雪国 (文学)
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『雪国』(ゆきぐに)は、川端康成の長編小説。1935年以降、「文藝春秋」「改造」などに分載。
主人公と土地の芸者・駒子、その許婚者(?)の妹・葉子の人間関係を描く。情景や心情の描写が特に高く評価されており、作者の代表作の一つ。
目次 |
[編集] 登場人物
- 島村 - 親の遺産で無為な生活を送っている。舞踊の批評やフランス文学の翻訳などをしている「文筆家の端くれ」。妻子あり。
- 駒子 - 東京でお酌をしていて旦那に落籍されたが、まもなく旦那が亡くなり、故郷に戻る。島村と初めて会った直後に芸者に出た。
- 葉子 - 踊りの師匠の娘で、駒子の許婚者(?)行男の妹。東京へ出て看護婦を目指したこともある。弟が国鉄に勤めている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
12月始め、主人公の島村は鉄道で雪国に向かい、車中で病人らしい男と一緒にいる娘・葉子に興味を惹かれる。島村が降りた駅で、その二人も降りた。旅館に着いた島村は以前に会った駒子を呼んでもらい、朝まで過ごす。
- 駒子に会ったのは新緑の5月、山歩きをした後、島村が初めての温泉場を訪れた時のことである。芸者の手が足りないため、島村の部屋にお酌に来たのが19歳の駒子であった。次の日島村が、女を世話するよう頼むと駒子は断ったが、夜になると酔った駒子が部屋にやってきて、二人は一夜を共にしたのだった。
昼の散歩中、街道で出会った駒子に誘われ、住んでいる部屋に寄ってみると、踊りの師匠の家の屋根裏部屋であった。車内で見かけた二人は師匠の息子(行男)と娘だったことを知る。行男は腸結核で長くない命だという。その後、按摩から聞いた話で、駒子は行男の許婚者で、治療費のため芸者に出たと知る(ただし、本人は許婚者ではないと否定する)。滞在中は毎晩駒子と過ごし、独習したという三味線の音に感動を覚えたりする。島村が帰る日になって、行男が危篤だという報せが入るが、駒子は死ぬところを見たくないと言い、島村を駅まで送る。
翌年秋、島村は再び温泉場を訪れる。駒子が来て、2月に来る約束を破ったとなじる。あの後行男が亡くなり、師匠も亡くなったと聞き、島村が墓参りをしようといい、二人で墓を訪れた。そこで葉子に出会うと、駒子の機嫌が悪くなる。
駒子は毎日島村の部屋に通ってくる。ある晩、葉子が駒子からの伝言を持ってくる。島村は葉子にも魅力を覚え、言葉を交わす。葉子は、東京へ連れて行ってほしいという。葉子が帰った後、駒子が来たので家まで送ってゆく(今は葉子の家を出て、駄菓子屋の2階にいる)。再び二人で旅館に戻り、酒を飲む。島村が「いい女だ」と言うと、その言葉を聞き違えて怒った駒子は泣く。
(同じ年?)島村は家族を忘れたように、冬の温泉場に逗留を続ける。ある夜、映画の上映会場になっていた繭倉(兼芝居小屋)が火事になる。人垣が見守る中、葉子が繭倉の2階から投げ出される。駒子は葉子を抱きしめる。
[編集] 出版
- 1935年(昭和10年)に一部を発表、その後書き継いで1937年(昭和12年)に「雪国」(創元社)と題して刊行された。
- 1947年(昭和22年)に火事のシーンなどを描いた「続雪国」を発表。(これは1940年に発表した「雪中火事」「天の川」を加筆したもの)
- 「続雪国」も含めた翌1948年刊行の『雪国』(創元社版)が決定版とされた。
[編集] 舞台・モデル
小説中には明記されていないが、物語の舞台は新潟県湯沢町である。 実際は高半に昭和9年秋より12年まで逗留し、かすみの間を中心に湯沢を描いた。
川端が1934年から数年通い詰めた芸者が湯沢におり、川端は「駒子のモデルはいるが、小説とは違う」という意味のことを語った。村松友視の『「雪国」あそび』はモデルの女性(1999年逝去)について書いている。
[編集] 書き出しの読み方
『雪国』は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」、という書き出しで始まる。「国境」とは群馬県(上野国)と新潟県(越後国)の境という意味である。 日本国内における旧国の境界の読み方は一般に「くにざかい」であるが、「こっきょう」と読まれることも多く、『雪国』における「国境」読み方には議論がある。
[編集] 鉄道にまつわる豆知識
- 「長いトンネル」というのは上越線の清水トンネルで、はじめに列車が止まった「信号所」は土樽信号場(現、土樽駅)と思われる。なお『雪国』の冒頭部分をテレビなどで取り上げる際、よく蒸気機関車に牽引された列車の映像が一緒に出される事があるが、上越線の該当区間は長大トンネルの煙害対策のために初めから直流電化で開業し、列車は電気機関車牽引だったため、映像表現として正しくない。
- 清水トンネルがある湯檜曽駅~土樽駅間を複線化するにあたり新清水トンネルが切削され、1967年より下り線用として供用を開始したため、旧来の清水トンネルは上り線用となった。そのため現在、川端が執筆した当時の清水トンネルを抜けて「雪国」を訪れることはできない。
[編集] 映像化作品
2005年現在までに、テレビドラマ5本と映画2本が製作されている。
[編集] テレビドラマ
- 1962年 - 文芸シリーズ「雪国」(TBS系列、連続7回、出演:池内淳子、山内明、岸久美子、阿部寿美子ほか)
- 1970年 - 長時間ドラマ「雪国」(NHK、単発、出演:中村玉緒、田村高廣、亀井光代ほか)
- 1973年 - 「雪国」(フジテレビ系列、連続4回、出演:大谷直子、山口崇、三浦真弓、原田大二郎ほか)
- 1980年 - 木曜ゴールデンドラマ「雪国 純白の雪と湯煙りに燃える恋!」(日本テレビ系列、単発、出演:松坂慶子、片岡孝夫、真行寺君枝、堀内正美、内田朝雄ほか、語り:森繁久彌)
- 1989年 - ドラマスペシャル「雪国」(テレビ朝日系列、単発、出演:古手川祐子、鹿賀丈史、有森也実、富田靖子ほか)
[編集] 映画
- 1957年 - 「雪国」(製作:東宝、監督:豊田四郎、出演:池部良、岸惠子、八千草薫、森繁久彌、加東大介、浦辺粂子、市原悦子ほか)
- 1965年 - 「雪国」(製作:松竹、監督:大庭秀雄、出演:岩下志麻、木村功、加賀まり子、沢村貞子、早川保、柳沢真一ほか)
[編集] 翻訳
- Snow country(エドワード・サイデンステッカー訳、1957、Unesco translations of contemporary works)
[編集] 評価
福田和也は、本作品を20世紀十大小説の一作と評価している。