殉職
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
殉職(じゅんしょく)とは、一般に特定の業務に従事する職員が、職務・業務中の事故が原因で死亡することをいう。
一般的な事例として警察官、消防官、自衛官、海上保安官、消防団員、運転手、船員などがあるが、スポーツ選手が競技中の事故で死亡する場合、サラリーマンが通勤途中に交通事故等で死亡する場合は含まれない。その他一般の企業・工場でも作業中の事故が原因で死亡した場合は殉職と言い、この場合産業殉職者として、顕彰会がある。 また、それぞれの職種ごとに遺児への教育資金援助や慰霊式典を行なうため、殉職者の顕彰会が設けられている。
目次 |
[編集] 二階級特進
警察官、消防官、自衛官、海上保安官と言った職務階級が明確な職業において、殉職に伴って在職階級から二段階昇進させる制度又は慣行で、名誉・叙勲・その他の遺族に対する補償も特進した階級に基づきなされる。この結果「二階級特進」が、しばしば「殉職」の別称とされる。
警察官の場合、巡査-巡査部長-警部補-警部-警視-警視正-警視長-警視監-警視総監 という階級構成になっており、巡査・巡査部長が殉職すると、各々警部補・警部に特進となる。但し、近年職務執行中の交通事故による殉職は、1階級のみの昇進にとどまる。
これは、旧日本軍において功績顕著な戦死者を二階級特進させた例に倣ったものであるが、戦後組織においては殉職自体が異常なことなので「殉職」=「功績顕著」としたものであろう。また、死亡退職金や遺族年金では、特進後の階級を基準とするため、算定にあたり有利になるという側面もある。旧陸軍に於いては上から大将-中将-少将-大佐-中佐-少佐-大尉-中尉-少尉-准尉-曹長-軍曹-伍長-兵長-上等兵-一等兵-二等兵であった。
そもそも、日本陸海軍には元々戦死者を特進させる事はなかったが、日露戦争において軍神とされた広瀬武夫海軍少佐、橘周太陸軍少佐がそれぞれ中佐に一階級特進したのが始まりとなった。その後、上海事変における爆弾三勇士を顕彰するため3人を二階級特進させ、それ以降功績抜群の戦死者は二階級特進というのが慣例になった。
なお、戦死にあたっては必ずしも二階級特進というわけではなく、一階級の場合もある。また、大佐が中将になる例は少なく、少将が大将に進級する事はなかった。大将が戦死した時に元帥の称号を与えた。旧海軍では下士官の特攻での戦死者には最大『四階級特進』まで規定されていた。
2003年11月29日、イラクにおける日本大使館の外交官(奥克彦参事官、井ノ上正盛三等書記官)が、テロリストにより射殺された際、政府は、この二名の日本人犠牲者に対して二階級特進(参事官→大使 三等書記官→一等書記官)を決定した。これは、警察官、自衛官、海上保安官以外では前例のないことであった。
[編集] 二階級特進した例
[編集] 旧帝国陸海軍
- 葛目直幸 陸軍大佐→陸軍中将(歩兵第222連隊長としてビアク島で戦死)
- 有賀幸作 海軍大佐→海軍中将(戦艦大和5代目艦長。坊ノ岬沖海戦で大和と運命を共にした)
- 加藤建夫 陸軍中佐→陸軍少将(飛行第64戦隊長)
- 尾崎中和 陸軍大尉→陸軍中佐(飛行第25戦隊中隊長)
- 友永丈市 海軍大尉→海軍中佐(空母飛龍攻撃隊員。ミッドウェー海戦で戦死)
- 阿部信弘 陸軍中尉→陸軍少佐(阿部信行陸軍大将の次男:ニコバル島沖で戦死)
- 江下武二 陸軍一等兵→陸軍伍長(爆弾三勇士の一)
- 北川丞 陸軍一等兵→陸軍伍長(同上)
- 作江伊之助 陸軍一等兵→陸軍伍長(同上)
[編集] 自衛官
[編集] 警察官
- 内田尚孝(警視庁第二機動隊長)警視→警視長(あさま山荘事件)
- 高見繁光(警視庁特科車両隊中隊長)警部→警視正(同上)
- 高田晴行(岡山県警本部)警部補→警視(カンボジアPKO派遣文民警察官)
- 宮本邦彦 (警視庁) 巡査部長→警部 (東武東上線のときわ台駅で線路内に立ち入った女性の保護で事故にあう)
[編集] 消防官
- 酒井俊明 消防司令補→消防司令長
- 矢野孔明 消防士長→消防司令
- 石丸祐介 消防士→消防司令補
ほか多数名
[編集] 消防団員
- 水俣市消防団第6分団分団長
- 水俣市消防団第6分団副団長
- 水俣市消防団第6分団第10部部長
ほか多数名
[編集] 外交官
[編集] フィクションに於ける傾向
刑事ドラマなどでは刑事役の俳優が番組を降板する際に、その演ずる刑事を殉職させる脚本とする事がある。犯人から抵抗され受傷する等、実際の警察に於いても殉職として扱う状況で死亡させる脚本が殆どだが、勤務時間外に(当人が事件性を認知し警察官としての行動を取らないまま)通り魔に刺殺されたり、業務とは関係なく抱えていた持病による病死、といった明らかに殉職で無い死亡による脚本までも殉職として扱われる傾向がある。
※捜査本部に従事して疲労が蓄積した結果発症して病死するなど、諸条件を勘案して、病死が職務に起因する場合には殉職と認定される。勤務前、通勤途上、通り魔に刺殺された場合でも殉職とされた実例がある。