グランゼコール
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グランゼコール(またはグランド・ゼコール) (Grandes Écoles) とは、フランス独自の高等専門教育機関のこと。基本的に高校と中学校の卒業を認定するバカロレアを取得後、名門中高一貫校のグランゼコール準備学級で2年間学び、各グランゼコールが実施する選抜入学試験に受かったものだけが入学が許される。
一般に名門のグランゼコールばかりが注目される所為で知られていないことだが、グランゼコール自体はフランスに200校ほどあり、その中でも国立で歴史のある学校が名門とされ、まさにエリート養成機関としての役目を果たしている。
但し、この場合のエリートとは文字通り専門性の高い分野に関する特別な教育を受けた者という意味であり、グランゼコールは即戦力として活躍できるような職業人として鍛え上げる高等職業専門学校である。そのため、日本の大学やアメリカの学士課程のような大学教育とは大きく実情が異なる。
上記のような背景から、大学に在籍中または卒業後にグランゼコールを受験する学生も存在する。
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[編集] 成立の歴史
現在、名門とされる国立のグランゼコールの多くは18世紀に設立された。こういった歴史の古いグランゼコールの殆どが理工学関係の技術者の養成機関である。これは、フランス革命によって貴族制が否定された後、新しく国家を再建する際に必要な人材(理工系の技術者)が求められていたのにも拘らず、当時におけるフランスの大学は職業訓練校としては適切に機能しておらず、そういった分野の人材育成機関を国家が自ら用意する必要があったためである。ちなみに、エコール・ポリテクニークは、王立の(主に軍事技術を学ぶ)技術学校を再編する形で作られた最初のグランゼコールである。
一方で、良く知られるフランス国立行政学院は、第二次世界大戦後に設立されており、他の名門グランゼコールに比べると歴史は浅い。この学校の場合だけは例外で、国家が意図して地位を引き上げたと考えて良い。
また、理工系のグランゼコールが充実した後、経済・商業関係のグランゼコールも設立され始めるが、こうした今では名門とされる文系のグランゼコールの地位が高まるのも、上記の国立行政学院の設立以降である。
[編集] 名門グランゼコールの場合
アメリカや日本などの大学でのマス教育とは異なり、少数精鋭の教育を行う。いずれも超難関で知られ、入学難易度の高さは世界的にも屈指だが、日本の東大や京大、アメリカのハーヴァード大学といった大学とは性質が大きく異なるために比較ができない。実際、フランスでは絶大な支持のあるグランゼコールだが、国内の評価と比較すると、国外での評価は芳しくない。グランゼコールは実学の教育機関であるため、研究機関としての評価を問われれば、相対として低くならざるを得ない。
名門グランゼコールの受験生は、グランゼコール準備学級(課程)で朝から晩までも猛勉強し、太陽を見ることがないと言われているため、グランゼコール準備学級の学生はモグラと呼ばれている。名門(国立)グランゼコールに合格すれば、その対価として、聴講官という国家公務員の立場となり、給金が支給される。また、卒業後も専攻した分野のエリートとしての待遇が保障されており、実際、政・官・財・学すべての分野にて多くの卒業生が活躍している。
カルロス・ゴーンも名門の理工系グランゼコールの出身者である。
[編集] グランゼコール準備学級(課程) (Écoles préparatoires)
グランゼコール準備学級(課程)とは、独立した学校ではなく、主に名門中高一貫校にある進学コースのようなものである。主な名門中高一貫校は、エコール・デ・ローシェ、エコール・アルザシアンヌ、リセ・ルイ=ル=グラン、リセ・アンリⅣ、リセ・サン・ジャン・ド・パッシーなどがある。こういった名門校の進学コースに入学できる子女の絶対数は限られており、必然的にグランゼコールに進学できる生徒数も制限されている。
[編集] グランゼコール選抜試験
グランゼコールの選抜試験は、筆記(小論文形式)と面接による試験である。しかし、採点者によって正答が変わったり、面接官の印象次第で合否が左右されてしまう(例えば、筆記試験を白紙回答した学生が合格してしまったという事実がある)など、選考基準が曖昧だと言われることが多い。また、人種によって合否に差別を受けたり、有力者や名家の子女は縁故で入学が許可されてしまうなど、フランスの階級社会と人種差別を色濃く反映した仕組みになっている。
[編集] 補足
[編集] フランスの教育制度
参考までに、フランスの高等教育機関(日本の大学・大学校にあたる教育機関)は、主にグランゼコールと大学に分けられる。大学にはバカロレア試験に合格すれば、各大学の定員などにもよるが希望の大学に進学することができる。高等教育機関に所属する学生の内、主なグランゼコールに所属する学生は全体のわずか数パーセントである。
また、大学も含めて公教育がほぼ無償である一方、グランゼコールは国立であっても有償であり、その金額も決して少なくない。また、グランゼコール準備学級がある名門中高一貫校というのは私立であることが多く、上流階級の家庭でなければ授業料を払うことすらも難しい。但し、サルトルといったフランスを代表する人物を輩出してきたリセ・ルイ・ルグランは公立であるため(国内外を問わず)無償だが、この学校の場合は、そもそも入学すること自体が極めて困難である。
[編集] パリ大学に対する誤解
ちなみに日本においては有名校(優秀な学校)として認識されているパリ大学(少なくともその前身のひとつであるソルボンヌ)は、歴史もあり確かにかつてはフランスを代表する大学であったが、フランスにおける学制改革に伴いグランゼコールが設立されてからは普通の大学の位置付けになっている。なお、パリの国立大学は、1969年にすべてパリ大学となり、数字をつけて、「パリ第1大学」(Université Paris I)というぐあいに呼ばれる。一方、通称も使われ、たとえばパリ第4大学は、「パリ・ソルボンヌ」(Paris Sorbonne)である。
また、グランゼコールには医学・神学・法学の分野がない。つまり、医者や弁護士、聖職者になりたい場合は、必然的に大学に進学する必要がある。
[編集] 主なグランゼコール
- 国立行政学院 (ENA; École nationale d'administration )
- フランス国立司法学院 (École Nationale de la Magistrature)
- エコール・ノルマル・シュペリウール (École normale supérieure)
- エコール・ポリテクニーク (École polytechnique)
- 国立古文書学校 (École nationale des chartes)
- 高等商業学校 (HEC; École des hautes études commerciales)
- パリ高等商業学校 (ESCP-EAP;École Superieure de Commerce de Paris)
- 高等商業学校 (ESSEC; École Superieure des Sciences Economiques et Commercials )
- パリ政治学院 (Science-po; Institut d'études politique de Paris)
- 中央学校 (EC; École centrale (Paris, Lille, Lyon, Nantes, Marseille))
- パリ国立高等鉱業学校 (École nationale supérieure des Mines de Paris)
- 高等電気学校 (Supélec, École supérieure d'électricité)
- 国立土木学校 (École nationale des ponts et chaussées)
- 国立高等情報通信学校 (Télécom Paris, École nationale supérieure des télécommunications)
- 国立高等農学院 (Établissement National d’Enseignement Supérieur Agronomique)
- 工業物理化学高等学校 (École Supérieure de Physique et de Chimie Industrielles)
- サン=シール・コエトキダン陸軍士官学校 (Écoles militaires de Saint-Cyr Coëtquidan)
- 海軍士官学校 (École navale)
- 空軍士官学校 (École de l'air)
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