アシドーシスとアルカローシス
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生体の血液の酸塩基平衡は常に一定のpH(7.4)になるように保たれている。平衡を酸性側にしようとする状態をアシドーシス(en:acidosis)、平衡を塩基性側にしようとする状態をアルカローシス(en:alcalosis)と言う。
血清pHが7.4未満になった(低下した)状態をアシデミア、7.4より上になった(上昇した)状態をアルケミアと言う。
ともに全身の細胞にとっての環境の異常であり、高度なものでは呼吸抑制から死に至ることもあるとともに、これらのpH異常は呼吸不全や腎不全など重篤な疾患の結果として生じるため治療の指標になる。このpHの測定は血液ガス分析によってなされる。
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[編集] 緩衝系
通常、酸塩基度が厳密に保たれているのは血液中に含まれる緩衝系の働きによる。これはホメオスタシスの代表的な例である。
緩衝系を代表し、最も大きな緩衝効果を持っているのが重炭酸(炭酸水素)イオンHCO3-である。水素イオンH+をうけとって
- HCO3-+H+→CO2↑+H2O
と二酸化炭素の形で排出することができるからである。
[編集] アシドーシス
アシドーシスは、体内の酸塩基平衡を酸側に傾かせようとする力が働いている状態。軽症であったり、重症であってもアルカローシスと合併すれば、ホメオスタシスによってアシデミアにならない事もある。
[編集] 呼吸性アシドーシス
- 呼吸不全によって二酸化炭素が体内に蓄積したために起こるアシドーシス。これは高度な呼吸不全であり、生命維持のためには気管挿管のうえ人工呼吸器を使用する必要がある。単に酸素のみ投与すると、呼吸中枢が抑制されるためむしろ呼吸停止を来す(CO2ナルコーシスと呼ばれる)おそれがあり危険である。
- 緩衝系による働き
- 呼吸性アシドーシスの際に緩衝系がこれを補正しようとするため、重炭酸イオン濃度が増大する。軽症の場合は重炭酸イオンの増大のみが見られてpHは正常範囲内にとどまることがあり、補正された呼吸性アシドーシスと呼ばれる。
[編集] 代謝性アシドーシス
- 酸性物質が排泄されない、不揮発性酸性物質が過剰に産生されている、重炭酸イオンが排泄されているなどの理由から起きるアシドーシス。不揮発性酸性物質とは呼吸によって排泄されない酸の事。
- 緩衝系による働き
- 二酸化炭素を排泄する呼吸性アルカローシスを用いてアシドーシスを打ち消そうとする。よって呼吸が激しくなり、自覚症状として呼吸困難感を覚えることもある。
- 代表疾患
[編集] アルカローシス
アルカローシスは体内の酸塩基平衡を塩基側に傾かせようとする力が働いている状態。軽症であったり、重症であってもアシドーシスと合併すれば、ホメオスタシスによってアルケミアにならない事もある。 やはり成因によって二種類に分類する。アルカローシスの状態では血中のカルシウムイオンが血漿蛋白と結合してしまって濃度が低下し、テタニー、しびれなどの低カルシウム血症症状が見られる。
[編集] 呼吸性アルカローシス
呼吸性アルカローシスは激しい呼吸のために起こるアルカローシス。二酸化炭素が過剰に排泄されて酸塩基平衡が塩基性に傾く。この状態ではむしろ呼吸困難を自覚するためさらに呼吸が激しくなると言う悪循環に陥ることがあり、過換気症候群と呼ばれる。
[編集] 代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスは、呼吸以外の代謝によって、水素イオンを喪失する、等して起こるアルカローシス。
- 代謝性アルカローシスを起こす代表的な病態
[編集] 治療
基礎疾患を持つ場合は、呼吸管理などそちらの治療が優先する。呼吸不全時など、アシドーシスの補正のために重炭酸ナトリウム溶液を点滴するなどの処置がとられていたこともあったが、治療成績に変化はなく単なる補正の意義は小さいことが判明してきた。
尿細管アシドーシスは根本的な治療法がないため、経口的に重炭酸ナトリウムを投与し続けることで補正を行っていく。