黒歴史
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黒歴史(くろれきし)とは
- アニメ『∀ガンダム』の劇中用語。本稿で詳述。
- 1.に関連し「無かったことにしたいこと、触れてほしくないこと」「忘れ去られた事」などの意味として使われるスラングのこと。本稿のスラングとしての用法の節で詳述。
黒歴史(くろれきし)とは、アニメ作品『∀ガンダム』における過去の歴史、『∀ガンダム』を除く全てのガンダムシリーズにおける戦争の歴史のことである。∀ガンダムの「月光蝶」によって埋葬されたとされている。
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[編集] 概要
ガンダムシリーズには『機動戦士ガンダム』に連なる作品群の「宇宙世紀」世界だけではなく、『機動武闘伝Gガンダム』の「未来世紀」、『新機動戦記ガンダムW』の「コロニー暦(アフターコロニー)」、『機動新世紀ガンダムX』の「アフターウォー」といった別世界を舞台とする作品も存在する。これら宇宙世紀以外を舞台とする作品は「アナザーガンダム」と呼ばれ、ファンの間で「これらも正当なガンダムか否か」という議論が起こっていた。かつて『機動戦士ガンダム』を生み出した富野由悠季は、新たに手がけた『∀ガンダム』において、宇宙世紀もそれ以外の世界観も全て「黒歴史」として一つの流れの中に置くことで、シリーズにわたって中軸となる新たな視点を示した。
(しかし「宇宙世紀の文明が滅亡した後の世界」といった程度の認識に基づき、あたかも間違いを見つけたかのようなつもりで「作中の映像記録の中に『G』や『W』の映像が入っている」とツッコミを入れるような、完全に的を外した∀ガンダム評が存在している。<例:月刊ウラBUBKA 2004年11月号の特集『僕たちの嫌いなガンダム』>)。
『機動戦士ガンダムSEED』シリーズのコズミック・イラ世界については、『∀ガンダム』の後に制作されたことなどから、黒歴史に含まれるのかどうかについてファンの間で議論がある。これに対し、雑誌月刊ガンダムエースで連載されていた安田朗『月の風』冒頭ではコズミック・イラ世界も黒歴史の一つとして含まれ、ガンダムシリーズの終着点は『∀ガンダム』であり、『∀ガンダム』より後のガンダムシリーズも黒歴史の一つであるという見方が提示された。
本来、黒には「不吉なもの、よくないもの」という意味の他に、全てを混ぜ合わせた色という観点から「全てを包含する」という意味もある。この解釈では過去の作品群の総括をテーマの一つとした『∀ガンダム』の方向性と一致している。
[編集] 劇中での描写
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
『∀ガンダム』の舞台となる正暦世界において黒歴史は(月の民)たちの間でも限られたものしか触れられることは許されなかった。アグリッパ・メンテナーらメンテナー一族が管理を行っており、「冬の宮殿」において封じられていた。ムーンレィスと地球の人々との紛争の渦中、月の女王ディアナ・ソレルたちの前で黒歴史とは何たるかが明かされ、『∀ガンダム』は過去のガンダムシリーズの歴史の上に成り立った世界であることが明かされた。
それらの映像に映し出された黒歴史の宇宙戦争の様子は『機動戦士ガンダム』、『機動戦士ガンダムΖΖ』、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』、『機動戦士ガンダムF91』といった富野監督作品のみならず、『機動新世紀ガンダムX』および『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』のそれぞれの一場面もあった。『機動武闘伝Gガンダム』に関しては厳密に言えば戦争ではない(国際競技の場を戦争行為の代理としている)設定である為、本編でもそれを受け、記録映像中には登場しない(即ち「Gガンダムの映像が出ている」というウラBUBKAの指摘は、二重に誤っているといえる)。しかし劇場版「月光蝶」は例外でドラゴンガンダムの試合風景が出てくる。 だが、地球人のシドによって「冬の宮殿」から持ち出されたデータには『Gガンダム』に登場するモビルホースと思われるデータも見受けられたり、ターンXの装備の描写にシャイニングガンダムとの接点が設けられている。そもそも、この「冬の宮殿」自体が『機動戦士Vガンダム』に登場した戦艦スクイード級を基にして立てられた建造物であったようである。また、『機動戦士ガンダム』の時代は『∀ガンダム』の時代・正暦2343年から約1万年前(劇場版では5000年前)の話であったということも語られている。
この黒歴史には多数の技術の情報も残されており、地球の産業革命を志すグエン・サード・ラインフォードはギンガナム側に寝返ってまで、この技術を手に入れようと画策した。そして黒歴史は紛争終結後にディアナの意向により開放され、民衆の目に触れることとなった。
ただし、もともと地球でも黒歴史の一部はマニューピチに伝わるガンダムシリーズの始まりから世界の終わりまでを抽象的に物語ったものであったし、地域によっては『機動武闘伝Gガンダム』の劇中の顛末が神話として知られていたとする資料もある。
なお、福井晴敏著『月に繭 地には果実』ではガンダム全肯定のアニメ版とは異なった解釈となっている。「冬の城」のビジュアル・データ室でディアナが明かす黒歴史の範囲は『Vガンダム』までで、それ以降のアナザーガンダム作品については一切言及されなかった。また、映像と共にギレンやハマーン、シャアたちの演説が次々と流されていくという小説版独自の描写がなされていた。
また、前述の『月の風』の経緯を受けてか、コズミック・イラ世界の続作『機動戦士ガンダムSEED C.E.73 ⊿ ASTRAY』では、「ターン」の名を冠したターンデルタアストレイ、ウォドムの面影を感じさせるガードシェルなど、意識的に『∀』の世界に接点を設けたと思われる設定がいくつか登場している。これらの機体の存在と絡めて、『∀』や『G』の世界のバックボーンとして暗に描かれていた人類の火星進出に関して、初めて具体的に触れている。また、アメノミハシラは「アデスの樹」や「ザックトレーガー」のような軌道エレベータ建設の萌芽である。これらの設定は『SEED』シリーズにおいて「特殊設定」というポストを担当したスタジオぬえの森田繁によるもので、『∀』においても「設定考証」なるポストで、黒歴史なる世界観の具体的内容を構築・提示したスタッフのひとりである。
[編集] 黒歴史の遺産
『∀ガンダム』の世界には、いわゆる超古代文明のオーバーテクノロジーとして「黒歴史の遺産」と呼ばれる種々の機器が登場する。最も代表的なものは「機械人形」と呼ばれる巨人のような兵器で、これは黒歴史とされる過去の時代においてモビルスーツ(MS)と呼ばれていた人型有人機動兵器である。これは遠い過去に「月光蝶」によって埋葬され、『∀ガンダム』の時代において「マウンテンサイクル」と呼ばれる場所からほぼそのままの状態で発掘された。機械人形以外にも移動要塞や宇宙戦艦などといった大型の乗り物も発掘されている。これらは科学力がムーンレィスに比べて大きく遅れている地球の人々の貴重な戦力として活躍している。
黒歴史の遺産としては、「宇宙世紀」と呼ばれた時代の兵器が数多く発掘されている。例えば「ボルジャーノン」と呼ばれる「ザク」や、「カプール」に身の丈以外はそっくりな姿をした「カプル」などである。また宇宙世紀以外の時代についても、それぞれの時代に使われた何らかのものに近いものが何らかの形で登場している。たとえばウォドムやゴッゾーなどがそれにあたる。
そして過去のガンダムシリーズにおいて描かれていない時代のものらしき機器も、「黒歴史の遺産」として登場している。その代表格が∀ガンダムであり、ターンXである。この二機が有する「月光蝶」が、過去の歴史を「黒歴史」として埋葬したとされている。このほかにも従来のガンダムシリーズでは未だ描かれていない時代の様子を(断片的にではあるが)機体に添えられたエピソードから想像できるようになっている。この場合はフラットやバンデットなどがそれにあたるといえる。
[編集] スラングとしての用法
「黒歴史→戦争の類→負の遺産」という意味合いを軸にして、ドラマやアニメ、映画や漫画作品、あるいは有名人の過去の事柄(不祥事など)において「無かったことにしたいこと、触れてほしくないこと」「忘れ去られた事」などの意味として使われるスラングのこと。当初はアニメファンの間で使われていたものであるが、今ではネット掲示板などで広く普及しネット上の用語として定着しつつある。『∀ガンダム』を知らない層にも流布しており、しばしばそのニュアンスは原典での用法を逸脱・曲解し、逆に、肯定・包含どころか否定・封印さらには排除したいという雰囲気が強い状況で、「埋もれてしまっていた過去」ではなく「葬りたい過去」として使われることが多い。なお、これについては本来的な用法を考えると誤用であるが、昨今はこの様な用法も散見され、本来の意味を離れてひとり歩きしているというのが現状である。ガンダムファンの間ではこのようなかたちでの流布を歓迎しないという意見が少なからず挙がっている。
一方で、これと似た傾向の言葉のひとつとして、『∀ガンダム』の製作発表イベントで原作・監督の富野由悠季が発した(劇中における「黒歴史」とは逆説的意味合いの)「全肯定」なるタームも、それ以降ネット上でスラングとしてよく用いられる物のひとつである。