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牽引自動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

牽引自動車(けんいんじどうしゃ)とは、自動車(主に貨物自動車)の形態の一つ。運転席と荷台や客車が分離できる構造のもので、前者をトラクタ(またはヘッド)、後者をトレーラーと呼ぶ。

なお、道路交通法の規定では、「牽引自動車」、「牽引車」とも牽引する側(トラクタ)のみを差し、牽引される側の車両(車両総重量が750kgを超えるもの)を「重被牽引車」としている。同法ではその両者を一まとめに呼称する用語は規定されていない。牽引自動車の運転資格については運転免許を参照。

目次

[編集] 日本での歴史

1930年アメリカ合衆国から10台のトレーラーが初めて輸入された。

国産としては、1944年日本通運が特殊自動車として初の国産トレーラーを製作。

終戦後、日野自動車1946年にボンネットタイプのトラクタと平ボディ型のトレーラー(15t積)、1947年に客車タイプのトレーラー(150人乗り)の生産を始め、対抗するように1951年には三菱ふそうトラック・バス(←三菱自動車工業三菱重工業)もトラクタを製造した。

1960年代に入ると高速道路を初めとする全国の道路整備状況が著しく発達した事(モータリゼーション)や建設系重機の生産が増大した事を受け、高出力かつ高速走行が可能なトラクタの開発が進んだ。

[編集] 種類と特徴

セミトレーラー
セミトレーラー

[編集] セミトレーラー

詳細はセミトレーラを参照

日本では最も一般的なトレーラー。縦列駐車や後退が可能。あらゆる用途(牽引自動車#用途参照)のトレーラーに使われる。

トラクタとトレーラーの両方が連結される事を前提とした構造になっており、連結時にはトラクタの第5輪(連結部分)がトレーラーの前輪を兼ねる。トラクタ単体には積載スペースがなく、トレーラ単体には前輪がないため、非連結時にはどちらも運搬車としての役割を果たさない。

フェリーなどに荷物を積み込む際には荷台のみ切り離して運搬することが可能なため、運転手の人件費を安く抑えることができる。

なお、トラクタ側の連結器はカプラー、トレーラー側の連結装置はキングピンと呼ばれる。

[編集] フルトレーラー

詳細はフルトレーラーを参照

一台の貨物車の後ろに単体の荷台が連結されたもの。 トラクタ(フルトラクタ)とトレーラそれぞれの連結部分が可動式(通称:ドーリー式)なため後退がほぼ不可能に近く、あまり普及はしていない。しかし最近ではこの形式に代わるセンターアクスル式というものが登場し注目を集めている。これは、可動部をトレーラー側連結部のみの1箇所とし、かつトレーラーのタイヤ軸を中央に集めることで、セミトレーラーと同じ感覚での後退を可能にしたものである。

[編集] ポールトレーラー

詳細はポールトレーラを参照

長尺物の運搬に使われるもので、トラクタとトレーラーが積載物によって連結されるタイプのものを指す。通称奴(やっこ)とも呼ぶ

主な構造として長尺物運搬時、長さをたけのこ状の伸縮可能なけん引パイプ(ドローバー)を取り付け、けん引車側とポールトレーラ側の各支点にターンテーブル(荷台)を設置し、その2台のターンテーブルの上に荷物(主に長尺物)を載せて走行する。

積載されるものとしては、レール橋梁、コンクリートパイル、原木、鉄道車両鉄筋、円柱形重量物(煙突など)などが挙げられる。積載物の後ろが荷台よりはみ出る事が多く、あえて夜中など交通量の少ない時間帯に利用される事も少なくない。

[編集] その他

日本の法律では、トレーラーの連結が2台まで認められている。巨大長尺物を運ぶ際、まれにセミトレーラーの後ろにポールトレーラを連結する事がある。

全長25mの新幹線車両を運ぶ際には、トラクタ+フルトレーラ+ポールトレーラという連結をさせる事も。その際の運搬車の全長は34mにもなる。

[編集] 用途

[編集] バン・ウィング型

セミトレーラー型とフルトレーラー型が利用される。一般的な荷物の輸送に使われる。

[編集] 平ボディ型

セミトレーラー型が利用される。基本的には雨天時でも運搬可能な物が積載される。

[編集] タンクローリー

詳細はタンクローリーを参照

セミトレーラー型が利用される。消防法の改正により最大積載量がそれまでの26klから30klまで変更されたため、トレーラのみで13m(トラクタ連結時には16m)近くになる車両も出始めている。

あまり普及はしていないが、空荷時に1軸浮かせ高速道路の通行料金を安くさせる、リフトアクスル式という特殊車両も存在する。

なお、似た形の車両としてLPガスなどの運搬車(タンク型)があるが、そちらにはフルトレーラーが使用される事がある。

機関車を運ぶ低床式トレーラー
機関車を運ぶ低床式トレーラー

[編集] 低床式トレーラー

詳細は低床式トレーラーを参照

セミトレーラーが利用される。ブルドーザーロードローラーといった重機や、巨大長尺物の運搬に使われる。

車幅が3mかそれ以上となる車両が多く、狭い道を通行する際には対向車線にはみ出す。

[編集] ダンプトレーラー

詳細はダンプトレーラーを参照

セミトレーラかフルトレーラが利用される。

土砂運搬のダンプトレーラについては1999年の規制緩和まで禁止されていた。

単体型のダンプカー(最大10t積)に比べダンプトレーラーの積載能力ははるかに高い(26t積)ものの、あまり普及はしていない。これは、ダンプの活動場所が主に足場の緩い工事現場である事、そのような場所でのダンプアップ(積載物を落とすために荷台を上昇させる事)は車両の転倒を招く恐れがあるためである。

セミトレーラーとフルトレーラーが連結されたキャリアカー(メキシコ)
セミトレーラーとフルトレーラーが連結されたキャリアカー(メキシコ)

[編集] キャリアカー

詳細はキャリアカーを参照

外国では2連トレーラー(セミ+フル)なども多く利用されるのに対し、日本では主にセミトレーラーのみ(一部例外あり)で利用される。これは、日本の法律でセミトレーラーの連結時全長が規制されているためである。

キャブの上にも自動車を積載できる全長17mタイプの車両は、7台の自動車を一度に積載できる。なおキャブ上の荷台に積まれる車は、車高規制(4.1m※)によって、セダンタイプに制限される。

2004年3月1日の道路交通法改正による。それまでは3.8m。

[編集] コンテナ

詳細はコンテナを参照

セミトレーラー型を利用し、鉄道コンテナや海上コンテナを輸送する。規制緩和によって登場した荷台が最も長いタイプ(約12.4m※)では、12ft鉄道コンテナを3個同時に積む事や40ft海上コンテナを積む事が可能。荷台を40ft海上コンテナを積載する際に道路交通法で定められた車高規制以下に抑えるため、シャシーをトラクタの操舵輪後部より低床化させた構造となっている。 海上コンテナトレーラーシャーシは20フィート用は自重3.4トン最大積載量20トン 40フィート用は自重3.6トン最大積載量24トン(フル積載タイプは3軸で自重4.6トン最大積載量30トン)と自重の6倍以上のコンテナを積載し重心が高かったり片荷の場合もあり想像以上に横転しやすいのでコンテナトレーラーとの並走はなるべく避ける事。

※トレーラー荷台の長さは法律で12m以下と定められているが、連結部のキングピンから最後部までを計測対象としているので法令違反には当たらない。

[編集] キャンピングトレーラー

詳細はキャンピングトレーラーを参照
キャンピングトレーラー
キャンピングトレーラー

箱型の居室にドア、窓、ベッド、ダイニングテーブル、キッチン、トイレ、シャワー等生活に必要な装備を一通り整えたものをキャンピングトレーラーという。規制緩和により連結時全長12m以下、車軸1軸、車両重量750kg以下のトレーラーは普通免許で牽引できるようになった。牽引時にトラクター側に取り付ける牽引装置(ヒッチ)は、市販品が数多く取り揃えられ、ドリル等でトラクターの車体に穴を開け簡単に取り付けられ、車検も問題が無い。車軸が2軸、或いは車重が750kgを越えるものは牽引免許が必要となる。中には軽自動車で牽引可能な軽量なキャンピングトレーラーもある。キャンピングトレーラーを牽引する際には、最寄の陸運支局でトラクターの牽引能力の書類審査と許可、またはトレーラーの車検証に牽引可能なトラクターの車種を記載する必要がある。キャンピングトレーラーに類似した軽量なトレーラーとして、モーターボートオートバイヨットグライダーなどを運ぶトレーラーがある。

[編集] トレーラーバス

詳細はトレーラーバスを参照
東京都日の出町の観光用トレーラーバス(西東京バス「青春号」
東京都日の出町の観光用トレーラーバス(西東京バス「青春号」

けん引二種免許が必要な唯一の車両。戦後日野自動車からボンネットタイプのヘッドと客車を連結したトレーラーバスが発売され活躍したが、機動性の問題や横須賀市での火災事故(※)を機に、次第に主流が単体の大型バスへと移っていった。現在の日本国内では、東京都西多摩郡日の出町などでの観光用の一部を除いて、公道での使用はされていない。

類似したものでは、千葉県などで連節バスという車両が、路線バスとして、運行路線を限定して営業している。動きや操作は牽引車そのものであるが、連結装置による車両の切り離しを前提としていない(切り離した場合走行不可でもある)ため、運転する際にけん引二種免許は必要ない。

1950年4月14日神奈川県横須賀市国道134号を走行中の京浜急行電鉄(現・京浜急行バス)が運行するトレーラーバスの客車で、火災が起きたにもかかわらずバスがそのまま走行を続け、結果的に50名近い死傷者を出す事となった事故。乗客が煙草に火をつけた際に投げ捨てたマッチが、別の乗客の持ち込んだガソリンに引火した事が火災の直接の原因であったが、運転席と客車が分離されており、運転士が騒ぎに気付かなかったという、牽引自動車ならではの欠陥が被害を拡大させる結果となった。

なお、この事件を機に道路運送法が改正され、車両への危険物の持込が禁止された。

[編集] 戦車トランスポーター

詳細は戦車トランスポーターを参照
SLT 50-3 エレファント (ドイツ陸軍)
SLT 50-3 エレファント (ドイツ陸軍

陸軍の大型車両(主に履帯装備車両)を輸送するための車両である。戦車などの装軌式車両を長距離自走させた場合、履帯の消耗や故障の原因に成りやすい。また燃費も悪いため、目的地までの移動には専用の牽引車両に搭載して輸送される。日本の陸上自衛隊も、同種の車両を保有している。

[編集] 教習車

詳細は自動車教習所#教習車を参照

自動車教習所運転免許試験場で使われる。9mまたは11mのセミトレーラーで、平ボディのシャーシをけん引している。けん引免許の試験は場内だけのため、ナンバーを取得していないものがほとんどである。けん引二種免許の試験も同じ車両を使用する。

[編集] 日本での各種規制

道路運送車両法による各種規制。

  • 全長規制
    • セミトレーラー:連結時の長さは16.5m
    • セミトレーラー(申請※):連結時の長さは17.0m
    • フルトレーラー:連結時の長さは19.0m
    • 単体トラック(参考):12.0m
  • 車両総重量規制
    • トレーラー:連結時で36t
    • セミトレーラー(-5m):単体で20t
    • セミトレーラー(5m-7m):単体で22t
    • セミトレーラー(7m-8m):単体で24t
    • セミトレーラー(8m-9.5m):単体で26t
    • セミトレーラー(9.5m-):単体で28t
    • セミトレーラー(申請※):単体で50t
    • 単体トラック(参考):25t
  • 1軸当たり重量
    • トレーラー:10t

※分割不可能な積載物を運搬する際に地方運輸局運輸支局へ申請する。次に通行する道路の管轄警察署へ申請し、通行道路・通行車線・走行時間・積載物・先導車の有無・人員の配置などの審査を行う。

[編集] 現象

トレーラー特有の現象には以下のようなものがある。

ジャックナイフ現象(トラクタロック現象)
スピード超過の状態でカーブにさしかかった時などに起こる現象。荷台の先端部分(肩)がトラクタ(頭)に付いて行かずトラクタとトレーラーの折れ角が鋭角になり、車両全体としてV字型になる現象。
トレーラースウィング現象(トレーラーロック現象)
トレーラーの後輪がロックしてしまい、野球バットスウィングのように、荷台が連結部を軸に回転(或いはそれに近い状態)する現象。
プラウアウト現象(トラクタフロントロック現象)
カーブなどでもトラクタとトレーラーが一直線になり、車線からはみ出る現象。
スネーキング現象
急ハンドルや急ブレーキ時の他に制限速度の80km/hを超えるような速度で運行すると追い越し車の風圧などを切っ掛けとして、センターアクスル式のキャンピングトレーラーなどに起こる。ヒッチボールを支点にして蛇のようにくねくねと連結車両が屈曲運動を起こし操縦不能になる。減速することによりスネーキング現象は解消される。名前の由来は、行。

[編集] その他

ナンバープレート
法令上、トラクタとトレーラはそれぞれ一台の車両(特にトラクターは単独で走行する事もあるので)となる。このためナンバープレートは個別となっている。ゆえに、連結時には前方と後方でナンバープレートが異なるのである。双方1ナンバーが原則だが8ナンバーのトレーラもある。なお、車検についても個別に通す必要がある。
反射板
トレーラには、荷台後方への三角形の赤い反射板()の設置が義務付けられている。これは、後方車両に全長の長い牽引車である事を知らせ、追い越しの際の注意を促すための措置である。
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