フール・フォー・ザ・シティ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『フール・フォー・ザ・シティ』(FOOL for THE CITY、略称FFC)は、永野護作の漫画であり、漫画家としての永野の処女作。角川書店発行の月刊雑誌「ニュータイプ」創刊号の1985年3月号から約1年間連載されていた。単行本全1巻。
タイトルの由来は1970年代に活躍したイギリスのロックバンド「フォガット」の曲『FOOL FOR THE CITY』であり、この曲自体も本作品の大きなキーポイントとなっている。
目次 |
[編集] 設定
20世紀末から21世紀初頭にかけて大戦争が勃発、世界は壊滅的な大打撃を被った。
かろうじて生き延びた人々は、持てる力を結集して統一国家「地球連邦」を形成した。連邦では人々は徹底した管理機構のもと、争いのない平和な生活が保障されていた。
しかしその一方、この連邦形成にあたり、連邦を統括するマザーコンピューター「ドウター(DOUGHTER)」と高官たちは、自分たちの政策に不利となる因子をすべて消去する策をとった。特に、国民を扇動する要因の強い芸術や宗教が弾圧され、それらの記録も一切消去され、数多くの文化が人々の心から忘れ去られていった。
弾圧から逃れた芸術家たちは、辺境の地で地下生活に入り、「禁制」とされた文化を子孫たちに託していった。そうした彼らは「サクセサー(SUCCESOR)」と呼ばれ、一部では神格化されるまでに至った。しかしその彼らも、次第に多くが狩られていった。
そして地球連邦形成から約120年後。人々は作られた世界の中、何の不安もなく、理想的で平和な生活を送っていた。だが、それと引き換えに人類の文化の発展は停止した。そして人々はもはや知らなかった……自分たちに感動を与える芸術を。演劇、絵画、文学、音楽を。音楽……そう、ロックミュージックも!
[編集] 作中世界での音楽文化
- ロックは全面禁止であり、ポップス、歌謡曲程度しか認可されていない。
- 楽器はすべて音色入力がデジタル信号となっており(いわゆるPCM)、楽器の名前も前世代から変化している。
- ライブでは現代のように大音量スピーカーで音や歌を流すことはなく、観客はみな、イヤホンで音楽を聞く。
[編集] 物語
西暦2185年。音楽バンド・スーパーノヴァのラスたちは、偶然にも最後のロック・サクセサーであるアラニア・シャンカールと出逢った。本物のロックに触れることができると喜ぶラスたちだが、彼女は心を閉ざし、ロックのことを心に封印していた。しかし後に、アラニアは音楽が人の心を動かす素晴しさを知り、ラスたちは本物のロックに触れる。そして、2世紀もの日々を隔て……再び人々の耳にロックの鼓動が響き渡る! 「YEA! Rock'n Roll !!」
[編集] 登場人物
[編集] スーパーノヴァ
- 北米、ユーロー地区で最高の人気を持つ音楽バンド。
- ラッセル・コール
- 主人公。ビートリズマー担当。通称ラス。アラニアがサクセサーたちの仇であるログナー暗殺を企てた際、それを食い止めたことが彼女との出逢いとなった。以来、自分の家へアラニアを居候させ、やがて恋仲となってゆく。21歳。
- アラニア・シャンカール・アンダーソン
- 物語のヒロイン。ロック・サクセサーの最後の生き残り。インドのカシミール出身。当初はサクセサーとしての生き方に反感を抱いていたが、やがて音楽の本当の素晴しさを知り、スーパーノヴァにメインボーカルとして加入する。17歳。
- エドワード・マコト
- メロダー担当で、ラスの親友。16歳の頃、本物のロッカーの『FOOL FOR THE CITY』を聞き、いつか自分もそれを歌うことを夢見て音楽の道を選んだ。アラニアを通じ、夢だった『FOOL FOR THE CITY』のテープを遂に手に入れるが……。21歳。
- イアン・マクドナルド
- メロダー担当。プレイボーイ。天才肌だが、それだけに身勝手な一面もあり、トラブルを起こすことも多い。20歳。
- スティーブ・フリップス
- リズマー担当。スーパーノヴァのリーダー格。24歳。
- サイモン・オフロード
- スーパーノヴァ結成に携わった人物で、現在はプロデューサーを務めている。32歳。
[編集] スケープゴウト
- いわゆる暴走族。この時代の警官たちからは「ただ走るだけで何が面白いのか分からない連中」と見なされ、あまり相手にされていない。なお、この時代の乗物はほとんどが電動であり、彼らのバイクも例外ではない。
- アニマル・ドーシー
- スケープゴウトのリーダー。唯一、旧式バイク(現代の内燃機関式)に乗っており、しかも愛車は世界にただ1台残ったハーレーである。ラスやマコトとも親しい。
[編集] メトロポール
- 22世紀で最強権力を持つ情報管理局。
- ファルク・U・ログナー
- 「機械は人間が操作する」という原則のもと、唯一ドウターに命令できる人物として、ドウター自身に作られた人間。そのことから「マシン・チャイルド」の通称で呼ばれる。事実上の世界最高権力者で、彼に対しては政治家や官僚たちも、誰1人口を挟むことはできない。自分を創ったドウターを母の意味で「ママ」と呼ぶ。23歳。
- ソーニャ・カーリン
- ログナーの片腕である女性大尉。ログナーの本来の任務、そして彼の真の企みの双方に忠実に仕えている。一方、身分を隠してメトロポールに対するレジスタンスの協力者及び情報提供者としても務め、メトロポールの情報を彼らに提供するが、その彼らの動向をログナーに報告する役目も持つ。
- ドウター
- 地球連邦を統括するマザー・コンピューター。人格を持ち、会話もできることからヒューマン・コンピューターとも呼ばれる。自ら創ったログナーを息子として「ファル」と呼ぶ。ログナー不在時には自らメトロポールに命令を下すこともある。
[編集] 機動ポリス
メトロポールのもとで働くロボット警察官。
- ロウ・グライド
- パトロール用。現代で言えば単なる巡査であり、会話もできる。
- スカウト・グライド
- 事件用。一般的な事件が起きた際に出動する。
- ハンター・グライド
- レジスタンス、テロリスト討伐用。
- フレイム・グライド
- 同じくレジスタンス、テロリスト討伐用。火炎放射を武器とする。
- ベオ・グライド
- 最新型機動ポリス。殺人専門のロボットで、人間と見れば誰彼構わず射殺する。人間の警官たちですら、識別レーザーを出していないとこのベオに射殺されてしまう。そこから付いた通称は「デストロイド・コマンダー」。
[編集] 備考
- ログナーの名前と容姿は『FSS』のファルク・ユーゲン・ログナーと同一だが、同一人物でないことはもちろん、転生や分身といった類でもない。
- 作者の遊びであろうが、よく見ると所々に重戦機エルガイムのキャラクターが紛れ込んでいる。(もっともわかりやすいところでは単行本176ページ2コマ目の、ミラウー・キャオ、クワサン・オリビー、ネイ・モー・ハン、ガウ・ハ・レッシィか。また178ページ1コマ目にはアッカンベーをするファンネリア・アムがいる。そもそも、「レジスタンス」の大物であるマクトミンがデザインはおろか名前まで同じであるなど。)
[編集] 関連作品
[編集] 漫画
- ファイブスター物語
- 詳細は該当記事を参照のこと。第3部において、ヒロインのラキシスが時間のずれに入り込み、あちこちの時代や地域を移動した末、西暦2185年の地球に辿り付き、本作のソーニャ・カーリンに出会い、彼女に協力を得る、とされている。
[編集] 音楽
- スーパーノヴァ(1987年)
- 全8曲のイメージアルバム。本作中のバンド・スーパーノヴァのデビューアルバムとしても位置づけられており、作中でスーパーノヴァが歌う曲も収録されている。2曲はインストゥルメンタルで、6曲は川村万梨阿によるボーカルであり、歌手としての川村万梨阿の1stアルバムでもある。
- フール・フォー・ザ・シティ(1987年)
- 本作のイメージソングとしてリリースされたシングル。ボーカルは同じく川村万梨阿。フォガットの「FOOL FOR THE CITY」とは全くの別物。
[編集] 出典元
[編集] 書籍
- 永野護『フール・フォー・ザ・シティ』全1巻 角川書店、1987年。
- 永野護ほか『ファイブスター物語 エピソードガイド1986-1997』、角川書店、1997年。
- 永野護「ファイブスター物語用語辞典」『ファイブスター物語』第1巻、角川書店、1987年、189頁。
- 永野護「THE JOKER SOLAR SYSTEMS CHRONOLOGICAL TABLE」『ファイブスター物語』第1巻、角川書店、1987年、197頁。
[編集] 音楽
カテゴリ: 漫画作品 ふ | 一般雑誌掲載漫画作品 | SF漫画作品 | 漫画関連のスタブ項目