図書館戦争
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『図書館戦争』(としょかんせんそう)は、有川浩/著、徒花スクモ/イラストの小説。メディアワークス刊。著者の初めての単行本書き下ろしである。2007年2月現在で3巻『図書館危機』まで刊行中。第1巻は『本の雑誌』が選ぶ上半期エンターテイメント第1位、また、2007年『本屋大賞』で第5位に輝いた。
目次 |
[編集] あらすじ
時は2019年、公序良俗を乱し、人権侵害の表現を取り締まる『メディア良化法』が施行された現代。強権的かつ超法規的な『メディア良化委員会』と、その実行組織『良化特務機関』の言論弾圧に唯一対抗できる存在、それが図書館だった。かくして図書館は武装し、良化機関との永きに渡る抗争に突入することになる。図書館の自由を守るために。
[編集] 作中設定
[編集] 図書隊
図書館が『図書館法』(後述)を根拠に良化特務機関に対抗するため設立した独自の防衛組織。全国10地区に図書隊基地を設置している。国家機関である良化機関に対するため広域地方行政機関としての性質を持ち、独自の人事、予算管理を行う。これは『中小都市における公共図書館の運営』(通称『中小レポート』)により、国立国会図書館以外の全図書館が地方自治体に属し、中央組織が存在しないためだが、そのために資金面の課題も存在する。
発足当初は警備隊程度の規模だったが『日野の悪夢』を最たる例とする良化機関の検閲での示威行為のエスカレートなどに伴い、図書隊の防衛力も強化され抗争は激化している。図書隊としては専守防衛が基本ではあるが実戦経験においては警察はおろか自衛隊をもしのぐとさえ言われる。また両者ともに超法規的解釈により、戦闘でも第三者の生存権、財産権を侵さない限り、例え双方に死傷者が出たとしても司法が介入することはない。
[編集] 図書隊の組織構成
- 業務部
- 通常の図書館業務専門の部署。図書館員が所属する。
- 防衛部
- 防衛業務を担当する部署。防衛員が所属する。
- 図書特殊部隊(ライブラリー・タクスフォース)
- 主に防衛隊員から選抜される精鋭部隊。関東図書隊では総勢50名弱。通常図書館業務から大規模制圧戦まで様々な任務を行う。
- 後方支援部
- 蔵書や戦闘装備の調達整備、その他物流一般を担当する部署。この部署は管理職以外は一般の商社にアウトソーシングする。
- 総務部
- 図書隊人事などを管轄する。
なお、この他に実験構想中の諜報機関として情報部が存在する。
[編集] 図書隊の問題
- 原則派と行政派の対立
- 図書隊内での派閥対立とも言えるのが原則派と行政派の対立である。図書隊員は多くが図書館の原則と独立性を重視する原則派と、図書館を行政のコントロール下に置くべきとする行政派に別れる。もちろん各派内にも主張の違いはあるものの、概ね両派は折り合いが悪い。
- 組織体制
- 図書館各館が独立運営だった法施行前の体制を反映し、図書基地司令と図書館長は同位の特等図書監である。そのため基地司令は有事の際しか区域内の図書館の管轄権限を有しておらず、館長にも異議の提案権が認められている。
[編集] 図書隊員の階級
- 特等図書監
- 図書基地司令などの職務をつとめる。
- 徽章は大きな一つのカミツレ(カモミール)の花。
- 一等図書監
- 徽章は二重の本の上に三つのカミツレの花。
- 二等図書監
- 徽章は二重の本の上に二つのカミツレの花。
- 三等図書監
- 隊長などの職務をつとめる。
- 徽章は二重の本の上に一つのカミツレの花。
- 一等図書正
- 徽章は本の上に三つのカミツレの花。
- 二等図書正
- 班長や班長の補佐の職務をつとめる。
- 徽章は本の上に二つのカミツレの花。
- 三等図書正
- 徽章は本の上に一つのカミツレの花。
- 図書士長
- 徽章は三重のV字に開いた本。
- 一等図書士
- 徽章は二重のV字に開いた本。
- 二等図書士
- 徽章は一重のV字に開いた本。
- 三等図書士
- 徽章は本が一つだけ。
カミツレは「日野の悪夢」で落命した稲嶺和市夫人が好んだ花。花言葉は「苦難の中の力」。
[編集] 図書館法
メディア良化法に対抗するため既存の図書館法を改定、成立した通称『図書館の自由法』。既存の三章に『図書館の自由に関する宣言』の主要章題を付け加える形で法制化したもの。
[編集] メディア良化委員会
メディア良化法に基づいて発足した法務省の下部組織。各都道府県に代執行機関となる良化特務機関を設置し、公序良俗を乱すあらゆるメディアを取り締まる権限を持つ。その内容は小売店に対しては入荷物の検閲、版元には流通差し止め命令、マスコミには放送禁止・訂正命令、インターネットではプロバイダーへの削除命令など多岐に渡り実質的な言論統制である。
[編集] 日野の悪夢
正化11年2月7日、メディア良化委員会に同調する政治結社が東京の日野市立図書館を襲撃した事件。当時、日野市立図書館長を務めていた稲嶺は右足を失う重症。稲嶺の妻を含め12人の死者を出し、図書館の蔵書もほぼ全損するなど未曽有の大惨事となった。被害が拡大した原因として警察の介入が大幅に遅れたことが挙げられ、このことから影で良化委員会が糸を引いていたのではないかとの噂が今なお絶えない。いずれにせよこれ以降図書隊は本格的な防衛力を整え、良化機関との抗争は火器なども含めたより激しいものへとなっていった。
[編集] 武蔵野第一図書館
関東図書基地に隣接する基地付属図書館。公共図書館としては都内最大級の蔵書量、貸出数を誇る。
なお作中では『昭和』に続く元号は『平成』ではなく『正化』となっている。従って2巻の時点では西暦2019年、正化31年である。
[編集] 主な登場人物
- 笠原郁
- 防衛部・図書特殊部隊所属。一等図書士。高校生の時、良化機関員の検閲から救ってくれた防衛隊員に憧れ、防衛隊員を志す。ただし顔覚えの悪さから、とある人物に指摘されるまで、件の防衛隊員が実は堂上であるということに気付かなかった。
- 大学まで陸上部に所属していたため体力は抜群。その反面、通常の図書館業務や知識面は最低水準。ただし現状認識や想像力は非凡さを見せる事があるので、バカではあるが頭が悪いわけではないと言える。
- 堂上篤
- 防衛部・図書特殊部隊所属。二等図書正。郁、小牧、手塚を含めた堂上班班長を務める。実は班内で一番身長が低い(推定165cm弱。本文での記述は無いが、イラストを見る限りヒールを履いた柴崎より低い)。
- 図書特殊部隊隊員として、図書館業務・戦闘双方において優れた能力を発揮する。反面やや堅物なところがあり、常識や正論を重視する傾向がある。ただし本質的には郁と同様「考える前に動く」という要素が多分にあるらしく、現在の性格は過去の経験や反省を踏まえた自制心の発露によるところが大きい。
- 性格・外見とも真面目で実直なため、外部の人間と接する必要がある場面では重宝される。反面真面目さが祟って部隊内ではいじられ役になることが多い(これは隊長および隊員の気質によるところも大きい)。
- 小牧幹久
- 防衛部・図書特殊部隊所属。二等図書正。堂上の同期で班の補佐を務める。笑い上戸。
- 公の場では常に正論を貫くが、それは自分の大切に思う人が不当に虐げられることがないよう、その人を守る自分は常に正当とされる立場にいようとするため。ゆえに自分に対しても容赦なく正論を向ける。実際には話の通じない石頭ではなく、むしろ相手の感情や思惑を正確に把握できる。
- 正論を語る際も基本的には情状を斟酌して行う。だがそれゆえに語られた相手は自分の思想・言動が不当であることを思い知らされてしまうので、単なる堅物よりもかえってタチが悪いと言える。
- 手塚光
- 防衛部・図書特殊部隊所属。一等図書士。父親は図書館協会会長。堂上を尊敬している。
- 高所恐怖症の気があるが、狙撃班として高所からの狙撃に従事するなどは問題ない。むしろ「高いところ」というよりも、物理的または精神的に「足場が不安定」「立ち位置がはっきりしない」状態が苦手のようである。
- 玄田竜助
- 防衛部・図書特殊部隊長。三等図書監。しばしば豪快かつ無茶な作戦を立案するので豪胆なのか大ざっぱなのか分からない性格と思われがち。だが実際には諸状況や想定される結果を勘案した上でもっとも効果的と思われる手段を選んでいる。
- ほとんどの場合、無茶な作戦を立案した後の実務は部下(主に堂上)に丸投げしており、そのことでしばしば堂上と口論になるが全く堪える様子はない。小牧曰く「あの人(玄田)はお前(堂上)にそうやって叱られるのが嬉しいんだから」とのこと。ただし大規模作戦は自ら指揮を執る。
- 柴崎麻子
- 業務部・武蔵野第一図書館所属。図書館員。郁のルームメイトで親友。大変な情報通であり、実は構想中の情報部の候補生。
- 稲嶺和市
- 関東図書基地司令。特等図書監。『日野の悪夢』で右足を失う。
[編集] 既刊一覧
- 図書館戦争(メディアワークス, 2006年) ISBN 4840233616
- 図書館内乱(メディアワークス, 2006年)ISBN 4840235627
- 図書館危機(メディアワークス, 2007年)ISBN 4840237743