軌条
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
軌条(きじょう)とは、鉄道の線路(軌道)を構成する要素のひとつで、鉄道車両の車輪がその上を転がり重量を支えるとともに進路を誘導する案内路のことである。一般的にはレールと呼ばれる場合が多い。
鉄鋼分野では、棒鋼の一種に分類されている。
一般的には、鋼製の断面が逆Tの字型をした棒状のものが用いられる。これを所定の間隔で2本平行に並べ、道床の上に並べられたまくらぎの上に締結装置(犬くぎなど)を用いて固定する。まくらぎと軌条は垂直である。この様にして敷かれた線路上を走る鉄道を普通鉄道という。普通鉄道のほか、桁状の1本の案内路を使うモノレールや、特殊な案内路を用いる案内軌条式鉄道もある。
ここでは、普通鉄道に使われる鋼製の断面が逆T字型をした鉄道レールを中心に記述する。
目次 |
[編集] 分類
[編集] 普通レール
日本の営業用鉄道では、長さ1mあたりの重量が60kg, 50kg, 40kg, 37kg, 30kgの規格が使われており、普通レールと呼ばれる。重量の大きいものほど、乗り心地が良くて線路の狂いが生じにくく、重量のある列車が通る路線、列車が高速で走行する路線、運行頻度の高い路線に向いている。
- 60kgレール 現在の新幹線用、一部在来線に
- 50Tレール (1mあたりの重量53kg) 初期の東海道新幹線用、若返り工事で交換された
- 50Nレール 在来線用(主に幹線)
- 50kgレール (50kgPSレール=100ポンドPSレール)
- 40Nレール 在来線用(主にローカル線)
- 37kgレール (37kgASCEレール=75ポンドASCEレール)
- 30kgレール (30kgASCEレール=60ポンドASCEレール)
ASCEはアメリカ土木学会 (American Society of Civil Engineers) が定めた規格。PSはペンシルバニア鉄道規格 (Pennsylvania System) の略。レールのポンド表示は長さ1ヤードあたりの重量ポンド。
異なる重量のレールの境界部には、中継レールや異形継目板と呼ばれるものを用いる。
[編集] 分岐器用特殊レール
分岐器用特殊レールには、以下の規格がある。
- 80Sレール
- 70Sレール
- 50Sレール
[編集] 軽レール
通常の鉄道用の普通レール以外に、工事用や鉱山用のトロッコなどで使う細いレールもあり、軽レールと呼称される。
- 6kgレール(1mあたりの重量6kg、以下同じ)
- 9kgレール
- 10kgレール
- 12kgレール
- 15kgレール
- 22kgレール
[編集] 熱処理レール
普通レールに熱処理を施して、強度・硬さを増した熱処理レールと呼ばれるレールがある。これには、HH340レールとHH370レールがある。頭部全断面熱処理レールは、曲線部などに用いられる。端頭部熱処理レールは、レールに大きな負荷がかかるがロングレールが使用できず、継ぎ目を設けねばならないような箇所に用いるとされる。
[編集] 継ぎ目
レールは端部同士の継ぎ目を繋いで用いる。この接続方法は左右のレールが対に接続する相対式継目方式と左右のレールが対ではなく片方のレールがほぼ交互に接続する相互式継目方式の2種類がある。
[編集] 定尺レール
レールの標準の長さは1本25mで、定尺レールと呼ぶ。線路では、これを継目板で繋いで連続させて用いる。列車の車輪が、この継ぎ目を通過するガタンゴトンという音はジョイント音と呼ばれる。
[編集] ロングレール
一方、レールを溶接して繋いだレールもある。これをロングレールという。継ぎ目を減らすことで安定走行、騒音の低減、乗り心地の改善が図れる。
ロングレールの中央部はまくらぎに堅く固定されていて、気温変化による伸縮は抑え込まれている。しかし端部の継ぎ目部分は、温度変化により定尺レールよりも大きく伸縮するため、伸縮継目と呼ばれるものを用いる。
夏の猛暑の時期にレールがぐにゃりと曲がる事故が度々発生するが、これは前述のロングレールの固定部分が伸長に耐えきれなくなった時に起る。逆に冬の極寒の時期には、収縮によりロングレールが破断するトラブルが発生することもある。
ロングレール区間では、レールの間に樹脂製の絶縁物を挟んで接着した接着絶縁レールを用いて鉄道信号のための絶縁を確保している(これを用いない方法も開発されている)。
ロングレールは、新幹線で本格的に採用され、その後在来線や私鉄の幹線にも導入が進んでいる。
[編集] 区分
- ロングレール - 200m以上
- 長尺レール - 25m以上 200m未満
- 定尺レール - 25m(一部では、24mなどの寸詰まりなレールも存在する) (30kgレールは20m)
- 短尺レール - 5m~25m(調整用レールに使われているほか、ごく一部の地方のローカル線の古い規格のレールがそれである)
軽レールの長さは数メートルのものが多い。
[編集] 製造
[編集] 製造方法
高温で熱した鋼塊(オレンジ~黄くらいの色温度)を、ローラーを組み合わせて作られた圧延機に通して、圧延(熱延)する。圧延機は段階に合わせて数台あり、そこを複数回往復させる複雑な行程を経て製造される。
[編集] 材質と性質
材料としてはマンガン鋼が用いられる。敷設したばかりの新しい軌条は比較的軟らかいが、列車の通過により次第に硬くなってゆく。特に頭部の硬化が著しい。これは加工硬化の一例である(誤用の可能性有り、詳しくはノート:軌条を見て下さい)。
腐蝕に対しては無塗装でも比較的良好な状態を保つ。海岸部では錆の進行を抑える酸化皮膜が塩化物イオンにより破れるので、錆の進行が早くなる。地下水で湿潤なトンネルの中での錆の進行は意外に遅いが、廃線または線路の使用中止により、列車が上を通過しなくなった軌条は、錆の進行が進みやすくなる。これは列車の通過により巻き起こされる風の効果であることが判明している。十分な酸素の供給により不動態化するという説がある。
[編集] 歴史
[編集] 輸入
日本で最初の営業用鉄道の開業は1872年のことであるが、最初に使われたのは、イギリス DARLINGTON IRON 社の1870年製の双頭レールである。双頭レールとは、レールの平べったい部分がなく、上下ともに走行用に利用できるI字形の形状をしていた。
日本では1927年頃まで、イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国などから輸入したレールを使用していたが、国内生産品でまかなえるようになったことから、レールの輸入は原則として終焉を迎えた。
ただし路面電車用の特殊形状のレール(みぞレール、護輪みぞレールなど)は、わずかではあるが後年まで輸入品が使用された。近年になって、保守の軽減性から溝レール類が再輸入され、富山ライトレール、土佐電気鉄道、熊本電気鉄道などで使用されている。
[編集] 国産化
1901年の官営八幡製鐵所の開所に伴い、日本国内でもレールの圧延が開始された。1926年頃までは生産が追い付かず輸入品と併用されたが、この頃より生産体制が整い、レールの国産化が完了した。八幡製鐵所では、富士製鐵との合併により新日本製鐵となった現在でも、八幡地区でレール生産が行なわれている。
1952年からは、富士製鐵釜石製鐵所でもレールの生産が開始された。1970年の八幡製鐵と富士製鐵の合併の際、日本国内のレール生産が合併後の新日本製鐵1社のみとなり、独占禁止法に抵触する可能性が高くなったため、この釜石の設備を日本鋼管福山製鉄所に売却/移設を行った。日本鋼管は2003年、川崎製鉄と合併しJFEスチールと名前を変えたが、現在もレールの生産を行っている。
以後、現在にいたるまで、レールのほとんどが国産品でまかなわれている。また、日本で製造されたレールは海外にも輸出され、高い評価を得ている。
[編集] 再利用
使用後のレールは、駅のプラットホームの屋根などの骨組み部材として、よく再利用され、黎明期の古い輸入レールの製造所銘が残っていて、鉄道ファンなどの研究対象になっている(白金桟道橋など)。現在は、建築基準法などの改正や、よりレールに特化した素材組成の変化のため、建築資材には使われなくなった。また、古いレールを再利用したホームの屋根なども、高架化や地下化、バリアフリー対応などに伴う駅の改築で、姿を消しつつある。
現状は、鉄道関連イベントなどで、1cm程度に薄くスライスしてメッキ等を施したものが、文鎮などの記念品として販売されることがあるほかは、再び製造メーカーへ戻され、新しいレールの材料の一部にされていると言われている。
[編集] 規格
国内で使用するレール類は日本工業規格により、規格が定められている。レールに関する規格と継目板に関する規格を列挙する。
- JIS E 1001 - 鉄道-線路用語
- JIS E 1101 - 普通レール及び分岐器用特殊レール
- JIS E 1102 - レール用継目板
- JIS E 1103 - 軽レール
- JIS E 1104 - 軽レール用継目板
- JIS E 1105 - 路面電車用HTレール(廃止)
- JIS E 1105 - 路面電車用HTレール継目板(廃止)
- JIS E 1116 - レール用異形継目板
- JIS E 1120 - 熱処理レール
- JIS E 1122 - 中継レール
- JIS E 1123 - 端部熱処理レール
- JIS E 1124 - スラッククエンチ式熱処理レール(JIS E 1120 に統合)
- JIS E 1125 - 接着絶縁レール
- JIS E 1126 - 伸縮継目
[編集] 製造メーカー
普通レールの国内の製造メーカー
軽レールの国内の製造メーカー
- 合同製鉄
- 大同特殊鋼
ほか
[編集] 関連項目
軌条に関連する項目
軌条を含む用語