リーダーズ・ダイジェスト
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リーダーズ・ダイジェスト(Reader's Digest)は月刊の総合ファミリー雑誌である。2004年、アメリカ合衆国版のリーダーズ・ダイジェストは毎月1250万部を発行し、読者数は4400万人に達した。近年は減少傾向にあるが Audit Bureau of Circulation によればリーダーズ・ダイジェストは米国の総合雑誌の中では最も発行部数が多く、これより発行部数が多いのは全米退職者協会(AARP)の会員向けの出版物だけだという。
リーダーズ・ダイジェストは、政治的には保守で、楽天的であり、アメリカ至上主義を貫いていることで知られている。
大きな版型のReader's Digest Large Type、カナダ版、スペイン語版 Seleccionesなども出版されている。
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[編集] 歴史
デウィット・ウォレスは、第一次世界大戦で負った傷から回復する間に、多くの大衆雑誌の記事を要約した内容を含む雑誌のアイデアを思いついた。デウィットとカナダ生まれの妻ライラ・ウォレスは、1922年2月5日にリーダーズ・ダイジェストを創刊。当初は自宅の庭で始めた。通信販売で、1部10セントである。1929年、新聞雑誌売り場で売られるようになった。1935年には100万部を突破。アメリカ版の通算100億部目は1994年に発行され、アメリカ版1000号目は2005年8月号であった。
[編集] 記事の傾向
リーダーズ・ダイジェストの記事には、オリジナルの記事、他の雑誌から転載された要約記事、本の抜粋、ジョーク集、逸話、引用、その他の短い記事がある。ウォレスが設定したこの雑誌の目標は、一ヶ月間の毎日に対応した記事数で「価値と興味を長持ちさせる」ことである。
リーダーズ・ダイジェストの記事がカバーする話題の範囲は、政治と政府、健康、国際問題、ビジネス、教育、ユーモアなどである。忙しい読者があまり時間をかけずに様々な話題について行くことができるよう、記事はなるべく短くされる傾向がある。連載コーナーとしては、"Word Power"(語彙に関するクイズ)、"Life in These United States"(読者から投稿された逸話集)、"Laughter, the Best Medicine"(読者投稿のジョーク集)がある。
[編集] 編集方針
リーダーズ・ダイジェストは、アメリカでも最も慎重に編集された雑誌のひとつだと言われている。記事の信憑性がチェックされ、最終的な記事のレベルがリーダーズ・ダイジェストに掲載されるに値すると保証するため、精巧な編集階層でコントロールされる。そのディスクールは極めて均質で、この雑誌がアメリカ社会の重要な多数意見と考えている特定の保守的価値観を明瞭に示している。
リーダーズ・ダイジェストのモデルは世界各国に導入されている。その際にアメリカ製品として雑誌をそのまま発行するのではなく、ローカルな内容を加えてその国に向けてカスタマイズしている。ローカルなリーダーズ・ダイジェストは一般に、雑誌のアメリカ的性格を曖昧にしておこうとする。
各号は同じ構造を持っている。まず1つのサバイバルストーリー("Drama in Real Life")。1つ以上の個人の成功ストーリー。医療に関する記事。人間関係の道徳話がいくつか。実用的なアドバイスがいくつか。官僚制、犯罪、過激なイデオロギーなど雑誌の政治的主張と一致しない政治的問題に関する糾弾記事。
記事の内部構造も精巧にモデル化されている。例えば、サバイバルストーリーでは、ドラマ中盤の宣伝的な部分がまず置かれ、その後でドラマの最初から詳しく説明していく。救助は最後の段落には来ない。最後の段落には、初期の平和を取り戻し教訓を述べる部分が必ずある。最後の文は、神への感謝か、救助者の得た勲章への言及である。
リーダーズ・ダイジェストには3種類の文書がある。第1のグループは、他の雑誌からの転載要約記事である。抜粋と要約はそれぞれ別の編集者が行い、3人目の編集者がその内容をチェックする。さらに少なくとも2名の上級編集者がチェックして承認(または訂正)する。同じことは独自の記事にも当てはまる。ライターが書いた記事は、同じように抜粋と要約とチェックの工程を経て掲載される。
数十年間、他の雑誌からの要約記事は全体のせいぜい30から40パーセントを構成する程度である。しかし、リーダーズ・ダイジェストは転載雑誌として、米国や海外のジャーナリズムのディスクールの概要としての立場を堅持し続けている。
[編集] 世界観
以下はリーダーズ・ダイジェストのディスクールを構成している基本的価値観の一部である。
- 個人の成功:リーダーズ・ダイジェストに登場する人物は不運や社会的規制や病気と闘い、彼らの武器は勇気と団結と神の救いの手だけである。
- 楽天主義:多くのリーダーズ・ダイジェストのストーリーはハッピーエンドで終わる。そうでない場合として、まだ困難が多く残っていることを認め、アドバイスを与えて終わることもある。
- 道徳的保守主義:リーダーズ・ダイジェストは当初から性に関して非常にオープンだが、伝統的な結婚、国家や規範への忠誠、慈善活動などに公然と賛成し、フェミニズムや自由恋愛や積極的差別是正措置には反対している。
- 自由市場経済:ほとんど毎号、税制、政府規制、予算増、労働組合に反対し、共産主義にも長年反対している。
[編集] 海外版
リーダーズ・ダイジェストはアメリカ発祥だが、その海外版によって世界的なベストセラー雑誌となった。全世界の発行部数合計は2100万部で、読者は1億人を超える。
最初の海外版は1938年にイギリスで出版された。現在では50の版と21ヶ国語で出版され、61ヶ国で購読されている。2006年にも、スロベニア、クロアチア、ルーマニアで新たな版をマーケティングして拡大を続けている。中国語版の表題は「读者文摘」(読者文摘)。
50%を占める49の海外版はアメリカの本部からコントロールされる。2つか3つのローカルな記事を除いて、アメリカおよび他の国からの記事を集め、そこから全世界向けの記事が作成される。ローカルな編集部門はアメリカ版と他国版から記事を選択し、アメリカ本部から承認されてローカルな記事を作成する。選択した記事は現地で翻訳され、アメリカ版のスタイルに合うように現地で編集される。
[編集] カナダ版
カナダ版は1948年2月に創刊され、現在では大部分はカナダ独自の内容である。例えば2005年8月号の主な記事はローカルに書かれた記事であり、リーダーズ・ダイジェストのスタイルに合うように編集されたものである。通常は少なくとも一つの主要記事がアメリカ版から採用されている。
"Life's Like That" は "Life in These United States" のカナダ版である。他のタイトルはアメリカ版のものをそのまま採用している。最近の "That's Outrageous" という記事ではカナダの Calgary Sun 紙から論説を転載している。
[編集] 日本版
日本版は1946年6月に創刊され、1986年2月まで発行されていた。誌名は『リーダーズ ダイジェスト』だが、「リーダイ」の略称で親しまれた。当初はほとんど全体がアメリカ版の翻訳だったが、1970年代中頃から日本語版オリジナルの記事が3割ほどになっていた。書店では販売されず、定期購読のみであり、通信販売の広告が非常に多い雑誌でもあった。
[編集] 関連文献
- 塩谷紘・著 『「リーダイ」の死 -- 最後の編集長のレクイエム』 サイマル出版会 1986年7月 ISBN 4-377-30712-6
[編集] ローカライズ方針
輸入されたアメリカ製品がしばしば現地の文化的独自性への脅威と見なされることがあるが、リーダーズ・ダイジェストの海外版はそうならないように非常な努力をもって編集されている。ローカル版の中の広告は現地スタッフが管理していて、現地の製品などの広告となっている。
多くのアメリカの記事はローカルな内容と統合される。例えば、飛行機を使った旅行に関する記事では、ジョン・F・ケネディ国際空港は現地の空港と差し替えられ、アメリカの航空会社名は現地の航空会社名に差し替えられる。現地の統計情報を追加したり、通貨単位や計測単位も変換される。ローカルな名前、風景、写真、引用がオリジナルから差し替えられることもある。これらの操作は「適応(adaptation)」と呼ばれている。国際的な規則に従って現地の編集者がこれを行うが、アメリカ本部はこれに特に口を挟まない。
同様な差し替えとして、数々の逸話を現地の逸話に差し替えることもある。
現地文化の微妙な点に触れるような記事は掲載されない。例えば、イタリア版はカトリック教会に批判的な記事を掲載しないかもしれない。一般に海外版では、内容がアメリカの国内事情に限定されるものは掲載しない。ごく一部だが、現地のライターが書いた現地記事も掲載される。
[編集] 外部リンク
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