ポリ塩化ビニリデン
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ポリ塩化ビニリデン(Poly vinylidene chloride-PVDC)は、塩素を含むビニリデン基を重合させた、非晶性の熱可塑性樹脂に属する合成樹脂。CAS番号9002-85-1。
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[編集] 種類
単体で使用される例はほとんど無く、塩化ビニル(PVC)またはアクリロニトリルなどとの共重合体が使用される。
[編集] 製法
前工程として1,2-ジクロロエタンを製造する。エチレンと、塩化ナトリウムを電気分解して得られる塩素または塩化水素とを反応させる。
- CH2=CH2 + Cl2 → CH2Cl-CH2Cl
- CH2=CH2 + 2HCl + 1/2O2 → CH2Cl-CH2Cl + H2O
1,2-ジクロロエタンを、水酸化カルシウムまたは水酸化ナトリウムを使用した脱塩酸反応でモノマーを得、精製後これに乳化剤を加えながら重合し製造する。
- n CH2Cl-CH2Cl + n Ca(OH) 2 → [-CH2-C(Cl2)-] n + n CaCl2 + n H2O (石灰乳法)
- n CH2Cl-CH2Cl + n NaOH → [-CH2-C(Cl2)-] n + n NaCl + n H2O
[編集] 特徴
- 無色透明。熱安定性に優れ、成型時の焼けなどによる着色が起こりにくい。
- 化学薬品類に対する優れた耐薬品性を持つ。高温時のジメチルホルムアミドやジエチルホルムアミドには可溶。
- 耐水性に優れる。
- 適度な弾性を持つ。
- 防湿性とガスバリア性の両方を兼ね備える他のプラスチックフィルムに無い性質を持つ。また、フィルムは自己粘着性を持つ。
- 難燃性を持つ。
[編集] 改質
- コンパウンド
- 抗酸化剤や紫外線吸収剤などを添加し、機能を付与する。
[編集] 用途
[編集] 歴史
1933年、アメリカのダウケミカルのラルフ・ウイリーが開発し、繊維やフィルムへの加工生産を開始した。当初は第二次世界大戦の戦場で、靴のインソールや火薬類を湿気から守るフィルムなどとして使われた。戦後、包装分野への展開が図られたが、あまり普及しなかった。しかし、 サランラップに代表される包装用フィルムとして、PVCとの共重合体利用が発案され、以後用途拡大が進んだ。
1990年代頃から、PVDCが塩素原子を含むことからダイオキシンなど環境負荷を懸念する声があり、ポリエチレンやポリメチルペンテンなどを使用したラッピングフィルムなど競合製品の上市も相次いでいる。このような状況に対応し、塩化ビニリデン衛生協議会[1]はPVDCの安全性のアピールとともに、ごみ分別の啓蒙活動などに取り組んでいる。
[編集] 使用例
PVC共重合体は包装用フィルムとしての用途が最も多い。これは、家庭用から運送用まで、簡易かつ強固に梱包ができる材料として重宝されている。繊維加工されたものはカーテンなどの難燃性が求められる用途に使われる。また、ラテックスへ混入し防水・防湿性を付与する使用法もある。一方アクリロニトリル共重合体は、他のフィルム材料や金属・紙などのに防湿性などを付与するコーティング材料としても使用される。
[編集] 脚注
[編集] 参考資料
- 大井秀三郎・広田愃 『プラスチック活用ノート』 伊保内賢編、工業調査会、1998年。ISBN 4-7693-4123-7
- 「サランラップ」と姉妹品◆旭化成ライフ&リビング株式会社