療法などの研究が多くの大学機関・病理学者によって行われている。

2006年11月にはDFTDの癌細胞は神経内分泌に起因するとの研究成果が発表されたが、従来の仮説(リンパ腫あるいはレトロウィルスを原因とする)を覆す内容であり、今後さらなる研究が期待される[4]

[編集] 野生保護区

島南東部に位置するタスマン半島と本島とを繋ぐ唯一の橋を封鎖し、健康なデビルを隔離・生息させようという試み。 半島と本島をつなぐ橋に、デビル避けの網や、デビルサイズの生物に反応するセンサー式のウォータージェット・ライト・録音した犬の鳴声を仕掛けるなどのアイディアがある。

2004年にプログラムがスタートしてから3年の間に、DFTDに罹患したデビル60匹が保護・退去となっている。 2006年前半6ヶ月の監視カメラによる記録では、外部から半島へ入ってきたデビルは僅か2匹に留まっている[3]

[編集] 人工飼育

2006年12月、「箱舟プロジェクト」として47匹のデビル(うち18匹が子供)がオーストラリア本土の野生動物保護施設に送られた。 順調に行けば2007年3月には初の繁殖期に入る。

[編集] 民間の保護活動

旅行者の目撃情報 

タスマニアンデビルの目撃情報は、生息地域や感染地域に関する重要な情報源となり得る。 旅行中にデビルを目撃した場合(生死問わず。路肩の野生動物の轢死体を漁りに来て二次被害にあった事故死体も含む)、DFTDプログラムは次の事柄に関する情報を求めている:

  1. 目撃場所(GPSがあれば座標情報)
  2. 大きさ(体重を目測できなければ、小型犬・小さい中型犬などの描写でも可)
  3. 雌雄
  4. 身体的特徴(古い傷跡や模様の位置、耳の形・切れ目など。尻尾の毛は濃いか、薄いか。写真があればベスト)
  5. 推測される死因(明らかな交通事故死か、そうでないか)
  6. 病変の有無、位置、大きさ(腫瘍が見当たらない場合はそのように明記)
  7. 報告者の連絡先

このチェックリストは、国立公園や野生動物公園のビジターセンターで配布されている。 電話報告は24時間受付。ただしDPIWの営業時間外は留守電に伝言を残す形式で、翌営業日に折り返し連絡になる。

※注意
タスマニアデビルは未知の病原菌に感染している恐れがある。
決して触らないこと!


マックスバリュ東海 

マックスバリュ東海は、DFTDプログラムへタスマニアデビル支援金を贈呈する活動[5]を行っている。 青果物の仕入れが縁で始まったという支援活動で、2回目の寄付となる2006年6月には約 A$30,000 が寄付された。 内訳は、店内設置の募金箱に集められた寄付金、およびそれと同額のマックスバリュ東海拠出の寄付金である。

カンタス航空 

カンタス空港はオーストラリア国内の空港にタスマニアンデビルの彫像を冠した募金箱を設置している。

[編集] 参考文献

  1. ^ 製作:Natural History New Zealand、協力:Discovery Channel、The Devil's Playground、2000年
  2. ^ http://dx.doi.org/10.1371/journal.pbio.0040342 To Lose Both Would Look Like Carelessness: Tasmanian Devil Facial Tumour Disease. McCallum H, Jones M, PLoS Biology Vol. 4/10/2006, e342.
  3. ^ a b c d デビル顔面腫瘍性疾患ニュースレター(2006年12月)
  4. ^ R. Loh1; D. Hayes; A. Mahjoor; A. O'Hara; S. Pyecroft1 and S. Raidal, "The Immunohistochemical Characterization of Devil Facial Tumor Disease (DFTD) in the Tasmanian Devil (Sarcophilus harrisii)", Veterinary Pathology, (編者不明), USA (WI): The American College of Veterinary Pathologists (ACVP), Vol.43, pp. 896-903
  5. ^ 第2回タスマニアデビル保護支援金の贈呈について

[編集] 外部リンク

Wikispecies
ウィキスピーシーズタスマニアデビルに関する情報があります。
  • Tasmanian Parks and Wildlife Services entry on the Tasmanian Devil (音声・動画へのリンクあり)

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