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Be-12 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Be-12チャーイカ(Be-12チャイカ、ベリエフ12チャイカ;ロシア語Бе-12 Чайкаビェー・ドヴィナーッツァチ・チャーイカ)は、ソ連ベリエフ設計局で開発された水陸両用飛行艇。愛称の「チャイカ」はロシア語で「」のこと。特徴的なガル型翼(鴎のように「へ」の字型に曲がった翼形)に由来する愛称である。北大西洋条約機構(NATO)では、Be-12に対し「鎖帷子」という意味の「メイル」(Mail)というNATOコードネームを割り当てた。

なお、開発者のゲオールギイ・ミハーイロヴィチ・ベリーエフはBe-12成功の偉業によりソ連国家賞(Государственные премии СССР)と褒賞を受けている。

Be-12P-200
Be-12P-200

目次

[編集] 概要

[編集] 哨戒飛行艇

Be-12は、陸上機であるIl-38とともに前任機の大型哨戒飛行艇Be-6を代替する目的で開発され、1960年に初飛行を行った。ベリエフ設計局ではこれより以前に大型飛行艇Be-10を飛行させていたが、これがリューリカ製AL-7PB(АЛ-7ПБ)ターボジェットエンジン2 基を後退翼である主翼付け根下面に搭載した画期的な機体であったのに対し、一方のBe-12の開発ではよりオーソドックスなスタイルが採られていた。Be-10とBe-12の開発はともに1950年代に行われたが、この時代はまだ技術が確立せずさまざまな模索の続けられていた困難な時代であった。そのため、初のジェット飛行艇であり先進的だが技術的には不安の大きいBe-10と、すでに成功を収めているBe-6の構造をそのまま踏襲したようなBe-12とを平行して開発することは、二度手間ではあるが海軍からの要求をスケジュールどおりにこなすためには必要な保険であると言えた。結局、当時ソ連最大の出力を発揮できたがいまだ完成の域に達していなかったAL-7エンジンを搭載したBe-10は芳しい結果を得られず、その派生型Be-10Nも生産されずに終わった。

一方のBe-12は設計局が全精力をBe-10の開発に注いでいたため開発が遅れ、1957年11月になってようやくはじめの模型が関係者の間で公開された。その後も機体の設計は思いのほか手間取り、1960年6月30日に試作初号機が完成し同年10月18日に初飛行を果たしたものの、試験はその後もながらく続けられた。先人のひとつである日本二式飛行艇でもそうであったように、大型飛行艇の開発は陸上機にはない離着水の問題など多くの困難な課題を持っていた。それに加え、Be-12では新しい哨戒システムに対応することが求められたため、新型の電子機器類の開発も平行して行われていた。

Be-12はBe-6から特徴的なガル型翼を受け継いでいたが、これはエンジンを海面からできる限り遠ざけるために有効な手段であると考えられた。尾翼は、機体の安定性を高めるために2枚の垂直尾翼を備えた。エンジンには、最終的に従来のレシプロエンジンにかえてイーフチェンコ(Ивченко;現プログレースプログリェーッスПрогресс)製の新しいターボプロップエンジンAI-20D(АИ-20Д)が選定された。

試作2号機は1962年9月に完成したが、この機体は初号機とは本質的に異なる機体となっていた。この機体をもとに試験が続けられ、量産型Be-12が完成された。

量産型Be-12には、PPS-12(ППС-12)自動捜索・追跡システムが搭載された。このシステムには、イニツィアチーヴァ-2B(«Инициатива-2Б»:инициативаは「イニシアチヴ」のこと)または頭文字をとってたんにI-2B(«И-2Б»)と呼ばれる無線ロケーター・システムや水中音響ブイに接続するSPARU-55(СПАРУ-55)航空ラジオ受信装置、ANP-1V-1(АНП-1В-1)自動ナヴィゲーション装置、PVU-S-1(ПВУ-С-1)またはスィレーニ-2M(スィリェーニ-2M;«Сирень-2М»: сиреньは「ライラック」「リラ」のこと)と呼ばれる追跡コンピューター、オートパイロット装置AP-6Ye(АП-6Е)などが含まれた。

Be-12の配備は1965年の春から始められた。Be-12はそれまで試験を行ってきたタガンロークに置かれていたBe-6装備の飛行隊に配属され、若干の習熟期間ののち実動体制に入った。その後も黒海艦隊をはじめ多くの航空隊へ配備が進み、最終的にはすべてのBe-6を置き換えた。

Be-12の改良はその後も続けられ、最新の哨戒システムを搭載していたため基本的にソ連国外へは輸出されなかった。これは、防空軍の迎撃戦闘機が防空システムの機密を守るため基本的に輸出されなかったのと同様のことである。例外はソ連が直接要員を派遣していたエジプトヴェトナムで、少数機がこれらの国で運用された。

Be-12は、初期にはIl-38、Be-6、Ka-25、Mi-4PL、Mi-14などとともに、のちにはIl-38、Tu-142、Ka-27PLなどとともにソ連沿岸の哨戒任務に就いた。

ソ連の崩壊後も、Be-12は独立したロシアで多数が運用された。予算不足により後継機の配備が遅れていることもあり、機体の経年数にも拘らず運用は続けられている。また、ウクライナでもBe-12を運用していたが、これらはすべて哨戒機型ではなく捜索・救難機型である可能性もある。

なお、中華人民共和国ではBe-12や日本のPS-1を参考に水轟五型(SH-5)が開発されている。同機はBe-12同様の対潜哨戒任務のほか、対艦攻撃、救難、輸送などに幅広く使用されている。

[編集] 捜索・救難飛行艇

Be-12の増備により余剰化したBe-6は捜索・救難機として用いられていたが、新たな機体が必要となることは時間の問題であった。しかしながら、この分野へは、多くの時間や経費をかけることへの許可は期待できなかった。この用途へは新たにBe-14 (Бе-14)が開発されていたが、この新型機への運用側の姿勢はあまり積極的なものではなかった。そのため、既存の対潜哨戒飛行艇から爆撃装置や捜索・追跡システムなどを取り払い機内構造を整理し、治療室を設け医療器具を搭載した機体が開発された。また、乗組員には医療専門のメンバーが加えられた。着水しての救助活動に当たっては、空気展張式のモーター救助ボートLAS-5S(ЛАС-5С)が使用されることとなった。空中から遭難者を引き上げるための装置は機体右舷のハッチから行われることとなった。この機体の積載量は、Be-14同様通常15人、最大で29人までとなった。また、空中からの救助のためKAS-90(КАС-90)非常用コンテナーを7つまで機外に搭載することとされた。

こうして完成されたBe-12PS (Бе-12ПС)は1969年に試験を通過し、1971年から少数がタガンローク工場で生産された。一部は直接工場の部隊に配備された。

1972年には、海軍と開発側が共同で悪天候時における海上救助任務に関する評価を行った。同年10月5日から、Be-12PSの試験飛行が行われた。13回の飛行と29回の離着水が行われ、飛行時間は14時間29分に及んだ。

着水時の安全性の確保のため、本来の装置以外に機首へはPRF-4(ПРФ-4)ヘッドライト、RV-UM(РВ-УМ)電子高度計にかえて新しいRV-ZM(РВ-ЗМ)、海面指示爆弾OMAB-8N(ОМАБ-8Н)、照明爆弾CAB-100-90(САБ-100-90)が搭載された。

調査は第二段階へ進められた。着水時に関する概要が仕上げられ、悪天候時の試験で使用された装置の昼間での着水時における装備が試された。第二段階では光学装置と悪天候時の試験で決定された使用が評価された。

出された結果によって、内海での夜間着水は可能であると結論付けられたが、なお若干の注文が着いた。それに従い、以前より必要性が指摘されていたメートル波波高計の装備することが予定され、その他にも低高度時に使用するエックス線高度計ファーケル-1(Факел-1:факелは「松明」のこと)が追加装備されることとなった。この装置は、飛行高度のみならず降下時の垂直速度も計測するものであった。

これらの変更点を仕上げたあとも試験は続けられたが、重要な変更は生じなかった。

Be-12PSは、ソ連の崩壊後は独立したロシアで多数が継続運用されたほか、ウクライナへも計5 機のBe-12およびBe-12PSが引き継がれ、はじめ同国海軍航空隊で、のち空軍へ移管され運用された。

1997年8月には、ウクライナでBe-12PSの救難機としての運用範囲の拡大を目的とした試験が行われた。この試験ではウクライナ海軍航空隊救難部隊の責任者の指示により、Be-12PSから浮遊救難具が投下され、パラシュートを背負った救助員が飛び降りた。フェオドーシヤにある国立航空科学研究センター(GANTs; Государственный авиационный научно-исследовательский центрГАНИЦ)のパラシュート降下専門家によって機内に樋が準備された。その支援により、機上作業者は操縦士の合図に従って救難ボート、2 艘のLAS-5M-3(ЛАС-5М-3)または1 艘のPSN-6A(ПСН-6А)を投下し、降下救助員は通信士ドアより飛び降りた。試験は、GANTsの降下救助員によって続けられた。20回にわたる試験は、ボートの投下・展張も含め万事順調に行われた。また、取り付けられた樋はパラシュートの安定化に寄与した。降下救助員は1人、2人、または4、5人のグループで飛び降りた。試験は上首尾に終わり、その結果によって航空隊へのBe-12PSの追加が決められた。このような救難ボートと降下救助員の投下は、その後も1998年から1999年にかけての間ウクライナ海軍とロシア海軍黒海艦隊との合同演習やオデッサ軍港での模擬訓練などで一度ならず実施された。通常機上では6 艘のボートと2、3人の救助員が搭乗していた。

[編集] 消防飛行艇

近年ではベリエフではより近代的な大型両用飛行艇であるA-40MやBe-200などの開発に精力を傾けているが、Be-12の発展型として消防活動に運用するBe-12P(Бе-12П)及びBe-12P-200(Бе-12П-200)を飛行させている。消防分野は救難分野と並んで飛行艇の需要が高い分野であるので、ベリエフでは今後この分野での世界的地位を確立していきたいところである。その際ベリエフにとって最大のライバルとなるのは、CL-215およびCL-415を擁するカナダボンバルディア・エアロスペース社である。これらの飛行艇は高い販売実績を持っているが、ベリエフではBe-12P/P-200やBe-200などより高い能力を持った機体でそれらに対抗しようとしている。

[編集] 派生型

  • Be-12チャイカ(Бе-12 Чайка):水陸両用対潜哨戒飛行艇として開発された基本型。1960年に初飛行。
  • Be-12SKチャイカ(Бе-12СК Чайка):水陸両用対潜哨戒飛行艇として開発された派生型。運用兵器の中に5F-48スカーリプ核爆弾(ядерный боеприпас 5Ф-48 "Скальп")が追加されたことが、もっとも重要な変更点であった。「スカーリプ」とは、敵の頭から剥ぎ取った毛髪つきの頭皮のことである。この爆弾は高度2000 mから8000 mの上空から投下され、200 mから400 mの深度の海中で爆発するもので、12発が製造された。
  • Be-14(Бе-14):水陸両用捜索・救難飛行艇として開発された派生型。1969年に初飛行。各種試験は成功したが、発注の見込みが少なかったことから量産には到らなかった。
  • Be-12PSチャイカ(Бе-12ПС Чайка):水陸両用捜索・救難飛行艇として開発された派生型。1969年に初飛行。
  • Be-12Nチャイカ(Бе-12Н Чайка):水陸両用対潜哨戒飛行艇として開発された派生型。新しいナルツィース-12捜索・追跡システム(ППС Нарцисс-12:нарциссは「水仙」のこと)を搭載した。1976年に初飛行。
  • Be-12Pチャイカ(Бе-12П Чайка):水陸両用消防飛行艇として開発された派生型。1992年に初飛行。
  • Be-12P-200チャイカ(Бе-12П-200 Чайка):水陸両用消防飛行艇として開発された派生型。1996年に初飛行。

[編集] スペック

Be-12
Be-12

[編集] Be-12

  • 初飛行:1960年
  • 全幅:29.84 m
  • 全長:30.11 m
  • 全高:7.94 m
  • 翼面積:99.00 m²
  • 空虚重量:24000 kg
  • 通常離陸・離水重量:29500 kg
  • 最大離陸・離水重量:36000 kg
  • 燃料搭載量:9000 kg
  • 発動機:プログレース製 AI-20D ターボプロップエンジン ×2
  • 出力:5180 els ×2
  • 最高速度:530 km/h
  • 巡航速度:450 km/h
  • 実用航続距離:3300 km
  • 任務行動半径:500 km
  • 実用飛行上限高度:8000 m
  • 乗員:4 名
  • 武装:機内および機外に通常1500 kg、最大3000 kgまでの積載量:450 mm対潜魚雷AT-1またはAT-2、深度爆弾、照明弾OAB、マーカー

[編集] Be-12PS

  • 初飛行:1969年
  • 全幅:29.84 m
  • 全長:30.11 m
  • 全高:7.94 m
  • 翼面積:99.00 m²
  • 空虚重量:24000 kg
  • 通常離陸・離水重量:29000 kg
  • 最大離陸・離水重量:35500 kg
  • 燃料搭載量:9000 kg
  • 発動機:プログレース製 AI-20D ターボプロップエンジン ×2
  • 出力:5180 els ×2
  • 最高速度:540 km/h
  • 巡航速度:465 km/h
  • 実用航続距離:3300 km
  • 任務行動半径:650 km
  • 実用飛行上限高度:8000 m
  • 乗員:6 名
  • 武装:通常時15 名、過積載時29 名まで

[編集] 外部リンク

※画像リンク

[編集] 関連項目

ベリエフ設計局の飛行艇

対潜哨戒機

対潜哨戒ヘリコプター

消防機

消防ヘリコプター

[編集] 外部リンク

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