レコーディングエンジニア
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レコーディングエンジニアはレコード、CDなどの音楽録音物の制作に従事し、音響の調整と録音などの技術を担当する職業。音楽界では単にエンジニア、ミキサーと呼ばれることが多い。
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概略
レコーディングエンジニアの第一の責務は、レコーディングにおいて歌や演奏を的確によりよい音で録音することにある。エンジニアという専門職が必要とされるのはそこに電気機器が介在するからであり、よい耳と音楽の知識・素養、機器の使い方だけでなく、最低限の電気工学、音響工学の知識が必要とされる。
エンジニアは音と最も近い立場にいることから、アーティストやプロデューサー、ディレクターとの信頼関係が重要になり、抽象的な意味での音楽面にも深く関わる。特にミキシングはエンジニアの個性が最も顕著に表れる作業であり、この善し悪しでエンジニアが選定されることが多い。
音楽面への深入りの仕方は人によりけりで、あくまでもエンジニアとしての客観的な立場を崩さない人もいれば、主観的な立場で積極的に音楽に関わろうとする人もいる。後者にはエンジニアの立場に飽き足らず、プロデューサーとして活躍の場を広げる人もいる。また元のエンジニアとは別の自由な立場でリミックスを手がけることもある。ただアラン・パーソンズのように、エンジニアがアーティストとしてデビューする例は非常に珍しい。
逆にアーティストがエンジニアの役割を担うこともあるが、ミキシング程度に限られる。工学知識をもとにエンジニアリング全般を手がけるトム・ショルツのような例は珍しい。ただ近年では安価で高音質なデジタル録音機器が普及したことで、低予算のプロジェクトではアーティストがエンジニアを兼務することも多くなっている。エレクトロニカのような音楽と音響が一体化した分野でも同様である。
レコード制作時の作業
レコーディング
- マイクの選定、設置。
- 音質や音量レベルの確認・調整。モニタースピーカーの調整。
- テープやハードディスクなどのマルチトラックレコーダーへの録音。
ミキシング
- 歌や楽器のバランスの調整。
- テイクの切り替え、切り貼り、ノイズの除去などの編集。
- エフェクターなどを使用した音質の調整、色づけ。
- DATやCD-Rなどの2チャンネルマスターへの録音。
- 複数のトラックをステレオ2チャンネルにまとめることから、ミックスダウン、トラックダウンとも呼ぶ。
- レコーディングを担当したエンジニアがミキシングも担当することもあれば、ミキシングは別のエンジニアが担当することもある。明確な分業制はとられていない。
マスタリング
- 全体的な音質やレベルの調整。
- 曲順や曲間の設定。
- Uマチックなどの原盤マスターへの録音。これがCDやレコードのプレス工場へ送られる。
- スタンパー(金型)を作る際も音質の微調整が行なわれる。アナログレコードの場合はスタンパーの前工程としてラッカー盤に溝を刻むカッティングエンジニアがいる。
- マスタリングは基本的に分業制がとられ、マスタリングエンジニアが担当する。詳細は当該項目を参照。
雇用形態
日本国内におけるレコーディングエンジニアの雇用形態はいくつかのパターンに分類できる。
- 録音スタジオやプロダクションが社員として直接雇用契約をむすぶもの。
- エンジニアの派遣会社に所属して契約関係にあるスタジオに派遣される形態。日本では1980年代半ばから見受けられるようになった。
- フリーランスとして発注者からの指名を受けて選択されたスタジオなどで作業をおこなう形態。特定のスタジオには所属しない。
一般に音響系専門学校あるいは大学を卒業した後にスタジオに就職して見習いから始めるが、昨今はPCを中心としたDAWによるワンマンオペレートが主流のためにアシスタントの作業量が減っていることから、各社とも新人教育の方法を模索している。
昨今では作曲の段階からPC上で作業が完結することもあり、否応なしに作編曲家がDAWの操作をしなければならないケースも多く、この分野からエンジニアに転身するケースも多い。
レコーディングエンジニアからマスタリングエンジニアに転身する人は相応の割合でいるが、逆は様々な理由から困難が伴う事が多い。
女性の就業比率は男女雇用機会均等法の施行以降に女性の進出が見られたが、長時間労働などの面などからさほど多くはない。