悪魔のようなあいつ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ドラマ |
![]() |
Portal : テレビ Portal : ドラマ |
ドラマ一覧 |
日本のドラマ |
カテゴリ |
テレビドラマ |
プロジェクト |
テレビドラマ |
悪魔のようなあいつ(あくまのようなあいつ)は1975年6月6日~同年9月26日まで東京放送(TBS)系列で放送されていたテレビドラマ。1968年12月10日に発生し放送された年の12月10日に未解決のまま時効を迎えた三億円強奪事件をモチーフとした作品で沢田研二の本格的テレビドラマデビュー作品でもある。
目次 |
[編集] 概要
作詞家で沢田とも関わりの深い阿久悠が原作を手掛け、上村一夫が作画を担当し講談社「ヤングレディ」誌にて連載された同名の漫画作品が原作。以前から沢田にほれ込んでいた久世光彦が制作を担い、ドラマ化が実現する(当時は漫画作品のドラマ化は珍しかった)。脚本は後に「太陽を盗んだ男」を手掛ける長谷川和彦が担当した。
ドラマ化に際し、ドラマの途中で連載中だった原作を追い越したこともあって設定に変更が加えられたが、「三億円事件」を取り上げたそのストーリーが原作共々話題となった。現実時間通りに迫り来る時効(なお、巷間様々な説話が流布してはいたが、当時は既に事件の解決=犯人逮捕は一般に絶望視されていた)に合わせて物語が進展する奇抜な設定と、沢田をはじめとした豪華なキャスティング、ベッドシーンを含む過激な演出などで神話化されるほどの伝説的なドラマとなった。分けても、劇中で沢田が着用した、斜め被りのパナマ帽とサスペンダーのファッションは世の男性に流行したトレンドとなった。こうして各話平均10%程度(最高11.6%)と「悪くない」程度の視聴率を獲得したが、制作サイドの要求水準に達せず、数話削った形で放送が終了している。本来は実際の時効成立までドラマが続く構想であったという。
また主題歌の「時の過ぎゆくままに」はオリコンで1位を獲得、100万枚近いセールスを記録し、沢田の最大のヒット曲となった。余談ながら、この曲は所謂「詞先(しせん)」(詞を先に作り、それに合わせて作曲する方式。日本のポップスやロックでは曲を先に作り、詞を後から乗せる「曲先(きょくせん)」が一般的である)で阿久の詞が生まれ、それに合わせて大野克夫ともう1人(加瀬邦彦といわれている)が曲を競作し、久世の判断で大野曲が採用された。以後、作詞:阿久と作曲:大野のコンビは沢田や様々な歌手に多くの名曲を送るヒットメーカーコンビとなる。なお、チンピラヤクザ役で出演している岸部修三(現在の岸部一徳)は当時井上堯之バンドのメンバーだったが、本作を機に本格的に俳優に転向した。
そして後に触れるように、本作は本放送以後一度も再放送、ソフト化が行われずその伝説化に拍車をかけることとなったが、2001年に限定生産のDVDボックスが発売された。
[編集] あらすじ
元刑事の野々村が経営するバー「日蝕」で歌手として働く可門良。彼はあの「三億円事件」の犯人だった。良に惹かれて夜を共にする女たち、良を付狙う刑事、良の金に集る男。そして、良自身も余命幾許もない重病に冒されていた……
[編集] スタッフ
- 原作:阿久悠、上村一夫
- 脚本:長谷川和彦
- 演出:久世光彦、和田旭、前川英雄、浅生憲章、大岡進
- プロデューサー:久世光彦
- 音楽:井上尭之、大野克夫
- 主題歌:沢田研二「時の過ぎゆくままに」
- 制作:東京放送
[編集] キャスト
- 可門良:沢田研二
- いずみ:三木聖子
- 野々村修二:藤竜也
- 八村八郎:荒木一郎
- 八村ふみよ:安田道代(現:大楠道代)
- 八村ハル:浦辺粂子
- 山川静枝:篠ヒロコ(現:篠ひろ子)
- 白戸警部:若山富三郎
- 富山医師:金田竜之介
- 佐々木医師:三宅康夫
- 看護婦:悠木千帆(現:樹木希林)
- 日夏恵い子:那智わたる
- 矢頭たけし:尾崎紀世彦
- 倉本:伊東四朗
- 右川:高田光泰
- 左川:岸部修三(現:岸部一徳)
- 王礼仁:細川俊之
[編集] DVDが出るまで事実上封印されていた理由
当該番組は沢田研二が本格的にテレビドラマデビューした作品という事から知名度は高いのだが、2001年にDVDが発売されるまで再放送された事もなければビデオ・レーザーディスク化された事もなく事実上の封印作品となっていた。その理由は三億円事件を題材に扱った事が原因というのが定説となっている。同事件を扱った作品は他にも多くあるが、この作品では毎回のエンドで「時効まで、あと○○日」と放送当時捜査していた警察庁・警視庁・府中警察署を挑発するようなテロップが出されていたことから、当局からクレームがついたという考えである。しかしこれには確証がなく、他に考えられる理由としては
の4点がある。1.の理由は藤竜也扮する、主人公が勤めるクラブの経営者が筋肉質のゲイ(またはバイ)として描かれたことによる。彼はいつも主人公に近づいて「理想郷で一緒に暮らそう。」と友人以上の関係になろうとしていたが、当時はゲイに対して市民権のない時代であり、筋肉質の人間はイコールゲイ、という固定観念を植え付けかねなかった。こうしたゲイの描き方が「ホモフォビア的表現」と看做されたという考えである。なお当時藤は筋肉質の俳優という事で非常に珍しがられていた。
2.の理由は久世光彦お得意の過剰演出がタブーの一線を超えたものといえる。久世は「時間ですよ」でヌードシーンを挿入したり、「寺内貫太郎一家」で主人公の母親が孫の部屋にあった沢田研二の写真を見て「ジュリーっ!!」と絶叫するシーンや、食事中の大乱闘(※ 大体主人公の息子が反抗したことがきっかけとなる。ちなみに食べ物は粗末にしていなかった。)を挿入するなど、過剰なコメディ演出で知られていた。そのセンスは当該番組でもいかんなく発揮されている。 本作で久世は、主人公が脳腫瘍でいずれ死ぬ運命である、との設定を表現するため病気で苦悶するシーンを演出している。それは効果音を挿入→主人公が頭を抱える→そこに「脳腫瘍を示す英字」を重ねる→そのテロップアニメーションで強調する→最後には白目を向いて悶え苦しむ、というもの。さらにいずれは死ぬというのが「発狂して」である。現在の放送指針では、特定の病気を不治の病として表現したり、精神障害者差別を助長する表現はタブーとされている。そのため、この演出がそうした一線を越えるものとなったという考えである。ただし久世はこうした「タブー」を意図的に破るスタイルの演出家でもあった。
3.の理由は荒木一郎扮するろくでなしが自殺するシーンの表現方法による。彼は体にダイナマイトを巻いて自爆し果てているが、これがジャン・リュック・ゴダールの監督でヌーベルバーグの大作「気狂いピエロ」において、主演のジャン=ポール・ベルモンドが自殺するシーンに酷似しているという。ジャン・ポールは恋人に裏切られたことに腹を立て、ダイナマイトを体に巻いて自爆しているが、そのシーンをそっくりそのまま「パクッた」というものである。
現在では盗用自体が問題となる情勢であるため、ソフト化された場合ジャン・リュック・ゴダールの関係者から抗議が来ることは必至であり、故にソフト化が敬遠されていたという考えである。なお余談だがDVD化された際、ジャン・リュック・ゴダールからは抗議の声は来なかったという。また内外の名作映画の名場面を意図的に(それと分かる形で)転用する演出は本作以外の多くの作品にも見られ、しばしば「オマージュ」などと呼ばれることで盗作ではないと考えられることも多く、この考え自体判断が分かれるところではあるが、本作の演出もそうした受け止め方が可能ではある。
4.の理由は有力な理由といえる。主人公を演じた沢田は1980年代後半にセールスが落ち込んで以降、新曲ではなく「懐かしのヒット曲」を歌わされることを拒否してメディアへの露出が減少していた。そして1990年代には自身の過去のヒット曲やその映像、加えて音楽以外での出演場面全ての放送を禁じていた(その背景には変貌した自身の容姿に対する禁忌意識が働いたため、と長く言われているが、それならば「現在の姿」を露出禁止にして「過去の姿」を放送するようにも考えられるため、この説は憶測の域を出ない)。しかし2001年にはその禁を破ることとなり、ようやくソフト化にOKサインを出したという考えである。同年には「炎の肖像」や「太陽を盗んだ男」、「ときめきに死す」、「夢二」など沢田主演の映画作品が集中的にDVDソフト化されており、単にDVDの普及拡大時期と重なって発売が集中しただけとも思われるが、沢田が許可を出さない限り封印されたままという事になっていたと考えられる。ちなみに、この頃から「速報!歌の大辞テン」等の一部の地上波テレビ番組では過去の映像を紹介する他、時には本人のコメント映像を添付する等の事も行っている。また、時折コンサート等で過去の曲を歌った事もある。一方、CS放送では、まだ露出制限が残っているようであり、「夜のヒットスタジオ」の再放送も沢田が出演した回がNGとなる等の例がある。
ただし沢田が自身の過去映像を放送禁止にしていたのは1990年代であり、それ以前に再放送などが行われなかった理由とは考えられず、また1~3の理由も「では何故2001年にはOKになったのか」が曖昧であるため、実際には上記やそれら以外の種々の要因が複合的に絡んだ、という理由が真相に近しいのではないか、と考えられる。
TBS FRIDAY DRAMA(1975.6-9) | ||
---|---|---|
前番組 | 悪魔のようなあいつ | 次番組 |
許せない愛 | ガラスの森 |