失敗国家
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失敗国家(しっぱいこっか、failed state)、もしくは崩壊国家(collapsed state)とは「国家機能を喪失し、内乱・政治腐敗等の原因によって国民に適切な行政サービスを与えることが出来ない状態にある国家」を指す政治学用語。主に1990年代のアフリカなど発展途上国で発生し、深刻な国際問題となっている。代表的な例として挙げられる国はスーダン・ソマリア・赤道ギニアなど。
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[編集] 定義
なにをもって失敗国家と定義されるかについてはいまだに議論が続いているが、ここではザートマンの定義を引用する。ザートマンは失敗国家には以下の三点の喪失が現れるとしている。
- 主権に基づく権威(正統性)(sovereign authority)
- 意思決定を行うための目にみえる組織(tangible organization of decision-making)
- 統合の象徴となるべきもの(intangible symbol of identity)
この三点の喪失により国家の機能が停止し、国家性(statehood)が喪失している状況にある国家がザートマンの定義する失敗国家となる。
[編集] 特徴
失敗国家の国民生活は悪化の一途をたどる。政府が無力あるいは腐敗し、行政がほとんど機能しないため、それらがつかさどる警察・医療・電気・水道・交通・ガス・通信等のサービスを国民は受けられないからだ。最も悪化するのは治安で、給料の遅配などにより軍隊や警察では職場放棄やサボタージュが発生する。取り締まっていた犯罪行為に、今度は自らが手を染めることすら珍しくない。こうした治安の悪化があらゆるものの生産力と国民のモラルを低下させる。農民が土地を捨てて難民化し飢餓が蔓延することが多い。略奪等の激しく持続的な暴力が経済活動と結びつき日常化してしまう。
名目的にそこに存在している政府は腐敗しきっており、その統治能力はほぼゼロ。ひどいときには官邸を中心にしたほんの数百メートル四方の範囲にしか支配力がおよばない。
その他の地域で支配力を行使しているのは軍閥など地域の有力者であり、彼らの持つ私兵集団である。これらの中にはもともとはちゃんとした軍隊であったが兵士の給料の不払いなどが続いた結果、食うために私兵化してしまったものも多い。地方ごとに有力者が勝手に独自の軍事組織を持ち、その他にも大小さまざまの自警団や盗賊が出没する。生きていくためにはなんらかの自衛手段を持たざるを得ないからだ。彼らが自己の権益を拡大するために武装し、戦闘を繰り返す、その様子はさながら群雄割拠そのものである。これらの私兵集団に政府のコントロールは全く届かない。私兵集団は時として政府に対して武力的行動を行い、政府を打倒して新しい国家を打ち立てることすらある。しかしそれが新しい国家主体となり、きちんとした責任ある国家が生まれるかといえば、そのようなことはまずありえない。そもそも彼らにはきちんとした国家経営を行う意思も能力もノウハウもなく、ただ権力を利用して賄賂を受け取り私腹を肥やすことしか頭にないからだ。自分の勢力圏以外の地方に支配力を及ぼすことも出来ないため、いずれ他の武装組織に打倒されてしまう。失敗国家の政府というのはただ単に「国際的に一応国家主体と認められ徴税権やODAといったおいしい利権にありつくことの出来る私兵組織」程度の意味合いしか持っていない。通常の国の政府という概念で失敗国家の政府を考えることはおそらく無意味である。
[編集] その他
- 日本赤十字九州国際看護大学教授の喜多悦子は失敗国家を見分ける2つの簡単な基準として、「警官や兵士の給料をきちんと払えていない国」と「教師の給料をきちんと払っていない国」を挙げている。
- 2006年にアメリカのシンクタンクの一つであるThe Fund of Peaceが失敗国家ランキングを発表した。1位はスーダン。北朝鮮が14位。日本は135位で最も安定した国の一つである。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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