ニュー・ホライズンズ
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ニュー・ホライズンズ (New Horizons) はアメリカ航空宇宙局 (NASA) が2006年に打ち上げた無人探査機で、人類初の冥王星探査機である。
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[編集] 概要
打ち上げ費用は約7億ドル(日本円で約800億円)である。
本体の重量は465 kg(推進剤77kg含む)。本体を軽量にして、生じた余裕は速度の向上に充てられた。発射後9時間で月軌道(地球から約38万km)を通過し、13ヵ月後に木星をスイングバイする。月軌道および木星までの所要期間は史上最短である。
太陽から遠くて太陽電池が使えないので、原子力電池を搭載している。星条旗と、公募した43万人の名前も搭載された。冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰も搭載されていたことが、打上げ後に発表された。
なお、当初、打ち上げは2006年1月12日(日本時間)の予定だったが、ロケット本体の点検や天候不順などで再三延期された。 打上げに使われたアトラスロケットには補助ブースター5基が取りつけられた。史上最も多くのブースターを使用した、アトラスの打上げになった。
打ち上げ直後の速度は、歴代の探査機の中で最高速度である30km/sである[1]。それに応じて、使用済みロケットの速度も速く、打ち上げロケットの最終段である3段目は、探査機を分離した後も探査機にほぼ同行し、冥王星軌道を越える。
[編集] 日程
- 2006年1月19日19時00分 (UTC) / 14時00分 (EST) / 20日4時00分 (JST):フロリダ州のケネディ宇宙センターに隣接するケープカナベラル空軍基地から、ロッキード・マーティン社製アトラスV型ロケットで打ち上げ。
- 2006年4月7日10時00分 (UTC) 頃:火星軌道を通過。
- 2006年6月:小惑星帯に突入。
- 2006年6月13日4時05分 (UTC):小惑星 (132524)APLを、101,867kmの距離から撮影。
- 2006年9月21日~24日:LORRI(望遠カメラ)で初めて冥王星を撮影。
- 2007年2月28日:木星でスイングバイを行い、21km/sまで加速。同時に、観測装置を試験し、木星の小赤斑、エウロパ、ガニメデ、イオを撮影。イオの撮影では同時に3火山が噴火している状態を写真に収めることに成功した。
[編集] 今後の予定
- 2010年頃:ケンタウルス族小惑星の (83982) クラントルに接近する。ここで、一部の観測装置を再試験。
- 2015年2月~8月:冥王星とその衛星を観測(詳細は下記)。
- 2020年頃:エッジワース・カイパーベルトを観測。
- その後は太陽系を脱出する。
[編集] 冥王星探査の詳細
- 2015年2月14日:冥王星探査開始。
- 2015年4月後半:このころには、画像の画質が、ハッブル宇宙望遠鏡による最良のものと同等になる。
- 2015年6月初旬:全ての観測機器が常時観測体制に入る。
- 2015年7月14日:冥王星をフライバイ(接近通過)し、冥王星と衛星カロンを撮影。最接近時の距離は10,000kmで、カロンの公転軌道の内側を通る。そのときの速度は14km/s。
- 2015年8月後半:接近後の探査終了。
- 2016年4月後半:全てのデータを送信完了。
[編集] 搭載機器
- Alice
- 冥王星大気の組成と構造を調べる紫外線イメージングスペクトロメーター(多波長撮像装置)。
- Ralph
- カメラ(白黒とカラー)。
- REX(Radio Science Experiment)
- 探査機の通信システムと一体の実験装置で、冥王星とカロンの大気の温度・圧力・密度・温度を測定する。
- 探査機のわずかな軌道変化を測定して、冥王星、カロン(うまくいけばエッジワース・カイパーベルト天体も)の質量を求める。また、冥王星とカロンによる地球の蝕(地球からの電波が遮られる現象)の時刻を測定する(これから、冥王星とカロンの正確な大きさがわかる)。
- LORRI (Long Range Reconnaissance Imager)
- モノクロ望遠カメラ。
- SWAP (Solar Wind at Pluto)
- 太陽風と冥王星の大気との相互作用を調べる。
- PEPSSI (ペプシ, Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation)
- 粒子線観測器。冥王星から宇宙空間に逃げ出した大気物質を測定する。
- ヴェネチア・バーニー学生微粒子計数器 (ヴェネチア (Venetia), Venetia Burney Student Dust Counter, VBSDC)
- 彗星、小惑星、カイパーベルト天体同士が衝突して出る、微細な塵粒子の個数・速度・質量を計測する。コロラド大学の学生たちによって設計・製作された。名称は、1930年、"Pluto"(冥王星の原語)という名を提案したイギリス人女性、ヴェネチア・バーニー・フェア (Venetia Burney Phair, 1919年 - ) にちなんで、打ち上げ後につけられた。
[編集] 註
- ^ 第一段及びブースターロケットの燃焼終了時に達成した速度が10km/sであり、この時点で地球脱出速度を超えていた。その後、第二段ロケット燃焼時には15km/sに達し、そして第三段ロケット燃焼終了時には30km/sに到達した。この速度は、既に冥王星軌道を越えているボイジャー1号、ボイジャー2号が地球軌道離脱時に達した速度を上回る。
[編集] 外部リンク