移調の限られた旋法
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移調の限られた旋法(いちょうのかぎられたせんぽう)とは、フランスの作曲家、オリヴィエ・メシアンが発案した制約的な使用を前提とした特殊な旋法。彼のごく初期の作品からその使用が数多く見い出されるが、ずっと後になって、自身の種々の作曲手法を体系化した音楽理論書「わが音楽語法」の中で広く知られることとなった。
目次 |
[編集] 歴史
オリヴィエ・メシアンはこの旋法を多用した。第2番と第3番が特に特徴的にこの概念を反映している。第4番以降は移調できる回数が6回と多くなるため、その知的な面白さはやや劣る。メシアンが提唱したもの以外にも異なる種類のものが5つ作成が可能である。
西洋音楽史上初のこの旋法の出現は、ミハイル・グリンカの「ルスランとリュドミラ 序曲」のコーダで低音の強奏により第1番が効果的に使われている。セザール・フランクの「ピアノ五重奏曲」第一楽章のクライマックスのピアノパートにて使われたのは補足第4番であり、メシアンはこのことを知っていたのか、「世の終わりのための四重奏曲」の曲中にて全く同じシチュエーション(低音域から順番に音階が上昇する)で第二番が使われている。クロード・ドビュッシーが好んだ全音音階は第1番と同じである。第2番は、フランツ・リストやモーリス・ラヴェルの中などにも同じ旋法が使用されているが、20世紀前半には「やや奇妙な音程関係の旋法がある」として意外にも知られていた様で、アントン・ヴェーベルン、アレクサンドル・スクリャービン、ボフスラフ・マルティヌーの作品に、同じ旋法を使った作品が見られる。
但し、この「移調の限られた旋法」は、十二平均律の音から順列組み合わせで数学的に得られる旋法の一種でしかなく、オリヴィエ・メシアンが意識的に使用し、そしてその論理を発表する前からその旋法はこの世に存在し得たものであるので、これと同じ旋法を使用したからといって、「オリヴィエ・メシアンの「移調の限られた旋法」」とそれを称するのには語弊がある。
本来オリヴィエ・メシアンはこれを、移調が限られている不可能の魅力とキリスト教的発想が結びついたところにその発端があり、第一義的に、数回移調すると元に戻ってしまう特徴を利用した形こそ、彼らしい使用である。しかしながら彼もそれを様々に利用しており、必ずしも移調を前提とせずに、局所的な色彩や雰囲気づくりの手段として純粋な旋法らしく使用することも多々あった。その場合においても、それを「移調の限られた旋法」と称するのには危険があるが、少なくとも彼の作品においてはこの名がどんな場合でも適用できる反面、他者の作品中でこの語を適用するには、かなりの場合注意が必要である。
[編集] 概念
まず、我々現代人がもっとも親しんでいる旋法である長調と短調や、教会旋法・五音音階などといった人類社会において自然発生的に出現した旋法のうち、その中でも特に12平均律で音程が近似できるものの移調可能性について述べる。これらの旋法はその構成音の数が12の約数である場合は少なく、多くは5や7になっている。このため、12平均律のそれぞれの音について、それがはじめの音(主音)となるような音階をそれぞれの旋法の規則にしたがって構成すると、ここで形成された12の音階のそれぞれを構成する構成音の集合は、すべて互いに異なるものとなる。すなわち、これらの旋法は、12平均律の中で12通りに移調させることが可能である。
次に、オリヴィエ・メシアンの考案した移調の限られた旋法の移調可能性について述べる。「移調の限られた旋法」は、その旋法を構成する音の数は12の約数になっており、さらにその音程関係が一定の周期で対称になっている。このため、12平均律のうちの異なる音をはじめの音として選んでいながらも、その音階を構成する構成音が集合として全く同じになっているような調の組み合わせが存在することになり、それゆえこの重複分だけ調の数が限られてしまうことになる。これが、「移調の限られた」の意味するところである。
[編集] 第1番
第1番の旋法は、全音の音程をなす二つの音列を6回重ねたものである。この旋法は2通りに移調ができる。これは全音音階という名前で呼ばれており、特にクロード・ドビュッシーらが愛用した。
- C, D, E, F♯, G♯, A♯, C
- C♯, D♯, F, G, A, B, C♯
[編集] 第2番
第2番の旋法は、半音-全音の音程をなす三つの音列を4回重ねたものである。この旋法は3通りに移調できる。「コンビネーション・オブ・ディミニッシュト・スケール(combination of diminished scale (mode))」とも呼ばれており、短三度ずつ、あるいは増四度離れた長和音を重ねることによりこの響きを得られることから、ジャズやポップスなどでも頻繁に用いられる。
- C, D♭, E♭, E, F♯, G, A, B♭, C
- C♯, D, E, F, G, G♯, A♯, B, C♯
- D, E♭, F, F♯, G♯, A, B, C, D
[編集] 第3番
第3番の旋法は、全音-半音-半音の音程をなす四つの音列を3回重ねたものである。この旋法は4通りに移調できる。
- C, D, E♭, E, F♯, G, A♭, B♭, B, C
- C♯, D♯, E, F, G, G♯, A, B, C, C♯
- D, E, F, F♯, G♯, A, B♭, C, C♯, D
- E♭, F, F♯, G, A, B♭, B, C♯, D, E♭
[編集] 第4番
第4番の旋法は、半音-半音-増二度(短三度)-半音の音程をなす五つの音列を2回重ねたものである。この旋法は6通りに移調できる。
- C, D♭, D, F, F♯, G, A♭, B, C
- C♯, D, E♭, F♯, G, A♭, B, C, C♯
- 以下略
[編集] 第5番
第5番の旋法は、半音-2全音-半音の音程をなす四つの音列を2回重ねたものである。この旋法は6通り移調できる。
- C, D♭, F, F♯, G, B, C
- 以下略
[編集] 第6番
第6番の旋法は、全音-全音-半音-半音の音程をなす五つの音列を2回重ねたものである。この旋法は6通りに移調できる。
- C, D, E, F, F♯, G♯, A♯, B, C
- 以下略
[編集] 第7番
第7番の旋法は、半音-半音-半音-全音-半音の音程をなす六つの音列を2回重ねたものである。この旋法は6通りに移調できる。
- C, C♯, D, E♭, F, F♯, G, G♯, A, B, C
- 以下略
[編集] 補足第1番
- C, D, E♭, F♯, G♯, A, C
[編集] 補足第2番
- C, D♭, E, F, G♯, A, C
[編集] 補足第3番
- C, C♯, D, E, F♯, G, G♯,A♯, C
[編集] 補足第4番
前述のフランクの作品に2回だけ使われるのはこの旋法である。
- C, C♯, D, E♭, F♯, G, G♯, A, C
[編集] 補足第5番
この旋法は作曲家ヨンギー・パク・パーン氏によって使われたことがある。
- C, E♭, F, F♯, A, B, C