X染色体
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X染色体(えっくすせんしょくたい)とは有性生殖形の真核生物にみられる性染色体の一種である。性決定機構がXY型またはXO型の生物に存在する。
性決定が染色体によってなされる場合に、大部分の染色体は雄雌に共通であり、性決定に関わる染色体は1本ないし1対である。これら1本ないしは1対のものを性染色体という。メスの染色体がホモである(すべての染色体が相同染色体を持つこと)とき、それをX染色体と呼ぶ。オスは「X染色体1本」を持っている場合と「X染色体1本と別の染色体1本」を持っている場合があり、Xではない染色体を持っているとき、それをY染色体と呼ぶ。
ヒトの男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持っている。このような形式を「XY型」という。キイロショウジョウバエはオスがX染色体を1本持ち、メスがX染色体を2本持つという形式を取っており、これをXY型ではなく「XO型」と呼称する。一部例外を除き性染色体の形式は種ごとに決まっているが、性染色体が性決定に関与しない生物もいる。
X染色体はヘルマン・ヘンキングによって1891年に発見されたが、ヘンキングはこれが性染色体とは思わず常染色体の一種と考え、仮に「X染色体」(Xは正体不明の意)と名付けて発表した。後にX染色体(過去にバー小体などの名称もあったが同一のものである)が性染色体の一種と判明し、名称が統一された。Xという字はこのときの名残であり、X染色体・Y染色体がそれぞれX・Yのような形をしているからそう呼ばれるようになったというのは俗説である。
[編集] ヒトのX染色体
ヒトのX染色体には1098の遺伝子が存在する(対してY染色体上に存在する遺伝子の数は資料によって異なるが、78というのがよく知られている。詳しくは染色体を参照)
[編集] ヒトの性決定
ヒトの性染色体の形式はXY型であり、これ以外の性決定機構もないため、Y染色体の有無によって性別が決定する。通常女性のX染色体は2本だが、遺伝子異常などで1本になっても(ターナー症候群)女性として生まれる。同様に、X染色体とY染色体を1つずつ持つはずの男性がX染色体2本とY染色体を1本持っていても(クラインフェルター症候群)男性として生まれる。
[編集] 性差
X染色体をもつ本数が異なる事により男女差が発生することがある。たとえばX染色体に免疫系で働く遺伝子が13個以上含まれていることにより、女性が男性よりも強い免疫力を持っていることなどが挙げられる(ただし、具体的にどれほどの差が出るかはまだわかっていない。例として日本の女性の平均寿命(86歳)は同男性(79歳)の1.089倍程度であり、職業や喫煙率などの後天的要因まで加味すると、実生活に影響するほどの差はあまりないとも考えられている)
その他の男女差としては伴性遺伝の(X染色体上の異常による病気)の発現率である。男性は1つしかないX染色体が異常を起こすと発現するが、女性は2つのX染色体が同時に異常を起こさないと発現しない。つまり、X染色体の異常が起こる確率をp(0<p<1)としたとき男性はpという確率で発現するのに対し、女性はp2という低確率でしか発現しない。仮にpに1000分の1を代入して考えると、男性は1,000人に1人、女性は100万人に1人となり、大きな差ができる。伴性遺伝によって発現するものとしては血友病や色覚異常が有名である。
[編集] 参考文献
- 諸橋憲一郎 他「性を決めるカラクリ,『X・Y染色体』」、『Newton』2006年2月号、2006年、32-47頁