アクティブサスペンション
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アクティブサスペンションは、電子制御によって車体を支えるサスペンションの特性を変化させて、従来車輪に加わる外力の変化の車体への伝達を、スプリングとダンパーの特性で抑制していたのを、主にダンパーの油圧を積極的に制御して、サスペンション特性を改善しようとするものである。このシステムはどの分野においてもスカイフック理論を基本として開発されている。
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[編集] 鉄道車両のアクティブサスペンション
振動抑制装置付きサスペンションのこと。動力を用いて、外部から入力する振動と逆位相の力を発生させることによってより効果的に振動を抑制する。外部動力を用いない簡易型の、セミアクティブサスペンションの登場によって、対比して「フルアクティブサスペンション」と呼ばれることもある。制振効果は非常に高いものの、サスペンション駆動に専用の動力源を必要とするため消費エネルギーが大きくシステムのサイズも大きくなってしまう。また構造が複雑なため維持コストも含めて高価なため、採用はごく一部の車両にとどまっている。
新幹線車両では以下の車両に装着されている。
- E2系
- 両先頭車とグリーン車
- ※高速列車としては世界初。なお、上記以外の車両は、セミアクティブサスペンションを搭載。
[編集] F1のアクティブサスペンション
F1においてアクティブサスペンションの役割は空気力学的なダウンフォースを最適に制御するためにもちいられた技術である。
[編集] グランド・エフェクト・カーの禁止とダウンフォースの獲得
1970年代後半から1980年代にかけて、F1界ではサイドポンツーンの下面形状をウイング状とし地面効果(グランドエフェクト)によって強力なダウンフォースを得ていたウイングカーが存在していた。ウィングカーは地上高を一定に保つ必要があるためにサスペンションは非常に硬く設定され、ドライバーにとっては負担が大きくかつ危険な乗り物となっていた。そこで安定した地上高とドライバーへの負担軽減の観点から、アクティブサスペンションの開発が始められた。
残念ながらアクティブサスペンションがその効力を発揮しはじめる前に、安全性の問題から車体下面は平面でなければならないとする通称「フラットボトム規制」が行われ、サイドポンツーンにより発生していたダウンフォースは失われた。
ところが、フラットボトムの規制箇所以外の部分において適切な方法を取ることによって、失われたダウンフォースを(全てではないが)獲得することが可能であることが風洞実験などで明かとなってきたのである。すなわち地面との距離を一定に保つことが可能であればウィングカーと同じ効果が得られる。この効果は車高変化に大変敏感であり、ミリ単位のセッティングの違いにより車体性能が大きく変化する。
当時のレギュレーションではレース中の給油が認められておらず、レース初めと燃料がなくなるレース後半で車体重量が大きく変化し、さらに加減速時、コーナーリング時の車体の姿勢変化によって絶えず車体下面と地面との距離が変わる。これを解消するため当初はサスペンションのセッティングを堅くすることでこの変化を最小限に抑えていたが、路面からの衝撃を吸収するという本来のサスペンションの働きが失われてしまい、縁石などで車体が跳ねてしまうという問題を抱えていた(ただし同様のことはウィングカー時代においても存在しており、より切実であった)。
そこで車体姿勢および路面と車体下面との隙間を常に一定に保つことで常に強力な地面効果を得る目的として本システムは採用された。
[編集] 実用化と実績
「ウィリアムズFW11B」、「ロータス99T」で実戦採用された。ロータスのシステムはF1部門ではないロータス本社の管理にあり、レースに特化したものではなく乗用車用に開発された複雑なものだった。一方ウィリアムズのシステムはロータスのものに比べレース用に特化したシンプルな設計であり、アクティブライドサスペンション(あるいは、リアクティブサスペンション)と呼ばれた。
しかし当時のコンピューターの演算速度では絶えまない姿勢変化に対応しきれず、またシステムによる重量増とシステムに駆動によるエンジンパワーのロスを克服するほどのメリットがなかったため姿を消してしまった。これらを解決して1991年最終戦でウィリアムズが再び投入し、翌1992年 「ウィリアムズFW14B」で本格採用されると圧倒的な速さでダブルタイトルを獲得。この活躍により、翌1993年にはほとんどの車両がアクティブサスペンションやライドハイトコントロールなど何らかの姿勢制御装置を採用した。
[編集] 規制
ウイング等の空力装置を助ける装置でしかも走行中で可変するところから、「可変の空力装置」であり「走行中に空力装置を可変させてはならない」という条項に違反しているとして1993年を最後にレギュレーションで禁止された。また、F1のハイテク化に伴い膨張し続ける一方である技術開発費の抑制という目的もあったと言われている。
[編集] 戦車のアクティブサスペンション
戦車におけるアクティブサスペンションの役割は、今まで車体の慣性質量に頼っていた発砲時の砲安定を極小単位時間でのサスペンション制御で代替えし、軽量な車体に大口径の砲を搭載しても命中精度を低下させないための技術である。
2005年現在、この理論をもとに開発・配備された戦車は存在していないが、防衛省・陸上自衛隊が開発中の新戦車(TK-X)は、アクティブサスペンションを用い、90式戦車より高い火力の砲を搭載し、車体重量は40t級になると言われており、74式戦車の後継として、全国的に配備される予定だという。
通常、ラインメタルの44口径120mm滑腔砲に充分な命中精度を持たせるには50t以上の車体重量が必要と言われているが、90式戦車は重量が50tであるにも拘らず、優れた射撃統制装置などを装備している為、高い命中精度を誇っている。
[編集] 関連項目
カテゴリ: 自動車サスペンション技術 | 鉄道車両工学 | 戦車