東シナ海ガス田問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
東シナ海ガス田問題は、東シナ海での日本と中華人民共和国(中国)のガス田開発に関わる問題。
問題となっている海域には中国側の調査で春暁、断橋、天外天、平湖、冷泉、龍井の6ガス田が確認されているが、春暁、断橋においてはその埋蔵地域が日中中間線の日本側海域に掛かっているため両国間の問題になっているほか、日本政府は天外天、龍井についても資源が中間線を越えて広がっている可能性を指摘している。
日本は経済産業省が中国に対抗し民間開発業者への試掘権付与手続きを行うなどしているが、この問題における出遅れや対応の遅さが指摘されている。
目次 |
主張する海域の違い
問題となっているガス田は両国の排他的経済水域内にあり、その権益の範囲を日本は現在、国際的に一般的な日中中間線とするのに対し、中国は1970年代頃までの国際法上の解釈に基づく大陸棚の先端沖縄トラフまでを主張している。
こうした排他的経済水域に関わる問題は、国連海洋法条約においては「関係国の合意到達の努力」に委ねられており明確な基準はないが、最近では関係国間の中間線を排他的経済水域の境界とするのが国際的に一般化している。
経緯
中国政府はこの海域の資源開発研究を30年以上前から続けており、1999年に平湖ガス田(春暁の北、日中中間線よりも中国側にあるガス田)で天然ガスの生産を開始している。
中国は経済成長により電力需要が逼迫していることから、春暁、天外天両ガス田でも日本の抗議にもかかわらず採掘施設の建設を進め、2005年9月下旬には、日中中間線から4キロメートルの位置で天外天ガス田の生産を開始した。なお、11月にも操業を始めるとみられる春暁の採掘施設は、中間線から1.5キロメートルしか離れていない。
日本政府の対応と中国の反応
日本政府は2004年6月に中国が春暁の本格開発に着手したことがわかり、春暁・断橋付近の海域を独自に調査。春暁・断橋は地下構造が中間線を挟んで日本側につながっており、天外天、龍井もその可能性があることを確認した。このため、中国が日中間で地下構造がつながっているガス田の採掘を始めると日本側の資源まで吸い取られてしまう可能性が高いとして問題視している。
日本側は春暁の開発着手を確認した2004年6月以降、外交ルートを通じて当該海域での開発作業の即時中止と、地下構造のデータ提供を求め続けているが、2005年現在、中国側はデータ提供を拒んでいる。
2005年7月、経済産業省が石油開発会社の帝国石油に試掘権を付与したが、実際に試掘を開始できるまでは1~2年かかる見通し。
試掘権付与手続きと平行して、日本政府は中間線付近の5ガス田に日本名を命名。春暁は「白樺」、断橋は「楠」、冷泉は「桔梗」、天外天は「樫」、龍井は「翌檜(あすなろ)」とし、公文書などでも使用を始めた。
中国側は日本の抗議に対し日中共同開発を提案しているが、日中中間線より日本側の領域のみの共同開発としているため、日本政府は受け入れを拒否している。日本政府は2005年10月、同問題についての日中局長級協議で、日中中間線をまたぐ春暁など4ガス田に限って共同開発する提案を中国側に行っている。
なお、中国政府は「日本の行為(試掘権付与)は中国の主権と権益に対する重大な挑発かつ侵害」「強烈な抗議」と反論している。中国は、中国海軍の最新鋭艦であるソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦を含む5隻程度の艦隊でガス田周辺の警備を行っており、管轄の南京軍区や東海艦隊は、ガス田開発問題が表面化して以降、日本との突発的な軍事衝突に備えて第一級警戒態勢を布き、幹部の無許可での移動を禁じていると言われている。
東中国海ガス田が全て操業を開始したとしても、大消費地の上海周辺の需要量から、1~2年の需要を賄なう程度の埋蔵量しかないのではないかと推定されており、日本はもちろん、中国側から見ても決して採算性のある事業ではない。そのことから、中国の真の狙いは、ガス田の開発それ自体より、日中中間線付近に複数のプラットフォームを建設することにより、日中中間線近くの海上に「事実上の中国領土」を人工的に作り上げ、第一列島線の一部でもある東中国海の制海権と軍事的優位を確立することにあるのではないかと推定されている[要出典]。
関連する国連海洋法条約の条文
国連海洋法条約
第5部 排他的経済水域
- 第74条 向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における排他的経済水域の境界画定
-
- 向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における排他的経済水域の境界画定は、衡平な解決を達成するために、国際司法裁判所規程第38条に規定する国際法に基づいて合意により行う。
- 関係国は、合理的な期間内に合意に達することができない場合には、第15部に定める手続に付する。
- 関係国は、1の合意に達するまでの間、理解及び協力の精神により、実際的な性質を有する暫定的な取極を締結するため及びそのような過渡的期間において最終的な合意への到達を危うくし又は妨げないためにあらゆる努力を払う。暫定的な取極は、最終的な境界画定に影響を及ぼすものではない。
- 関係国間において効力を有する合意がある場合には、排他的経済水域の境界画定に関する問題は、当該合意に従って解決する。
第6部 大陸棚
- 第77条 大陸棚に対する沿岸国の権利
-
- 沿岸国は、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するため、大陸棚に対して主権的権利を行使する。
- 1の権利は、沿岸国が大陸棚を探査せず又はその天然資源を開発しない場合においても、当該沿岸国の明示の同意なしにそのような活動を行うことができないという意味において、排他的である。
- 大陸棚に対する沿岸国の権利は、実効的な若しくは名目上の先占又は明示の宣言に依存するものではない。
- この部に規定する天然資源は、海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに定着性の種族に属する生物、すなわち、採捕に適した段階において海底若しくはその下で静止しており又は絶えず海底若しくはその下に接触していなければ動くことのできない生物から成る。
- 第78条 上部水域及び上空の法的地位並びに他の国の権利及び自由
-
- 大陸棚に対する沿岸国の権利は、上部水域又はその上空の法的地位に影響を及ぼすものではない。
- 沿岸国は、大陸棚に対する権利の行使により、この条約に定める他の国の航行その他の権利及び自由を侵害してはならず、また、これらに対して不当な妨害をもたらしてはならない。
- 第79条 大陸棚における海底電線及び海底パイプライン
-
- すべての国は、この条の規定に従って大陸棚に海底電線及び海底パイプラインを敷設する権利を有する。
- 沿岸国は、大陸棚における海底電線又は海底パイプラインの敷設又は維持を妨げることができない。もっとも、沿岸国は、大陸棚の探査、その天然資源の開発並びに海底パイプラインからの汚染の防止、軽減及び規制のために適当な措置をとる権利を有する。
- 海底パイプラインを大陸棚に敷設するための経路の設定については、沿岸国の同意を得る。
- この部のいかなる規定も、沿岸国がその領土若しくは領海に入る海底電線若しくは海底パイプラインに関する条件を定める権利又は大陸棚の探査、その資源の開発若しくは沿岸国が管轄権を有する人工島、施設及び構築物の運用に関連して建設され若しくは利用される海底電線及び海底パイプラインに対する当該沿岸国の管轄権に影響を及ぼすものではない。
- 海底電線又は海底パイプラインを敷設する国は、既に海底に敷設されている電線又はパイプラインに妥当な考慮を払わなければならない。特に、既設の電線又はパイプラインを修理する可能性は、害してはならない。
- 第80条 大陸棚における人工島、施設及び構築物
-
- 第60条の規定は、大陸棚における人工島、施設及び構築物について準用する。
- 第81条 大陸棚における掘削
-
- 沿岸国は、大陸棚におけるあらゆる目的のための掘削を許可し及び規制する排他的権利を有する。
- 第82条 二百海里を超える大陸棚の開発に関する支払及び拠出
-
- 沿岸国は、領海の幅を測定する基線から二百海里を超える大陸棚の非生物資源の開発に関して金銭による支払又は現物による拠出を行う。
- 支払又は拠出は、鉱区における最初の五年間の生産の後、当該鉱区におけるすべての生産に関して毎年行われる、六年目の支払又は拠出の割合は、当該鉱区における生産額又は生産量の一パーセントとする、この割合は、十二年目まで毎年一パーセントずつ増加するものとし、その後は七パーセントとする。生産には、開発に関連して使用された資源を含めない。
- その大陸棚から生産される鉱物資源の純輸入国である開発途上国は、当該鉱物資源に関する支払又は拠出を免除される。
- 支払又は拠出は、機構を通じて行われるものとし、機構は、開発途上国、特に後発開発途上国及び内陸国である開発途上国の利益及びニーズに考慮を払い、衡平な配分基準に基づいて締約国にこれらを配分する。
関連項目
カテゴリ: 半保護 | 現在進行 | 出典を必要とする記事 | 政治関連のスタブ項目 | 日中関係 | 日本の領有権問題