血友病
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
血友病(けつゆうびょう、Hemophilia)は、血液凝固因子のうちVIII因子、IX因子の欠損ないし活性低下に拠る遺伝性血液凝固異常症である。
目次 |
[編集] 分類
- 血友病A
- 第VIII因子の欠損あるいは活性低下に拠る
- 血友病B
- 第IX因子の欠損あるいは活性低下に拠る
[編集] 疫学
男児出生数の5000~1万人に1人が血友病患者である。血友病Aは血友病Bの約5倍である。
[編集] 病因
性染色体であるX染色体上にある、血液凝固因子の第VIII因子、第IX因子をコードする遺伝子に変異が入ることによって引き起こされる。伴性遺伝。劣性遺伝子であるため、X染色体が二本ある女性の場合には、もう一方のX染色体に異常がなければ機能が補完されるため、発症する事がない。そのため血友病患者のほとんどが男性であり、女性は全血友病患者の1%以下である。かつては血友病遺伝子は致死遺伝子と考えられていたが、女性患者の存在が確認されているため、現在では致死遺伝子であるとは考えられていない。
基本的には遺伝病であるが、突然変異により非保因者の女性から血友病の子供が生まれる場合もある。実際には血友病患者の25%前後が、家族歴が不明の突然変異と言われている。ただし母親の保因/非保因の検査、判断が難しく、最終的にはDNA検査を要する。
[編集] 症状
A型もB型も症状は同じで血液凝固因子の不足により血液の凝固異常が起こる。出血様式は深部出血が中心で、特に関節内や筋肉内で内出血が起こりやすく、進行すると変形や拘縮を来たす。また、一度止血しても、翌日~一週間後に再出血を起こすことがある。稀に頭蓋内(帽状腱膜と頭蓋骨骨膜との間)で出血を起こす場合があり、放置すると脳を圧迫し重症化する。
一般的に因子活性率が1%未満を重症、1%~5%を中等症、5%以上を軽症と慣例的に呼んでいる。
血友病は幼児期までに大部分が発症するが、軽症患者の場合は非血友病の人と変わらない生活を過ごし、抜歯などにより初めて判明することもある。
[編集] 検査
- 血小板機能は正常なので、出血時間は正常。
- 第VIII,IX因子共に内因系凝固因子なので、プロトロンビン時間(PT)正常・活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)延長を来たす。
[編集] 治療
欠損している血液凝固因子を体内に注入する因子補充療法が行われる。現在ではこの補充療法により、健常者とほぼ同じ生活が可能となっている。補充は欠損因子の活性が20%以上になる程度を目標とする。治療の問題点としては、血液凝固因子に対する抗体、インヒビターの発生がある。患者は免疫が構築される胎児期に欠損因子を持っていなかったので、免疫寛容が起こっていない。この為 治療で投与した欠損因子にインヒビターが出来、循環抗凝固因子となって治療に抵抗するため注意を要する。インヒビターはどの血友病患者にも一定の確率で発生するが、発生しない患者とする患者の差分、メカニズムなど、正確なところは現在も解明されていない。
第VIII,IX因子共に肝臓で生成されることが分かっており、生体肝移植により血友病が完治した例も存在する。
数年前まで遺伝子治療の研究が続けられていたが、臨床試験により高い確率で白血病が発症することが分かり、現在、遺伝子治療の研究は事実上停止状態となっている。
[編集] 遺伝について
血友病は伴性劣性遺伝という遺伝の仕方をし、メンデルの法則に従った遺伝の仕方をする。
血友病の父親と、非保因者の母親との間の子供は、男子の場合は父親のX染色体を引き継がないので保因者とならない。しかし、子供が女子の場合は父親のX染色体を引き継ぐため必ず保因者となる。
保因者の母親と非保因者の父親との間の子供はメンデルの法則に従い、正常な男子が1/4、血友病の男子が1/4、正常な女子が1/4、保因者の女子が1/4という確率で誕生する。
血友病の父親と保因者の母親との間の子供は、正常な男子が1/4、血友病の男子が1/4、保因者の女子が1/4、血友病の女子が1/4という確率で誕生する。
血友病の母親と非保因者の父親との間の子供は、男子は必ず血友病になり、女子は必ず保因者になる。
血友病の父親と血友病の母親との間の子供は、男子、女子ともに必ず血友病になる。
※優性遺伝子、劣性遺伝子あるいは優性遺伝、劣性遺伝とは、どちらが表現型として現れやすいかを示すだけであり、遺伝子の優劣、ましてや人間の優劣を決めているものではないことを付記しておく。(例として劣性遺伝は、ABO式血液型におけるO型の遺伝に見られる。)
[編集] 社会問題
濃縮血液製剤(非加熱製剤)の中にHIVが混入していたため、血友病患者がエイズに感染した薬害エイズ事件が発生した。 1985年に加熱製剤の承認がようやくおりたため、現在では感染することはない。 その後、製剤の研究、開発も大幅に進み、現在では製造工程中に一切のヒト、及び動物由来のタンパクを使用しないことにより、それらに起因するウイルス、病原体による感染のリスクが無くなった新しい遺伝子組み換え型の血液凝固第Ⅷ因子製剤も開発されている。 (血漿由来製剤、また従来の遺伝子組み換え型の第Ⅷ因子製剤は製造工程中にヒト、及び動物由来のタンパクが使用されているため理論上感染のリスクが0ではない。)
学校におけるエイズに関する授業・教育においても、薬害エイズ事件が取り上げられることは多い。
また優生学が起源と考えられる偏見的な問題が、現代においてもしばしば起こっている。1980年に英語学者の渡部昇一が、小説家の大西巨人に対し、血友病である息子の大西赤人と大西野人に対して高額な医療費助成がなされていることから、「第一子が遺伝病であれば第二子を控えるのが社会に対する神聖な義務ではないか」と問題提起し、大きな論争を巻き起こした。
上記の論争の延長だが、現在では、同じ家系内の患者の遺伝子異常が分かっている場合、女性の保因/非保因をDNA検査により正確に調べることが可能となっている。保因者であっても血友病の男児、または保因者の女児が生まれる確率は1/2であることから、体外受精により選別を行うのは現在の医学でも十分可能であるが、現在日本においては受精卵及び胚細胞に対する、血友病の着床前診断は認められていない。受精卵の取捨選択が人道的に許されるのか、また、女性にとってDNA検査までして保因者か否かをハッキリさせる必要があるのかなど、医学の進歩と倫理観の乖離により、非常に難しい問題となっている。
[編集] 歴史上に見る血友病
ヴィクトリア女王の子孫が血友病患者の代表としてとりあげられる。ことにロシアのニコライ2世の皇太子アレクセイ皇太子がこの病気で有名で、その祈祷からラスプーチンをのさばらせ、ロシア革命の遠因ともなった。
[編集] 関連
[編集] 外部リンク
- CHPnet(血友病に関する情報交換)
カテゴリ: 医学関連のスタブ項目 | 血液疾患 | 遺伝子疾患