ミサイルの誘導方式
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ミサイルの誘導方式(-ゆうどうほうしき)では、ミサイルに搭載された各種電子機器によってミサイルそのものを目標へ誘導する方法を述べる。
目次 |
[編集] 概論
ミサイルの誘導方式は、工学的な観点から、大きくホーミング誘導、指令誘導、プログラム誘導、複合誘導の4つに分類できる[1]。
[編集] ホーミング誘導
[編集] アクティブ・ホーミング
[編集] アクティブ・レーダー・ホーミング
アクティブ・レーダー・ホーミング誘導装置(Active Rader Homing) (ARH)はミサイル自身が発信/照射装置を搭載して目標に電波ビームを照射し、目標からの反射波をミサイル前方のレーダーシーカーによって検知して反射波放射源(=目標)を追跡(Homing)する自動誘導方式であり、AMRAAMなど最新の空対空ミサイル、中SAMなど最新の地対空ミサイル、およびパトリオットPAC3のような弾道弾迎撃ミサイルに採用されている誘導方式である。
対艦ミサイル用としてはTVミサイルやARMのように目標の急所に精密に当たるわけではないのと、対地用に兼用できない欠点があるが、TVミサイルと違って撃ったあとの操作を必要とせず、大量に浴びせる飽和攻撃に適しているのと、ARMと違って敵がレーダー電波放射をやめても当たるのが好まれて現在においても対艦ミサイルの主力誘導方式の一つである。
ミサイル内蔵の照射機の電力は小さいのでARHシーカーの検知範囲は20 km前後であるが(赤外線は8 km)でミサイル射程は70-200 kmある場合が多いので発射してから目標20 kmに接近するまでは何か別の手段で誘導せねばならない。また、ミサイルに敵味方識別装置はないのでARHが味方を追い回しても困る。そういうわけで、通例 終末ARH/中間指令誘導という組み合わせで用いられて、発射後しばらくは中間指令誘導を行ってミサイルをARHシーカーの検知範囲まで「敵」に近づけ、そこでARHを覚醒させる。そしてARHが狙った目標にロックして自律的に追尾を始めたのを確認したら指令誘導母機は(敵の放ったミサイルから)退避するというのが一般的運用法である。
上記のように一般的にはARHは指令誘導と組み合わせるが、距離が比較的近くて目標が移動する暇もなく目標近くにARHミサイルが到着する場合や、対艦ミサイルのように目標が低速で目標が動いてもARHの検知範囲に収まるという場合は中間指令誘導は行わず、中間誘導はINSやGPSに頼る場合もあり、この場合は発射後、即離脱できる。最も初期のARH対艦ミサイルはこのタイプで、中間指令誘導なしのINS+ARHでも艦艇は航空機より遅いため射程70 km・飛行時間4分くらいの対艦ミサイルなら中間指令誘導なしでも当たった。しかし、射程1,000 kmのトマホーク対艦型は発射されてから1,000 km飛ぶのに1時間もかかる。発射時点の目標艦艇の座標A地点にトマホーク対艦型が到着した時には30 km/hの低速艦艇でも最初のA地点から30 km移動しているのでARH検知範囲20 kmの範囲外であって命中しない。そのため射程100 km以上の長射程ARH対艦ミサイルには中間指令誘導装置がつけられて、艦載ヘリコプターを前方展開して敵艦をレーダー追尾し、目標艦の新しい位置に従って中間誘導するようになった。ただし、この方法はヘリコプターが同時中間誘導できるARH対艦ミサイルの本数に限りがあり、数十から100本以上の対艦ミサイルを同時発射する飽和攻撃がやりにくいのと、ヘリコプターを撃墜されたら終わりなので有効性に疑問が持たれている。より実用的な方法として敵艦の直前30-40 kmほどで対艦ミサイルを急上昇させARHの検知視界を広く取って遠方に逃げた目標艦を捉えやすくするという方法が多くのARH対艦ミサイルで採用されている。
尚、ARH検知範囲を20 kmと表現したがそれは目標の大きさやステルス性で変化するので小型目標やステルスが相手の場合はARHミサイルの検知範囲は20km以下に低下してしまう。そのため最近は電波ステルスを意識した外形設計が流行している。但し電波ステルスは画像誘導やARMや赤外線誘導には有効ではない。
ARHと中間指令誘導が組み合わされている場合、普通、航空機/艦載射撃指揮レーダーと連動した射撃指揮コンピューターが自動的に各ミサイルに指令を送って誘導するので人間が手動で中間誘導する必要はないが、指令誘導中は航空機/艦載射撃指揮レーダーの視界に目標を捉えていないと、コンピューターは目標の座標がわからず誘導できない。そのため戦闘機でARH+指令誘導の空対空ミサイルを使う場合、AAMのARHシーカーが目標にロックさえすれば離脱してよく、SARHのように命中するまで離脱しないで照射を続けないと当たらないAAMより遥かに改善されたとはいえ、ARHであっても発射即離脱できるわけではなく、ARHシーカーが目標検知できるほどAAMが目標に近づくまでは、目標に機首を向けていなければAAMが命中しないのは注意を要する。
[編集] レーザー・レーダー誘導
レーザー・レーダー誘導装置(LADAR)は、レーザー距離計のレーザービームを高速で左右に振りながら上下をスキャンして、地面との距離を計測し、地面に出っ張っている、戦車や短距離弾道弾発射車両、自走砲、榴弾砲などの画像を得て、データーベースと照合して、目標認識し、自律的に追尾命中する装置。ミリ波レーダーに比べて探知範囲は更にせまく300m弱でしかないが、ミリ波レーダーより安価にまとまる可能性があるという。米空軍で開発中のLOCAASはラジコンジェット機のような超小型の巡航ミサイルにこのLADARを装着したもので、攻撃機から投下されてから数十km進出して敵上空に到達し、30分飛行滞空して自律的に索敵追尾命中するもので、誘導部をLADARで安くまとめ、巡航ミサイルの長距離飛行能力を利用して戦場を飛行しながらスキャンする事でLADARの探知範囲の狭さを補い、1発数百万円に価格を抑える事を目標としているという。
もし、本当に1発数百万円でまとまれば、革新的な兵器になろう。なにしろ母機やUAVで照射する必要がないし、ファイア・アンド・フォーゲットで安価で大量同時発射が可能で、射程が長くて、ランチャーが簡素で済むのである。それに戦争のコストの最大の部分は弾薬代なので安くて命中率のよい弾は戦争のコストや弾薬備蓄コストに大きな影響を与えるのである。
[編集] セミアクティブ・ホーミング
[編集] セミアクティブ・レーダー・ホーミング
セミアクティブ・レーダー・ホーミング誘導装置(Semi-Active Rader Homing )(SARH)は発射母体が装備する追尾(射撃指揮)レーダーによって目標に電波ビームを照射し、目標からの反射波をミサイル前方の受信専用レーダーシーカーによって検知して反射波放射源(=目標)を追跡(Homing)する自動誘導方式であり、ベトナム戦争時代に実用化したスパローをはじめ多くの対空ミサイルで未だに使われている。
SARHの反射波利用方式は「目標から円錐状」に放射されるのでビーム・ライディングと反対に目標に近づくほど精度が高まる。また照射ビームの中心軸が後逸しても目標が照射ビームの楕円錐に収まっていれば反射波に悪影響はない。SARHは試験射撃では素晴らしい命中精度を示し、初めて実用的な中長距離対空ミサイルとなり、米軍部はミサイル万能論にさえ傾いた。しかし同方式は下記のように実戦で思わぬ欠点を露呈し(下記SARHの欠点参照)、一転してミサイル懐疑論が起こりF-15戦闘機の設計にも影響を与えた。SARHは完全なレーダーセットをミサイルに積むわけではなく、レーダー発信部(照射部)は発射母体の大型レーダーに依存し、受信部だけミサイルに積んだ方式である。当時の技術では大電力を必要とする発信部までミサイルに積むARHは余りにも大型で高価になるので小さな対空ミサイルには無理であった。SARHは従来は対空ミサイルに多用されてきたが、攻撃ヘリコプターへのミリ波レーダー搭載に伴い、対戦車ミサイル(ヘルファイア)等でも使用されるようになった。
- 空対空ミサイルとしてのSARHの欠点
- ミサイルには受信部のみ搭載しレーダー発信部を母機に依存しているので、母機が攻撃を受けて目標照射(発信)をやめて離脱すると、誘導を失い全く当たらなくなってしまう。この欠点は試験射撃では露呈しなかったが、実戦に投入されてみると母機がミサイルが命中するまで目標を照射し続けるのは実施困難であった。空対空ミサイルなどで攻撃されてしまい、照射放棄して回避機動しなければならない場合が多発した。しかし、近距離赤外線ミサイルしか持っていない相手を相手の射程外から攻撃するのには使えたので、機関砲世代戦闘機を第1世代、赤外線ミサイル世代を第2世代、SARH時代の戦闘機を第3世代と呼ぶことがある。
- 艦対空ミサイル・地対空ミサイルとしてのSARHの欠点1(低空死角問題)
- 電波照射ビームは直進するために山の向こう側(山の陰)に隠れた敵のヘリコプターを照射できない。同様に地球は丸い曲面で、電波照射ビームは直進するために海面/地面上に設置された追尾ビーム照射機(射撃統制レーダー/MFCS/イルミネーター)は水平線/地平線の向こう側30 km先の低空にある敵の巡航ミサイルを照射できない。そのためミサイルの射程が150 kmあっても敵巡航ミサイルが低空を飛んでくる場合、30 km以内に接近して水平線/地平線に顔を出すまでは照射できない=手出しができない。現代の低空飛行するミサイルはそのSARHの欠点を突いた設計思想になっている。
- 注(追尾射撃指揮レーダー機能を持つものはMFCS、他の射撃指揮レーダーの指示通りに首を振って照射するだけの物をイルミネーターという)
- 対空ミサイルの目標が高高度を超音速で飛ぶ爆撃機だった時代には射程150kmを超えるSARH対空ミサイルが盛んに作られ、長射程の艦隊防空SAMが重要視されたが、目標の主流が超低空で飛行する対艦ミサイル(シースキマー)や対地巡航ミサイルになってからは、(水平線/地平線の向こうは照射できないので)主流である低空目標に対しては30km以上の射程は無駄な長射程になってしまった。
- 実際問題イージス艦が搭載する射程70 kmの艦隊防空ミサイルSM-2は40 km先で僚艦に低空で迫る対艦ミサイルを(水平線の向こう側だから照射できないために)撃墜できない。そのため長射程艦隊防空SAMは今でも重んじられているが、実際問題としては超低空飛行をする対艦ミサイルには「長射程対空ミサイルで艦隊全体をカバーする」という概念は通用しなくなってきていると言う指摘もある。
- 艦対空ミサイル・地対空ミサイルとしてのSARHの欠点2(同時照射数問題)
- 照射機が3つしかない艦は単純SARHだと同時3目標しか対応できない。
- イージス艦では終末SARH+中間指令誘導としてSARH誘導を終末の短時間に限定し、時間をずらして4回に分けて3発づつ撃ち、同時3発以上終末誘導段階にならないようにして3つしかない照射機を時間差で分け合って12目標に対応できるようになっている。一方、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦は6個もの照射機を艦上に並べている。SARHは同時照射目標数だけ照射機が必要なため50目標対応など、対応数が上がるにつれて苦しくなってゆく宿命を負っている。(ARHはミサイル自身が照射機を内蔵しているのでこの問題がない)
[編集] セミアクティブ・レーザー・ホーミング
セミアクティブ・レーザー誘導装置(Semi-Active Lazer Homing, SALH)は、レーザー照射装置からの反射光を捉え、その方向へミサイルを誘導する。空対地ミサイル、誘導爆弾や対戦車ミサイルで使用されている。レーザー照射は発射母機が行う事も、別の母機や地上の観測員が行う事もできる。安価(レーザー誘導爆弾キット100万円)で小型にでき、JDAMと違って低速動目標も撃てる。攻撃ヘリコプターの数が少なくても、小型輸送ヘリコプターや偵察ヘリコプターやUAVにレーザー照射装置を取り付けて敵戦車を照射し、攻撃機にレーザー誘導爆弾を落としてもらえば、ある程度攻撃ヘリコプターの不足を補えるしレーザー誘導爆弾は安価なので、GPS誘導のJDAM実用化後の現在でもレーザー誘導爆弾は主として動目標攻撃に多用されている。
欠点はSARHと同じで照射機はレーザー誘導兵器が命中するまで照射せねばならないが、実際の戦場ではホバリングして照射していたら携帯SAMが飛んでくるし、照射放棄したら命中しないことと、最近の戦車はレーザー警報機を持っており、照射すると戦車のレーザー警報機を鳴らしてしまう事と、煙幕を焚かれると命中しない事である。
戦車の対空装備が目視による重機関銃だけだった頃ならともかく、最近は戦車に携帯SAMを配給する例も増えており照射任務の危険度が増してきている。そういう訳でUAVの照射任務への利用やミサイル自身がアクテイブにレーザーを使って探知するLADARの開発が進められている。
[編集] パッシブ・ホーミング
[編集] 赤外線ホーミング
InfraRedを略してIRとも言う。目標のエンジンなどの高温部から発する赤外線を捉え、その方向へミサイルを誘導する誘導方式である。
赤外線ミサイルは最も早く実用的誘導精度に達したAAM誘導方式であった。レーダー装置が必要無くシステムが誘導装置単体で完結するため構造簡単で小型のミサイルに適し、母機のレーダーが貧弱でも問題なかった。目標が大きな熱源となるエンジンを持つ対空ミサイルで主用されている。またガスタービン機関の熱排気を目標とする対艦ミサイルもある。
初期の1波長赤外線誘導装置では太陽と目標のエンジンを区別できなかったり、陽射しに照らされた地上の物体が発する赤外線の中から目標を判別できなかったり、対向してくる敵機に撃てなかったりと制約が多かった。また目標がフレアなどの赤外線欺瞞装備を用いると目標を誤認する事がある。また赤外線誘導装置は使用する前にシーカーを冷却し感度を向上させ必要があり、液体窒素等冷却材ボトルの取り扱いが面倒で、AAMでは冷却時間で発射タイミングを逸し、再度狙うと冷却不足でロックしないことすらあったという。しかし、いろいろ問題はありながらも、AAMとして出現した朝鮮戦争時代は機関砲しか持っていない敵に対して優位に立てたし、後方機関銃座をもつ(しばしば核搭載)大型爆撃機を後方機関銃の射程外から赤外線ミサイルで撃って一発で撃墜できるメリットは大きかった。また携帯SAMは従来5億円のレーダー機関砲戦車が果たしていた任務を300万円の携帯SAMで行える事になり、レーダー機関砲戦車を駆逐するほど普及し、ヘリコプターの天敵となった。
- 2波長式
- 次に開発された2波長式は空力加熱される機体先端が放つ赤外線の波長も拾うことができ、対向して向かってくる敵機に向かって撃つことができるようになり、味方のジェット機や味方のミサイルを追いかける問題は改善した。面積の違いによって太陽を識別する誘導ソフトの改良で太陽に向かう問題も改善した。
- 赤外線画像(IIR)
- 最近の赤外線ミサイル・シーカーは常温作動フォーカルプレーンアレーを使った赤外線画像式が増えた。Imaging InfraRedを略してIIRという。感知距離が4 km以下だったのが8 km前後まで伸び、画像で目標をロックするので目標誤認の問題は劇的に改善されフレアにも非常に欺瞞されにくくなった。また常温作動になったので発射前の冷却によって発射タイミングを逃すことがなくなりメンテナンスも楽になった。ただし、価格も高価で直径の細い携帯SAMに載せるのが技術的に難しいのか、携帯SAMではIIRの普及はやや遅れている。因みに赤外線画像誘導の基幹部品の常温作動フォーカルプレーンアレーでは日本の民生技術が大きな貢献をしているという。
- 赤外線100kmAAM
- またアメリカは赤外線ミサイルは発射前ロック(LOBL)の短距離用という出現時の用途から発想の転換ができなかったが、ロシアでは戦闘機の戦闘教義で「敵戦闘機を確実に撃墜するためにレーダー誘導と赤外線誘導の2種類2本のAAMで攻撃せよ」と教えていた事もあってか、中間指令誘導と組み合わせた射程100km近いAAMであるアラモにおいても中間指令誘導+終末SARH版と中間指令誘導+終末赤外線版の2種類が作られ、西側とは違う独自の発達を見せていた。
- オフボアサイトの衝撃
- また、赤外線誘導・発射前ロック(LOBL)の場合、赤外線ミサイルシーカーの視野である「前方中心線左右15度の範囲の前に居る敵」しかロックできず撃てないのが常識であったが、ロシアは中間指令誘導と赤外線ミサイルを組み合わせて、赤外線シーカーを発射後ロック(LOAL)する技術を短距離ミサイルに応用するという発想の転換を行って、「IRSTが照準可能な前方中心線左右60度はIRSTが敵機のエンジン排気赤外線を追尾して、ロックしないで発射した赤外線画像ミサイルに敵機の座標を知らせて発射後ロック(LOAL)して命中させる」というオフボアサイト・ミサイルR-73 アーチャーを1985年頃に既に開発してMiG-29やSu-27に搭載していた。ソ連崩壊でドイツ統合で旧東独のMig-29を調査した結果、「MiG-29やSu-27と接近戦闘はするな」という通達が出される騒動となった。西側戦闘機のAIM-9Lは「前方中心線左右15度の前に居る敵」しか撃てないのに東側のMiG-29やSu-27のR-73は「前方中心線左右60度の横に居る敵」が撃てるのではドッグファイトで勝ち目はなかったからである。西側でもオフボアサイト赤外線ミサイルAIM9-Xが生産を始めたのは15年後の2000年になってからであった。しかしIRSTと指令誘導によるオフボアサイトは戦闘機のアビオニクス全般まで変更せねば実現できないために、多くの西側諸国で赤外線シーカーをジンバルに載せて首を振り、発射前ロックできる角度を広げた準オフボアサイト赤外線ミサイルが開発された。
[編集] パッシブ・レーダー・ホーミング
目標自身が発するレーダー波を捉え、その方向へミサイルを誘導する。対レーダーミサイルで使用されている。昔の物は目標となるレーダーの周波数に合わせて、その周波数だけを拾うシーカーに付け替えて出撃していたが、敵の対空ミサイルが偵察情報と違うミサイルで電波も違う物だった場合は、空中でシーカーを交換できず攻撃できないなどの問題があった。そこで米国のHARMはミサイルに多種にわたる敵のレーダー波のパターンを記憶させてあり、飛行中に母機が逆探知した敵のレーダー波によって敵レーダーの種類を特定してミサイルに敵レーダーの種類を伝えると、飛行中にミサイルシーカーがそのレーダー波だけを拾う設定に変更できるようになっている。
この特徴によって運用の柔軟性を増したが、事前に目標のレーダーが発するレーダー波の種類をデータベース化してミサイルに記憶させておく必要がある。そのため、近年のSEADには事前の電子偵察が不可欠である。
代表的ミサイルはHARMとKh31/YJ17である。また、亜種として空中のレーダーサイトであるAWACSやAEWを狙う対AWACSミサイルもパッシブ・レーダー・ホーミング誘導装置を搭載したミサイルの一種である。
[編集] 可視光ホーミング
TV誘導とは画像誘導とも呼ばれミサイル先端についたTVカメラで終末誘導を行う誘導装置である。初期は可視光画像誘導だったが、夜間/悪天候に強い赤外線画像誘導が最近の主流。
- 主用途
- 高速目標に向かないので、対艦・対地・対戦車に使われている。対艦用途では敵の防空艦が健在なときに100発近い対艦ミサイルを浴びせるような用途には向かないが(100発の画像認識ロックは大仕事である)ARMを大量に浴びせるのにTVミサイルを少数混ぜて撃ち、敵艦がレーダーを切ってSAMを沈黙させればARMは外れるがTVミサイルが「舵機」に当たり、レーダー全開でARM/TVミサイルを迎撃すればARMがレーダーに当たって防空機能を失うように追い込んだり、ARMでレーダーの目を潰され防空能力を失った敵艦の舵機室にTVミサイルを集中して足をもぐのに使うと効果的なミサイルであり、タクテイカルトマホークがそうであるように、対艦、対地両方につかえる。すなわち敵航空基地の管制塔とレーダーを吹き飛ばし、敵戦闘機を短時間離陸困難に陥れるのにも、敵補給路の橋を落とすのにも使えるのである。また高級な対戦車ミサイルシーカーとしても使われている。すなわち、SALH(Semi-Active Lazer Homing、後述)は戦車のレーザー警報機を作動させ、煙幕を炊かれてしまって当たらなくなるし、ミリ波レーダーは妨害電波の問題がある。しかし赤外線画像誘導であれば当方からレーザーも電波も照射せずに敵車両の放射赤外線を捉えるパッシブ(受動)式なので第一撃を与えるまでは気づかれにくいという長所がある。反面SALHは60 mm迫撃砲弾にも適用可能で安価であり、ミリ波は81 mm迫撃砲弾にも載り大量発射可能だが、赤外線画像誘導は120 mmないと載らないほど大きく・重く、高価で、画像ロックが必要で大量同時発射に向かない。
- 長所
- 当てたい場所にCEP3-6 mで当てられる事、GPSと違って動目標に使えること、SALA(レーザー誘導)と違って発射後離脱可能にもできること、対艦/対地両用にできること、命中の瞬間が画像に撮れるので戦果確認の手間が省ける、レーダー誘導より電波妨害に強い等。
- 短所
- GPSと違いロックに手数がかかり多数発射に向かないこと、GPS/SALAより高価な事、視野が狭くレーダー式より中間誘導に精度が求められる事、超音速ミサイルには使いにくい事等
歴史的には命中するまで手動誘導が必要な画像誘導(ウォールアイ)に始まり、一旦画像内の目標像を人間が指示すればコンピューターが画像認識してロックし、以後目標と背景をコンピューターが自動的に識別して目標を自律追尾する画像認識誘導(マベリック)に改良されて母機はすぐ離脱可能になった。その後、発射前に目標に母機が身を晒して近づいて翼下につるしたミサイル・シーカーに目標を見せて発射前画像認識ロックをしないでいいように、ロックしないで発射したミサイルがGPS+中間指令誘導で目標に近づき、画像を無線で180 km後方の母機に伝送し、180 km離れた母機から画像認識誘導を発射後ロックできるように改善した(SLAM)などの画像認識伝送誘導に発展し、駆逐艦から発射した低空飛行する巡航ミサイルが目標付近から地平線に邪魔されずに1,000 km後方の母艦に画像を送り・誘導指令を受けるため通信衛星で中継するタクテイカルトマホークの衛星画像伝送誘導(普通は衛星画像誘導とか衛星TV誘導と略称する)に発展してきている。
[編集] 指令誘導
[編集] 目視探指令(LOS指令)
[編集] MCLOS
外部の誘導装置がミサイルに対して進路補正命令を何らかの通信主段で送信する方式。最も初期の誘導爆弾であるフリッツXやAZONでは人間が目測で進路のずれを観測し、操縦装置を操作して有線でミサイルに対して進路の補正を命令した。この方式はリモコン操縦方式とも言われている。同様に初期の対戦車ミサイルでは人間が照準装置で目標を照準し照準線とミサイルの進路とのずれを計測し、操縦装置を操作して有線でミサイルに対して進路の補正を命令した。この方式は手動指令照準線一致誘導方式(Manually Command to Line Of Sight、MCLOS)と言われる。
[編集] SACLOS
手動誘導ミサイルの命中率は操作員の技量に左右されるため、その後は自動誘導装置が開発された。西側の代表的な対戦車ミサイルであるTOWでは半自動指令照準線一致誘導方式(Semi-Automatic Command to Line Of Sight、SACLOS)が採用された。この方式では人間が照準装置で目標を照準し照準線とミサイルの進路とのずれを誘導装置が自動計測し、操縦装置が有線でミサイルに対して進路の補正を命令する。操作員はミサイルが命中するまで目標を照準しつづけなければならないため、半自動とされる。技術的に簡単、安価なので単価が安い対戦車ミサイルによく使われる
[編集] ビーム・ライディング
発射母機から目標に照射した電波等のビームをミサイル後方のセンサーで検知して、ビームに乗り続けるよう自動制御する方式。初めて出現した(機械化)自動誘導方式でMCLOSの手動誘導より優れていたが、電波ビームは「目標へ楕円錐状に広がる」ので目標近くで精度が低下するのと、電波ビームを照射する追尾レーダーの追尾が遅れ、照射中心軸が後逸するとミサイルも後逸する欠点があり、目標からの反射波を追跡するSARHに取って代わられた。(この時代の対空ミサイルは核弾頭を積んで爆撃機の大群に向けて撃つような用途にしか使えない命中精度しか期待できなかった)
[編集] 中間指令誘導
中間指令誘導とは、発射後、ミサイルが終末誘導シーカーの検知範囲に目標を捉える前の中間誘導段階において、飛行中のミサイルに対して、データー通信によって指令を与え、着弾点や飛行コースの設定を遠隔操作で変更して目標の新しい位置に誘導する事を言う。
そのほかに、ミサイル内のコンピュータに与えられたさまざまな設定の変更を遠隔操作で行なうことも中間指令誘導に含める場合もある。 たとえば巡航ミサイルの目標を変更する場合、ミサイルに内蔵するDASMAC目標形状データーライブラリのなかから発射時点では目標形状Aを選択設定していたのを発射後、中間誘導段階で指令電波を送って目標形状Bに設定しなおし、更に着弾点をAの位置からBの位置に設定しなおし、必要なら飛行経路を設定を変更する場合などがこれに該当する。
現代のミサイルの多くの重要な機能は中間指令誘導によって実現している。その意味で極めて重要な誘導方式と言える。
- 長射程ミサイルや対高速目標ミサイルとしての必要性
- INSとコンピューターの利用によるオートパイロットによって、弾道弾だけでなく巡航ミサイルや対艦ミサイル、(対空ミサイルでさえ)「妨害に関係なく、あらかじプログラムされた飛行経路を通って、プログラムされた着弾点に着弾する」事はできるようになったし、「INSは長距離飛ぶと着弾地点の誤差が大きくなる」というINSの欠点もGPSの併用で改善された。
- しかし、いくらミサイルが「発射時点に狙った位置」に正確に着弾しても、ミサイルが発射されてから着弾するまでの間に、目標は動いてしまう。その誤差が「終末誘導シーカー検知範囲内」なら命中するが、終末誘導シーカーの視野の外にまで目標が外れてしまうとミサイルであっても当たらない。
- 別の言い方をすれば検知範囲8 kmの赤外線ミサイルシーカーや検知範囲20 kmのARHシーカーで射程80 kmの対空ミサイルを作ろうと思えば、発射してから目標近く(8 km/20 km)にミサイルが近づくまでは赤外線やARHではない何か別の誘導方式でミサイルを操って、(終末誘導シーカーが検知可能な距離まで)目標に近寄せてやらなければ対空ミサイルとして成立しない。対艦ミサイルなら目標が遅く、80 kmの中射程なら発射から着弾までの間に目標が移動できる範囲は小さく、多少動いても終末誘導のARHシーカーの視界内に収まるが、対艦用トマホークの1,000 kmのような長射程だと発射から着弾まで1時間もかかるため遅い艦艇でも数十km動いてしまいミサイルの飛行中に中間指令誘導で着弾地点の設定を変えないと目標がARHシーカーの視界外に出てしまう。そのようなわけで中間指令誘導が必要とされた。
- 多目標撃ち分け
- レーダーシーカーにせよ赤外線シーカーにせよ、敵味方識別機能も目標指定機能もない。
- たとえば、対艦ミサイルへ、中間指令誘導なしでレーダーシーカー対空ミサイル10本を撃ったところに、コントロールを失った味方戦闘機が突っ込んでくれば、対空ミサイルは10本ともレーダー反射面積の大きい味方戦闘機のほうへ飛んでゆき、敵対艦ミサイルはノーマークで突入してくると言う事が起こりうる。そうでなくても、対艦ミサイルAに複数集中して対艦ミサイルBがノーマークというのは起こりうるのである。
- そういうわけで中間指令誘導があれば「母艦/母機の射撃指揮コンピューター」が母艦/母機(または友軍)のレーダーからの「飛行物体位置/ベクトル情報」や敵味方識別装置からの「敵味方識別情報」を元に、敵と識別した飛行物体のみを「敵Aは対空ミサイル1が担当、敵Bは対空ミサイル2が担当・・」と言う風に各ミサイルに目標として割り当てる事ができる。「中間指令誘導で敵に近寄せてから終末誘導を発動させる」のが「多目標撃ち分けや誤射回避」の原則である。
- 多目標同時交戦
- また、戦闘機には1個、艦艇には3個ほどしか照射装置がない。イージス艦においてもそれは同じで中間誘導のないSARHなら3目標しか同時交戦できないが、飛行時間の殆どを射撃指揮(戦闘指揮)システムであるイージスシステムが中間指令誘導で統制し、SARHの終末誘導の時間を少なくしたため、時間をずらして3発づつ4バースト12発発射して12目標と同時交戦ができる。F-4 ファントム戦闘機がAIM-7を使って同時交戦できるのは1機のみで、飛行機の電力ではフェーズドアレーにしても8本の照射ビームを実用的な頻度で8目標に照射するのは困難である。F-14 トムキャット戦闘機が扇型に6目標に6本のフェニックスミサイルを撃って6目標同時交戦できるのは中間指令誘導(6-8目標100 km先まで撃ち分けでき、低消費電力だが、誘導誤差が50-100 m以上はある)とARH(撃ち分け困難、検知範囲20 km、低消費電力、誘導命中誤差10 m内外)と近接信管(目標・20-30 mで点火爆発)の組み合わせあればこそである。
- オフボアサイト(横の目標を撃つ)
- たとえば中心線から左右15度の視界を持つ赤外線ミサイルをパイロンに積んでロックしてから撃つ場合、「前の敵」(中心線左右15度)しか撃てない
- しかし、R-73(AA-11 アーチャー)のように、赤外線ミサイルに中間指令誘導を組み込み、戦闘機の中心線から左右60度の視界を持つIRSTからの敵位置情報を元に、戦闘機の射撃指揮装置がR73赤外線指令誘導ミサイルを中間指令誘導できるシステムの場合、ロックしないでミサイルを発射し、中間指令誘導によって60度右に居る目標に赤外線指令誘導ミサイルを指向させ、発射後にミサイルシーカーの狭い視界に目標を見せてロックする事ができる。つまり、赤外線ミサイルに指令誘導を組み合わせれば「横の敵」(中心線左右60度)も撃てる。これは近接戦闘での赤外線ミサイルの撃ち合いでは決定的に有利である。
- ミサイルの近縁種の誘導魚雷について言えば、昔の潜水艦はしばしば後ろに撃てる魚雷発射管があった。船の回頭には時間がかかるから、後ろに魚雷発射できたほうが潜水艦同士の戦闘で有利だったからだが、最近の潜水艦は後ろに発射管がない。これは有線中間指令誘導+音響ホーミング終末誘導というのが最近の魚雷の主流だからで、有線中間誘導魚雷は艦首の発射管から発射して後ろの敵を撃てるからである。
- 垂直発射
- 軍用艦艇が損害を受けた場合、片側に浸水して転覆する場合が割と多いので転覆しにくい重心の低い船である事が重要である。また、対空ミサイルをシーソー型の在来ランチャーで発射する場合、同時に2発しか撃てず、次の2発を撃つのにも時間がかかる欠点があり、発射速度向上が急務であった。
- そういう訳で最近の軍用艦は上向きに束ねられたミサイル発射管、兼、弾薬庫であるVLS(垂直発射システム)を船体に埋め込み、重心の切り下げと発射速度向上を目指している。しかし、このVLSによって上に打ち上げられたミサイルが方向を変えて、海面すれすれを迫る敵の対艦ミサイルを迎撃できるのもミサイルの中間指令誘導のおかげである。ロケットで音響ホーミング魚雷を敵潜水艦の上に投げ込むアスロックという対潜ミサイルも、VLSから発射するバージョンには中間指令誘導が追加されたのである。
- また、高速で都市の上を飛行する攻撃機はビルとビルの間が見えにくいし、森林の林道の車両も上空から見えにくい。敵機に目の仇にされる対空ミサイル車両と対艦ミサイル車両は垂直発射が可能であれば、敵機に対する生残性が非常に向上する。そういうわけで、陸上自衛隊の最新の対空ミサイル中SAMは垂直発射可能であるが、垂直に上に発射したミサイルが低空を飛ぶ巡航ミサイルを迎撃できるのも中間誘導のおかげである。
- 目標の発射後指定、目標の発射後変更
- 小さな翼しかもたない砲弾のようなミサイルを仰角45度で打ち上げるより、ミサイルに長い折畳み翼をつけて上空で展開し滑空させたほうが飛距離は伸びる。酸化剤を積む固体ロケットより、酸化剤は空気中の酸素を使うジェットのほうが燃料を2倍積めるので射程は2倍に延びる。そんなわけでトマホークのような亜音速で飛ぶ有翼ジェットエンジン巡航ミサイルと言う形式が、エネルギー効率上最善であり、1,000km飛ぶ弾道弾は31 tなのに1,000 km飛ぶトマホークがたった1 tで収まり広範囲な発射母体から発射できる弾に仕上がった理由もそこにある。終末誘導においても亜音速ならGPSまたはTV誘導によって戦闘機基地の管制塔でも、フセインが昼食中のレストランでも当てたいところにピンポイントで当てられる。しかも、味方の戦闘機が撃墜される心配もないので敵防空網が生きている間は非常に重宝である。これがトマホークが極めて成功したミサイルと言われる理由だが、イラク戦争では不具合も発見された。フセインの居るところに向けてトマホークを発射したのだが、1,000km飛ぶのに1時間かかったため、着弾する頃にはフセインが移動したあとだったのである。そこで新型のタクテイカルトマホークは衛星中継指令誘導を応用して、発射したあとで着弾点や目標を変更したり、先に撃って敵地上空を旋回させておき随時目標を指定して攻撃したりできるようにするという。つまり中間指令誘導が、遅いというトマホークの欠点を補うのに必要なのである。
- ただし無線リンクは電波妨害(ECM)が可能なので、対電波妨害(ECCM)に意を払う必要がある。ただし、ラジコン飛行機や昔の無人ヘリDASHなどはGPS・INS利用のプログラム自律飛行制御がなかったので、誘導電波の中断は即、墜落につながったが、現代のミサイルはGPS/INSによるオートパイロットが組み込まれているので「中間指令誘導が妨害されても、自律飛行制御なので墜落せず、弾道弾同様、当初予定した着弾地点に向かって飛行を続ける」能力をもっている。また目標地点の修正の指令データー量はたった数字数十字のデーターであるうえ、チェックデジットの利用により不完全受信の認識と再送信依頼ができるので、中間指令誘導の妨害はレーダーホーミングの妨害の数倍難しい。(但し画像伝送や音響伝送はデーター量が大きいので、座標データーの伝送妨害よりは容易である)
[編集] プログラム誘導
[編集] 慣性航法
慣性航法装置(Inertial Navigation System)は主に長射程ミサイルの中間誘導に使用され、弾道ミサイル、巡航ミサイルと長射程の対艦ミサイルなどに用いられる。慣性航法装置にはジャイロを用いた加速度計が装備されミサイルに加わった加速度と方向から事前に設定された進路とのずれを計算し、ずれを補正するように制御装置に司令を出す事で進路を保つ。核弾頭を搭載する弾道ミサイルでは終末誘導装置を持たずに慣性航法装置だけを搭載するものも多い。これは大威力の核弾頭を用いれば着弾誤差がかなり大きくなっても目標を破壊することができるためである。慣性誘導は地形など外部からの信号を観測することなく飛行できるため、この誘導を妨害することは撃墜しない限りは不可能である。
[編集] 電波航法
GPS誘導とはGPS衛星からの電波をもとにミサイルを固定目標へ誘導する。アメリカの誘導爆弾であるJDAM、改良型トマホーク巡航ミサイルであるTACTOM、対レーダーミサイルであるHARMで使用されている。
[編集] GPS補正
GPS補正誘導とは短距離弾道ミサイルや誘導砲弾、誘導ロケット弾の落下終末段階でGPS衛星からの電波をもとにミサイルを固定目標へ誘導する。なお、米軍のGPS衛星以外の同機能の衛星ガリレオ、北斗、Glonussによる誘導もGPSと俗称する。
中国の短距離弾道ミサイルDF15は終末GPS+北斗によって慣性誘導を補正しCEP30-50 mを得ているという。アメリカのMLRS用ロケット弾M30や155 mm誘導砲弾にGPS誘導が使われる予定。
[編集] 地形照合
地形照合による誘導は巡航ミサイルの中間誘導に使用される、トマホーク巡航ミサイルに搭載された地形照合誘導装置はテルコム(TERCOM、TERrain COntour Matching)と呼ばれ、地表へ電波によるスキャンを行い、事前にミサイルに登録したデジタルマップとの比較で進路のずれを計算、補正を行う。
[編集] 恒星天測航法
弾道ミサイルの中間飛翔行程で使用され、事前に設定された特定の恒星の方向からミサイルの現在位置を算出、進路を補正する。
[編集] 複合誘導
[編集] TVM
ミサイル経由による追跡(Track Via Missile)をする方法であり、パトリオット地対空ミサイルに採用された誘導方式。
ミサイルの先端のSARHシーカーが得た各種情報を、地上装置に伝送して処理し、誘導等の指令を行う。つまりSARHの受信専用レーダーシーカーについているノイズフィルタコンピューターを地上に移し、地上の高価高能力のコンピューターで妨害電波や、各種ノイズを除去して高い誘導能力と高い耐妨害能力を狙ったもの。たとえば低空を飛ぶ巡航ミサイルに電波を照射すると、地面や背景の山からも電波が反射してしまい(グラウンド・クラッターという)ミサイルのシーカーが幻惑されるので、反射波の波型で動いている敵ミサイルからの反射波と動かない山からの反射波を区別して山や地面からの反射をノイズとして除去するのに地上コンピュータの力を借りたり、間欠的に感があった座標を結んで敵ミサイルの現在/未来位置を推定したり、妨害電波を除去するのに地上コンピューターの力を借りた。パトリオットが求められた高度な処理をおこなうコンピューターをミサイルに搭載して使い捨てにするのは不適切だったし、当時はまだコンピューターの小型化、高能力化、低価格化が発展途上だったこともある。
ただし、高性能だが余りにも複雑なシステムになりすぎ、コスト上必ずしも有利ではなかったと言われる。
[編集] 有線画像誘導
ミサイル先端のTVシーカーに経由による追跡。TVMの画像版。高価な誘導装置を使い捨てにしないという意図で始められたが、画像シーカーは視界が狭く中間誘導が技術的に困難で、ミサイル価格は別として母体の値段が高くなってしまうという問題を抱えている。
ドイツのポリフェム・ミサイルでは高価な誘導装置を使い捨てにしないようにミサイルには観測装置のみを搭載し、発射母機に搭載された自動誘導装置と光ファイバーを通じて観測情報と操縦情報をやりとりする指令誘導で目標へ誘導する方式が採用されている。
陸上自衛隊の装備する96式多目的誘導弾システムでは、光ファイバーを利用した有線通信により飛翔体と地上装置間のデータ通信を行っており、誘導手は、飛翔体のシーカが捉えた赤外線映像をリアルタイムに確認しながら誘導を行うことができる。
[編集] 脚注
- ^ 『ミサイル工学事典』 p.60
[編集] 参考文献
- 久野治義 『ミサイル工学事典』 原書房、1990年12月、623頁、ISBN 978-4562021383