中国脅威論
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中国脅威論(ちゅうごくきょういろん)とは、新たな超大国・覇権国として国際的な影響力を強めている中華人民共和国(中国)が日本をはじめ台湾・韓国・米国・ロシア・ベトナム等にとって将来又は現在において重大な脅威になるのではないかという論説。
目次 |
[編集] 概要
軍事費の伸び率の高さや不透明性、国家による報道と言論の規制、偏向した愛国教育、輸出の拡大による貿易摩擦、甚大な環境破壊、資源の囲い込み等から、今後中国が周辺諸国の又は地球規模での脅威となっていくとする見方。
[編集] 軍事面
10年連続2桁増で急増する軍事費、軍事費の内訳の不透明性、兵器や人員の実態の不透明性、核戦力の充実、冷戦時代におけるチベット、ベトナム等周辺諸国への侵攻・占拠行為、台湾や尖閣諸島の領有宣言、沖ノ鳥島の日本領有否定、数々の示威行為(人工衛星破壊・米軍空母至近での潜水艦浮上・日本の領海侵犯・日本の排他的経済水域での無断調査・台湾近海でのミサイル演習)により、中国脅威論が高まっている。
2006年のアメリカ国防総省の年次報告書では、軍事費の増大などを背景に「周辺諸国への潜在的な脅威になっている」と述べている。
[編集] 経済面
「世界の工場」と呼ばれるようになった中国は、廉価な製品の輸出によって他国の現地産業を圧迫している。この輸出攻勢の背景には、外資の誘致による工場の乱立や安い人件費の他に、中国当局が固定相場制によって人民元が輸出に有利になるよう誘導している背景があり、人民元の変動相場制への転換圧力にもなっている(人民元改革も参照)。
また、中国は10億を超える人口を抱えていること、産業等のエネルギー効率が悪いことから石油等地下資源の確保にどん欲なため、新たな脅威論の要因としてあげられている(例えば、2005年のアメリカ合衆国(米国)の大手石油会社・ユノカルの中国の企業グループ・中国海洋石油総公司による買収騒動。この騒動は、合衆国元老院が法案を出すほどに発展した)。
[編集] 国別の反応
[編集] 日本
保守系の識者を中心に軍事的脅威が唱えられている。実際、中国の軍事費は10年連続2桁増という凄まじい勢いで増加しており、その予算の内訳が明確に示されたことはいまだかつて1度もない。また装備の取得・開発費は予算に含まれておらず、軍事費の実態は公表されている予算の3倍の額になるという指摘もなされている。また台湾紙によれば、中国は保有している大陸間弾道ミサイルDF-21とDF-3を130基以上日本に照準を合わせているとされ、近年、潜水艦発射弾道ミサイルを搭載した晋型原子力潜水艦をも進水させた。さらに、戦力投射能力を持つ巨大な空母も建造中で、艦載機や戦闘機、潜水艦、各種戦闘艦艇などをロシアから大量に購入中である。
また、度重なる示威行為も中国脅威論を助長する一因となっている。実際に中国原子力潜水艦が日本の領海を侵犯をしたり(漢級原子力潜水艦領海侵犯事件)、中国軍艦艇が日本の排他的経済水域で度重なる無断調査を行うなど、日本への挑発行為を繰り返している。また、日本の領土である尖閣諸島の領有権を主張し、自らの排他的経済水域を日中中間線を大きく越えた沖縄トラフまでであると主張し、沖ノ鳥島の日本領有を否定するなど、日本の領土・領海への野心をあらわにしていることも日本側の警戒心を喚起している。さらに日本側の抗議にもかかわらず日中中間線をまたぐ形で海底のガス田を開発中で、日中間の懸案事項となっている。
日本には各種軍事情報や経済情報を収集するための中国人工作員とエージェントが数千人以上の規模で存在するとされ、実際にイージス艦の特別防衛秘密漏洩事件や潜水艦の高張力鋼に関する防衛秘密漏洩事件、デンソーの技術漏洩事件や軍事転用可能なヤマハ発動機無人ヘリコプター不正輸出事件など、中国がらみの対日有害活動は後を絶たない。
さらに日本が経済協力として拠出したODAを軍事目的に利用し、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを妨害するための世界各国への工作資金に充てていることも、日本国民の神経を逆撫でしている。
中国では、法律の不備や取締りの不徹底による日本の製品・商品に対する知的財産権の侵害や、中華民族としてのナショナリズムの高まりによる2005年の中国における反日活動で見られた様な日本人への暴行事件と差別事例などが相次いでおり、これらをもってしてチャイナリスクが論じられることがある。実際にこれらの事例から中国を忌避し、東南アジアや国内に回帰する企業は後を絶たない。また労働者からは、中国人に仕事が奪われてしまうという意味で、脅威論とは言わないまでも否定的な意味で捉えられることが多々ある。
[編集] 米国
貿易摩擦を背景とした産業界の圧力により、米国政府は中国に対して人民元切り上げ圧力を強めている。また、上述のアメリカ国防総省の報告書にもあるとおり、軍事面でも警戒する声が強まっている。人工衛星の破壊実験や演習中の米国空母至近での潜水艦の浮上などアメリカに対する示威行為も目立つようになり、米国議会などで度々話題となっている。
[編集] 韓国
日本と同様に保守系の人々が中国脅威論を唱えている。東北工程の問題では、中国政府が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対して領土的野心を持っているのではないかと言う意見が発せられた。
また、中国政府は2006年9月14日、韓国が総合海洋科学基地を設置している離於島は韓国領土として認められないとの見解を示した。さらには中国国内で離於島を中国領にしようとする民間団体「蘇岩礁(離於島の中国名)保衛協会」の結成が進められており、韓中両国の間で領土紛争が発生しつつある。この事からも韓国の保守派は中国を現実的な脅威として認識するようになっている。
また、近年では白頭山や間島に関しても領土的な摩擦が発生しており、さらに歴史でも高句麗史を巡っての認識の違いが存在する。
[編集] 台湾
中国は、台湾が独立を宣言するなら武力を持ってこれを鎮圧し併合すると公言していることから、特に本省人の間では、軍事的に中国を重大な脅威と捉えている。現実に中国は台湾を念頭に置いた反分裂国家法を制定するなど、軍事的圧力を捨ててはいない。また台湾で行われた総選挙で、中国に対抗する傾向のある政党が有利と報道された際、台湾近海で軍事演習を実行しあからさまな圧力を加えた。
しかし、台湾の市民たちは、中国の脅威を感じつつも現状維持を望んでいる者が大半を占めているとされる。言語がほぼ同じ事から経済的な交流は進んでおり、特に台湾企業の中国進出は近年著しい。経済の面から中国本土との関係は切っても切れないものになってきており、中国に併呑されるという危機感もあるが、全体的に見れば経済的な面での脅威論は下火になってきている。
[編集] 中国脅威論を唱える著名人
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
[編集] 日本語
- SAFETY JAPAN(日経BP社)
- 古森義久氏 「 外交弱小国 日本の安全保障を考える ~ワシントンからの報告~ 」
- 台湾週報(中央通訊社)
- 中国の脅威は台日が正視すべき共通課題
- 「中国の台頭」に対する危機とリスク
- 中国軍部高官の核攻撃発言で、国際社会に波紋