ISO 15504
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ISO/IEC 15504は、ソフトウェア開発工程の評価フレームワークであり、国際標準化機構（ISO）と国際電気標準会議（IEC）の合同技術委員会によって策定された。SPICE（Software Process Inmprovement and Capability dEtermination）とも呼ばれる。
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[編集] 概要
ISO/IEC 15504 はフレームワークであって特定の標準規格ではない。その主題は組織の運営能力とプロセス定義構造である。また、ISO/IEC 15504 は方法論ではない。ソフトウェアプロジェクトで発生しうる活動を定義しているが、それを実施すべきものとしているわけではない。ISO/IEC 15504 は評価人（assessor）が評価の過程で集める証拠の分類を与え、それによって評価人が組織の能力を判定する。
[編集] ISO/IEC 15504 標準
ISO/IEC 15504 の技術レポートは9つの部分に分かれている。パート1 はコンセプトの解説であり、フレームワークの概要がわかるようになっている。
[編集] 参照モデル
ISO/IEC 15504 には「参照モデル」が含まれている。この参照モデルは「プロセス次元; process dimension」と「能力次元; capability dimension」を定義している。参照モデルは技術レポートのパート2で解説されている。
[編集] プロセス
「プロセス次元」はプロセスを以下の5種類に分類したものである:
- 顧客-供給者
- 技術
- サポート
- 管理
- 組織
[編集] 能力レベルとプロセス属性
各プロセスについて、「能力レベル」が以下のように定義されている:
| レベル | 名称 |
|---|---|
| 5 | 最適化されているプロセス（Optimizing process） |
| 4 | 予測可能なプロセス（Predictable process） |
| 3 | 確立されたプロセス（Established process） |
| 2 | 管理されたプロセス（Managed process） |
| 1 | 実施されたプロセス（Performed process） |
| 0 | 不完全なプロセス（Incomplete process） |
プロセスの能力はプロセスの属性によって測定される。次の9つの属性が定義されている（番号 X.Y の X は上述のプロセスのレベルに対応する）:
- 1.1 プロセス実施（Process Performance）
- 2.1 プロセス管理（Performance Management）
- 2.2 作業成果物管理（Work Product Management）
- 3.1 プロセス定義（Process Definition）
- 3.2 プロセス展開（Process Deployment）
- 4.1 プロセス測定（Process Measurement）
- 4.2 プロセス制御（Process Control）
- 5.1 プロセス革新（Process Innovation）
- 5.2 プロセス最適化（Process Optimisation）
各プロセス属性を4段階(N-P-L-F)で評価する:
- 達成できていない: Not achieved (0 - 15%)
- 部分的達成: Partially achieved (>15% - 50%)
- ほとんど達成: Largely achieved (>50%- 85%)
- 完全達成: Fully achieved (>85% - 100%).
[編集] 評価
ISO/IEC 15504 は評価実施のガイドでもあり、次のような部分を含む:
- 評価プロセス
- 評価のためのモデル
- 評価で利用するツール
- 成功のための要因
評価実施については、技術レポートのパート3および4に記述されている。パート3は規範的な内容で、パート4 はパート3 の要求を満たすための手引きとなっている。
[編集] 評価モデル
評価モデルとは、実際の評価に使用する詳細なモデルである。これは参照モデルに基づいて作る。技術レポートのパート5では評価モデルの例が説明されているが、手法を間違わなければ他のモデルを使用して評価してもよい。
[編集] アセッサー
「アセッサー; assessor」には以下のようなスキルが要求される:
- コミュニケーションスキルのような個人的能力
- 相応の教育と訓練を受け、経験を積んでいること
- 特定の分野での評価にはその分野での特定スキルが必要となる。
- ソフトウェア能力評価に関する訓練と経験
評価人の能力に関することは技術レポートのパート6で記述されている。
[編集] ISO/IEC 15504 の利用
ISO/IEC 15504 は以下の2つの場合に使われる:
- プロセス改善
- 能力判定（供給者のプロセス能力評価）
[編集] プロセス改善
ISO/IEC 15504 は技術部門（組織）のプロセス改善に利用される。プロセス改善は難しく、失敗することが多いため、最初に現状のレベルを正しく把握することが重要であり、改善プロジェクト実施後に再度評価する。ISO 15504 は組織の各段階の能力の評価標準を提供する。特にISO/IEC 15504の参照フレームワークは、目標定義の構造を提供し、その目的を達成するためのプログラム策定を助ける[1]。
プロセス改善については、技術レポートのパート4に記述されている。
[編集] 能力判定
ソフトウェア開発のアウトソーシングを検討している組織は業者の能力をよく知る必要がある。ISO/IEC 15504 は業者選定に使うこともできる。ISO/IEC 15504 は業者を評価するためのフレームワークを提供し、それを使ってその組織自身が評価することもあれば、第三者の評価人が評価することもある。
組織は必要性に応じて業者の「能力目標」を設定し、それに照らして業者の評価を行う。これは、コストパフォーマンスを常に求める組織では重要である。また、業者側にとっても自分たちの能力と顧客の求める能力のギャップを知るよい機会でもある。能力判定の価値を高める手法として Practical Process Profiles [2] があり、目標設定時にリスクを考慮する。リスクとプロセスの結合は能動的なリスク削減による改良を促進し、それによって問題発生の可能性を削減する。
業者の評価に関しては、技術レポートにパート4に記述されている。
[編集] 歴史
1993年、SPICE の国際標準のドラフト作成のためのワーキンググループが結成された。SPICE は当初 "Software Process Improvement and Capability Evaluation" の略とされたが、フランス語での evaluation の意味が問題とされ、"Software Process Improvement and Capability Determination" の略に変更された。
現在は ISO 15504 が正式名称だが、SPICE という名称もユーザーグループの会議などの名称に使われている。SPICE の名を冠した会議は2000年にアイルランド島のリムリックで開催されたのが最初で、"SPICE 2003" は欧州宇宙機関主催でオランダで、"SPICE 2004" はポルトガルで、"SPICE 2005" はオーストリア、"SPICE 2006" はルクセンブルクで開催された。
当初、ソフトウェア開発工程のみを扱っていたが、例えば、プロジェクト管理、構成管理、品質保証などソフトウェアビジネス関連のあらゆるプロセスを扱うよう拡張された。適用範囲は以下の6つのビジネス分野である:
- 組織
- 管理
- 技術
- 購入
- サポート
- 運用
2004年のドラフト版では、プロセス参照モデルは削除され、ISO 12207のソフトウェアライフサイクルと直接関連付けられた。現在では測定フレームワークが中心であり、他の参照モデルを使うことができる。5つの汎用/産業モデルが使われている。
[編集] 他のフレームワークとの関係
ISO/IEC 15504 は ISO 12207 から派生して策定された。能力成熟度モデル統合 (CMMI) は ISO 15504 の考え方を多く取り入れている。
[編集] ISO/IEC 15504 の置かれている状況
ISO/IEC 15504 は以下の点で成功を収めている:
- ISO/IEC 15504 はISOやIECの規格として使用可能である。
- 国際的なサポートがある。
- 4000以上の評価が実際に行われた。
- 自動車産業、宇宙産業、医療機器産業などが採用している。
- Automotive SPICE（自動車産業用）などドメイン固有モデルがSPICEから派生して作成された。
一方、能力成熟度モデル統合 (CMMI) に比較すると成功していない面も多々ある。以下はその理由である:
- ISO から購入しなければならない（Automotive SPICE は下記リンク先で無料ダウンロード可能）。CMM や CMMI は無料ダウンロード可能である。
- CMMI はアメリカ国防総省などの積極的サポートがある。
- CMMI はアメリカ合衆国発祥であるため、米国企業で採用しているところが多い。
- CMM は ISO 15504 より早く作成され、利用されてきた。
- CMM は CMMI に置き換えられ、ISO 15504 の考え方もそこで取り入れられた。もちろん CMM の長所も残っている。
CMM と同様、ISO/IEC 15504 も開発工程を念頭に置いて策定されたため、サービスなどの他のコンテキストへの適用は難しい。しかし、ITILに基づいたプロセス参照モデルの開発が始まっている。さらに様々なコンテキストでの活用手法もある[3]。
[編集] 参考文献
- Process Assessment and ISO 15504 ISBN 0-387-23172-2
- Process Assessment and Improvement ISBN 0-387-23182-X
