シーサーペント
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シーサーペント | ||||||||||||||
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シーサーペント(sea serpent)とは、海洋で目撃、あるいは体験される巨大な長細い未確認生物(UMA)の総称である。特定の生物を指すものではない。大海蛇(だいかいじゃ)とも呼称されている。
正体が特定されたものはほとんどなく、大部分は正体不明で未知生物学者の主要な研究テーマとなっている。 目撃例は中世以降多数存在し、中世から近代にかけて作成された世界地図の海洋を示す部分にはシーサーペントの絵が記されていることが多い。
目次 |
[編集] 事例
代表的なシーサーペントには以下に挙げるものがある。
[編集] ニュージーランド沖のシーサーペント
1977年4月25日にニュージーランド沖で日本の漁船瑞洋丸が引き上げた巨大な死骸。通称ニューネッシー。 かなりはっきりした写真が撮られ、組織も採取されたが本体は強い腐敗臭のため海洋に投棄された。 写真に写っている姿が中生代に実在した首長竜のプレシオサウルスに似ていたためセンセーションを引き起こした。東京水産大学を中心とする研究グループは1978年8月にこの生物に関する調査報告書を発表したが、その報告書ではウバザメ説、爬虫類説、新種の生物説などを挙げてはいるが正体について断言はしていない。
[編集] モーガウル(Morgawr)
イギリスのコーンウォールのファルマス湾でたびたび目撃されていると言う巨大な生物。 多数の目撃証言とはっきりしない写真が存在する。 目撃証言によると頭に角が生えた首の長い生物で、首の後ろには毛が生えていると言う。大きさは6m~12m。
[編集] チェッシー(Chessie)
アメリカのチェサピーク湾で頻繁に目撃されていると言う巨大な生物。 多数の目撃証言とビデオが存在する。 目撃証言によると体長3m程度の生物で背中にコブがあり、ギザギザのある小さな突起が付いていて、頭はサッカーボールのようであると言う。 ビデオに写っている生物は左右に身をくねらせて泳ぐ12mくらいの生物であると言う。
[編集] ロベール・ル・セレックの大海蛇
フランス人のロベール・ル・セレックが遭遇したと言う巨大な生物。 目撃証言と写真が存在する。 現在では目撃証言・写真ともに偽物であるとされている。
[編集] イベリアン号のシーサーペント
1915年7月30日にドイツの潜水艦U-28がイギリスの汽船イベリアン号を撃沈したときに、汽船の爆発にまきこまれて海から放り出された巨大な生物。 潜水艦の6人の乗組員による目撃証言がある。 目撃証言によると体長20mほどのワニ状の生物で、頭が細長く肢にはみずかきがあったと言う。
[編集] 歴史
シーサーペントの記述自体は古代からある。たとえば、旧約聖書のヨブ記、イザヤ書などには巨大な生物としてレヴィヤタン(リヴァイアサン)が書かれている。これは古代オリエントの世界で蛇かワニのような姿をした伝説の怪物の名前で、イザヤ書(74:10)、詩篇(74:14)では海に住む竜と並んで記されている。
アッシリアの王サルゴン2世はキプロスに向かう航海の途中でシーサーペントに遭遇したと言う。 東洋の伝説上の動物「竜」も水と関係が深く、形もシーサーペントのようである。
しかし、古代の伝承は神話や伝説などに彩られていて生物学的な検証には耐えないし、クジラや海牛類、リュウグウノツカイなどの既知の生物の目撃例である場合も考えられる。 実際に当時のオリエント世界ではゴリラですら未知生物であった。
中世以降ではデンマークの司教ポントピダンが「ノルウェー博物誌」(1752-1753)の中で2種類のシーサーペントについて記している。 オランダの動物学者A・C・ウードマンスは1892年に「大海蛇」を著し、多数の目撃証言を科学的に検証し長い首と長い尻尾をもったアザラシのような未知生物がシーサーペントの正体であるとした。
20世紀以降は数百件から数千件の大量の目撃証言と、少しの写真・ビデオがある。
[編集] 世間の評価
一般にはシーサーペントはあまり知られていないか、幽霊や宇宙人と同列にオカルトとして扱われている。また、しばしばネッシーやイッシーなど湖沼の未確認生物と混同される。
本来はシーサーペントの研究は未確認の生物を科学的に追求するものであり、海外ではそれほど多くはないが未知生物学者として専門的にシーサーペントを研究している者もいる。しかし、日本では「シーサーペントを研究している」などと知れたら全うな仕事をしている人ではないと評価される危険がある。
日本の現状では、シーサーペントは一部のマニアの間で議論の対象となっているが、それらマニアのほとんどは学者ではなく、科学的な態度で臨んでいるものでも1次資料、2次資料に資料的な分析を加え、生物学の知識を基に考察しているに過ぎない。
ただし、認知度が高いものはキャラクター化され、アニメなどと同列に扱われた例がある。 たとえば、ニューネッシーが知れ渡ったときには漫画化され、ぬいぐるみが発売された。 カナダでは20世紀初頭にキャディと呼ばれるシーサーペントがメディアにアイドル的な扱いを受けた。 また、チェッシーはチェサピーク湾のマスコット的な存在となっている。
[編集] 科学的な検証
すべてのシーサーペントが神話や伝説上の存在であり、目撃証言や写真は事実誤認・ウソなどとする考え方をする人もいる。 しかし無闇に存在を否定するだけでは十分に科学的とは言えない。
シーサーペント否定派の代表的な論拠は次のようなものである。
- 現代では人類の活動が地球規模におよんでいて、それほどの巨大な生物が未発見のままでいる可能性は低い。
- それほどの巨大な生物であるのに死体すら捕獲されていないと言うのは考えられない。
- シーサーペントも生物であればオスとメスが出会う必要があり、2個の個体が遭遇するためにはある程度の密度で生息しているはずである。しかしある程度の密度で生息していればそれはまたある程度の容易さで発見・目撃されているはずであり、発見・目撃されていないということはシーサーペントが存在しないということに他ならない。
これらはシーサーペントに限らず多くの未確認生物の存在を否定する論拠にもなる。
これに対するシーサーペント肯定派の反論は次のようなものである。
- 海洋は陸地より広大であるし、船舶はだいたい決まった航路を運行しているので滅多に人が訪れない領域はかなり広い。
- 巨大な生物の死骸は浮くのではなく沈む。
- 世界の海岸線は長大で、どこかの海岸にシーサーペントが打ち上げられていたとしても人の目にまったく触れない可能性は意外と高い。
実物が捕獲されていない以上否定派の方が有利に思えるが、船についた巨大な歯型などのいくつかの肯定的な傍証も挙がっており、今後シーサーペントが発見される可能性は皆無ではない。
最近では1976年に体長4m以上の未確認の魚類が捕獲されている。この魚類は後にメガマウスと命名され、現在でも世界で30体程度しか捕獲されていない。つまり、少なくとも体長4m程度の生物が誰にも気がつかれることなく存在していたのである。なお、メガマウスの生態は良くわかっていないが、現在のところ最大のものは5.44mであった。
2001年にはインド洋の深海で全長7mの新種のイカが発見されている(「サイエンス」)。
また、全長が6m程度になるオウギハクジラ属は近年ニ種の新種が記載され、その深海棲の生態からまだ未発見の種が存在するとされる。また鹿児島に漂着したタイヘイヨウアカボウモドキはこれまで数体の死骸でしか知られない幻の鯨であった。
科学的には前述のA・C・ウードマンスの「大海蛇」以降、さまざまな検証がなされている。 大量の目撃証言から誤認やウソと思われる証言を省いた検証作業が様々な研究者によって行われている。 たとえば、いくつかの証言では「たてがみのような毛が生えていた」、「潮を吹いていた」、「上下に身をくねらせて泳いでいた」などと哺乳類的な特徴がうかがえる。シーサーペントの一般的なイメージは巨大な蛇状の爬虫類というものであるが、目撃証言では哺乳類的な特徴を示すものが多い。 また、別のいくかの証言では「ワニのような形であった」、「亀のような頭であった」などど爬虫類的な特徴がうかがえる。
このような整理を行った結果、現在ではいわゆる「シーサーペント」とは未知の生物の総称であって1種類の生物ではないとされている。
フランスの理学博士ジャン・ジャック・バルロワは目撃証言を検証した結果シーサーペントを次のように分類している。
- 1種以上の魚類 かなり巨大なウナギ状の未知生物。大ウナギ、スーパーイールとも呼ぶ。1930年1月31日、デンマークの海洋調査船ダナ号は南大西洋で体長1.84mのレプトセファルス(ウナギなどの稚魚)を捕獲した。他にも巨大なレプトセファルスの捕獲例はいくつかあり、これらが成魚になったときにはシーサーペントと呼べるほどの大きさになる可能性がある。ウナギの場合は5cm程度のレプトセファルスが20倍も大きい1m程度の成魚になる。ただし、すべてのレプトセファルスが20倍も大きくなるわけではない。
- 1種以上の爬虫類 モササウルス。横に身をくねらせて泳ぐのは爬虫類の特徴であり、ワニ状の生物の目撃証言からシーサーペントの1種はモササウルスまたはそれに類似した爬虫類であるとする。モササウルスは白亜紀に生息した巨大なワニ状の海棲爬虫類である。
- 5種の哺乳類
- スーパーカワウソ 昔鯨類に属する未知生物。北極海周辺に生息するとする。(昔鯨類についてはバシロサウルスを参照)。
- 多びれ 昔鯨類に属する未知生物。ヴェトナム・マダガスカルなど熱帯の海に生息するとする。「ムカデ」、「オオムカデクジラ」と呼ばれている未知生物がこれに当たるとする。
- 多こぶ 昔鯨類または海牛類に属する未知生物。北アメリカの大西洋側に生息するという。
- ウミウマ アザラシなどが属する鰭脚類の未知生物。ウマのようなシーサーペントの正体はこれであるとする。(キャディの消失した死骸の残された資料はこの正体を示している可能性がある)
- 長首 鰭脚類に即ずる未知生物。長い首をもったアシカのような未知生物が存在すると言う。
その他の研究者もさまざまにシーサーペントを分類している。 ユーヴェルマンは上記の他に以下の候補を挙げている。
- 巨大なサメ これは絶滅生物であるメガロドンを指しており、多くの目撃証言は確かにメガロドンを指しているように見える。ただし、一部でメガロドンの映像として流出している駿河湾で撮影されたオンデンザメは7mもの巨体であった。
- あらゆる亀の父 途方もなく巨大な亀。
- 黄色 黄色に黒い縞が入ったオタマジャクシ状の生物が存在する可能性があるという。
- 巨大な無脊椎動物