呼吸
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呼吸(こきゅう)とは以下の二種類の意味がある。
細胞呼吸については、広義には最終電子受容体として酸素を用いない『嫌気呼吸』もその意味合いに含まれるが、通例では呼吸とは酸素を用いる好気呼吸(こうきこきゅう)として用いる。
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[編集] 細胞呼吸
酸素は地球誕生時の大気には存在していなかった。しかし、原始の海に生命の起源があり、植物のような光合成を行うものが出現したことで大気には徐々に酸素が蓄積された。 本来、酸素は強い酸化力をもった毒性の強い気体である。しかし、一部の生物は酸素を利用した酸化過程を通じて大きなエネルギーを利用できるようになった。現在、酸素を利用した代謝のできる生物は細胞内のミトコンドリアにより炭水化物を酸化し、最終産物として二酸化炭素と水を排出する。青酸(シアン化水素酸)はミトコンドリアの電子伝達系を阻害するため、好気的な生物にとって猛毒である。狭義には好気呼吸(こうきこきゅう)、酸素呼吸(さんそこきゅう)など酸素を用いる呼吸となる。広義には細胞のおこなう異化代謝系すべてを指すが、狭義に用いられる場合が多い。
[編集] 細胞呼吸の代謝系
呼吸では、細胞内に以下の系が存在する。
グルコースはこれらの代謝系によって二酸化炭素および水にまで分解される。物質の収支は以下の式で表される(グルコース一分子当たり)
ただし、グルコースの酸化により各代謝系よりATPが発生する。その収支は以下の式で表される(グルコース一分子当たり)。
電子伝達系にて酸化的リン酸化反応で用いられるNADHなどの水素供与体は以下の式で表される。
- 解糖系 2NAD+ → 2NADH
- クエン酸回路 8NAD++2FAD → 8NADH+2FADH2
- 電子伝達系 10NADH+2FADH2 → 10NAD++2FAD
電子伝達系ではこれらの水素供与体による電子を用いて膜の外部にプロトン濃度勾配を作り出す。1つの電子が通過するごとに約5分子のプロトンが膜外に放出される。ATP合成酵素に3分子のプロトンが通過するごとに1分子のATPが作成される。
- ATP合成酵素 34ADP+34Pi → 34ATP
以上の式をまとめると以下のようになる。
- C6H12O6+6H2O+6O2+38ADP+38Pi → 6CO2+12H2O+38ATP
この式は高校生物で学習する呼吸の収支式と呼ばれる。ただし、きわめて多くの反応がこの式には関わっており、反応の数が多いことがグルコースの持つエネルギーの有効利用(効率にして40%と言われる)に役立っている。ただし、ATP合成酵素で生産されるATPの数量については、実際の値としては不定である場合が多く、この式では平均値を取っている。
[編集] 外呼吸
酸素を利用するに当たっては、動物の場合全身の細胞にくまなく酸素を行き渡らせるため、血液によって酸素を運搬する必要がある。節足動物・軟体動物などではヘモシアニン、脊椎動物では、赤血球中のヘモグロビンがこの役割を担う。血中への酸素取り込みは、植物の場合葉などの気孔と樹皮の皮目で、魚類・水棲甲殻類はエラ呼吸で、陸上の昆虫は気門の呼吸、両生類は幼生時にはエラ呼吸、成体時には肺呼吸、爬虫類、鳥類、哺乳類は肺呼吸で行う。エラ呼吸は水流の一定の流れを利用するが、肺は出口がひとつしかないため吸気、呼気を繰り返すことで定期的に肺内の空気を交換しなければならない。このために行う胸郭運動を呼吸運動と呼び、これをやめることはできない。呼吸運動は随意運動であると同時に、脳幹の呼吸中枢(ヒトでは延髄にある)によって自動的に制御される。そのため睡眠中も不随意な呼吸運動が保たれる。この中枢機構に問題があり、睡眠時に呼吸不全に陥る疾患が先天性中枢性肺胞低換気症候群である。