スポーツコンパクト
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スポーツコンパクト(SPORTS COMPACT)とは、アメリカ(特に西海岸)における自動車(ホンダ車等の日本車が多い)を使ったカスタム手法を日本に持ち込んだ物で、アメリカで販売される日本メーカー他のスポーツカー等やそれと同一の外観・性能を持つ車両、または若者が手に入れられる安価な小型車(ファミリーカー)をスポーティーな高性能仕様にアメリカのパーツで仕上げた物を指す。
このスポーツコンパクトの事をスポコンと略す事が多く、日本国内ではそちらの略語の方がよく使われている。
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[編集] 歴史
[編集] 発祥
アメリカ在住の有色人種からの発祥と言われ、若い彼らが安価に手に入れることが出来、なおかつ高性能な日本車を改造して1/4マイル(0-400m)を競うドラッグレースやジムカーナ等の非合法ストリートレースや週末の合法的草レースに出始めたのが発祥とされている。
源流は北米にて安価な輸入車を使ったカスタムであるキャル(所謂フォルクスワーゲン・ビートルを使ったカスタム)に見られるとされる。そしてジャンルとして確立されだしたのは1980年代中盤であるとされているが、北米のインポートシーンではアジア系移民を中心に日本車を使ったカスタムが70年代頃から散見するようになっていた(それ以前にも1960年代末のフェアレディZのヒットにより、北米での日本車を用いたカスタムは一定の地位を獲得していた)。また70年代中盤から80年代にかけてのオイルショックの影響でFF小型車の需要が急激に伸びており、従来のFR駆動一辺倒だった北米市場においての自動車勢力図に変化が現れていた。
しかしFF小型車の需要が伸び始めていたとはいえ、当時の北米のカスタムシーン、あるいは外車を用いたインポートシーンにおいては、日本車を初めとしたFF小型車といえば(VWゴルフ/ジェッタ・ヒュンダイ等の欧州車・韓国車等と共に)「安価だが壊れにくく、維持費の安い学生の足車や買い物車」といった認識が大勢を占めており、スポーツカスタムのベースに選ばれるようなものではなかった。
だがCR-Xが軽量で軽快な運動性を持つ「コンパクトロケット」としてヒットし、それに続くホンダ製をはじめとするFFコンパクトカーが台頭してくるとたちまちその認識が変化することとなった。 安いコストで手ごろな走行性能が獲得できることもあいまってサンデードラッグレースなどでもその姿を見かけることが多くなり、本格的にチューンナップを初めとするカスタムを施すものも現れ、現地でアフターマーケットパーツも生産されるようになっていった。 そしてVTECエンジンを搭載したアキュラ・インテグラが登場するとその人気は決定的なものとなり、インポートシーンは特に日本車人気の影響からFF駆動系一色の様相を見せていくこととなった。
その頃からインポートシーンでのカスタム手法も徐々に変化し、従来はホットロッド寄りであった改造手法が、当時のホンダのレースシーンでの活躍から、カーレースを意識したものにシフトしていった。
これはアメリカに古くから存在した白人主導文化の「ホットロッド」、黒人や南部系移民(チカーノ)の「ローライダー」に対するアジア系移民主導版ともいえる。
初期は日本からやってきた高性能な小さい車という事から「ライスロケット」と呼ばれた。当初はアジア系移民を中心に行われていたが、現地の自動車チューニング雑誌などに徐々に取り上げられるようになり、現在は人種に関係なく親しまれ、カスタム車としての市民権を得ている。
またカスタムを行う人種によりその方向が若干異なっており、それにはそれぞれの民族文化、慣習が関わっているとされる。モァパワーを好む白人はホットロッドの流れを汲むカスタムを施し、黒人や南部系の者はローライダーの流れを汲むメッキパーツの多用や油圧系のカスタムを施す傾向が強い。そしてアジア系の者に関しては当初からレーサー志向が強く、JDMなどのハイテク寄りなカスタムを施す傾向があるとされている。
現在では近年のドリフトブームの影響もあり、FR駆動の自動車を用いたカスタムも勢力を拡大しているが、カスタマーレベルでの主流は相変わらずFFコンパクトカーである。
[編集] 日本への導入とその後
日本への導入は1997年前後で、従来ローライダーなどのアメリカ車等を用いたアメリカンカスタムを行っていた人々によって行われた(少なくとも日本においては「走り屋」に分類されるジャンルとは明確にルーツが異なる)。「スポーツコンパクト」という名称は、従来のジャンルと区別するためアメリカの自動車雑誌「SPORTS COMPACT CAR」より取ってつけられた(そのため「スポコン」というジャンルを示す名称自体は和製英語の扱いに近い)。
導入時は従来のアメリカンカスタムの素材が日本車に置き換わったものであり、一部においてはアメリカ車を用いたカスタムやローライダーカスタムにおいての傍系的手法として捉えられていた節があった(事実、当初このジャンルを取り上げていた雑誌は「Daytona J's(ネコ・パブリッシング/廃刊)」などのアメリカンカスタム誌であった)。
当時からそれぞれのカスタマー(≒カスタムを行う人々)が行っていたジャンルにおける文化に合致した手法が導入されていたため、ストリートレーサー色の強いものから派手な外装を施したローライダー色の強いもの等複数の手法が行われており、ある程度ジャンルも大別されていたが、その方向性については各カスタマー間での一定の共通認識があった。
しかし、その後の雑誌、映画などのメディアにより露出が大きくなるにつれ、一過性のムーブメントが発生し、異なるジャンルのカスタマーが多く流れてきた。またこれによりカスタマーの一部においては他者との差異を演出するために新しい手法を繰り出そうと躍起になった。その結果、商品供給を行うメーカーやそのスポンサードを受けている雑誌などの思索も絡み多方面においてジャンル拡大が行われ、またメディアによりベース車両の類似性から従来の日本の走り屋とのジャンル・手法の関連付けもいささか強引に行われたためにその手法も多様化し、元々の共通認識であったアメリカンカスタム、あるいはそのライフスタイルを無視したものも数多く出回るようになっていった。
そのためスポーツコンパクトカスタムを標榜していても様々な要素、認識が入り混じるようになり、今日に至っては一言で説明がつかないほど複雑なジャンルへと変貌を遂げることとなった(これは皮肉にも、このジャンルを導入した人々が、このジャンルから離れてしまう逆転現象を生む要因ともなった)。
[編集] 定義・概要
- 主に見せる(魅せる)事を重視した派手なドレスアップやオーディオ関係を充実化している事がスポコン車両と定義されているが、それと同時に後述するナイトロなどの装着やより高出力なエンジンへの換装でパワーアップを施したり、高性能ブレーキやサスペンションで性能アップを施す機能的な方面のチューニングも多く、明確な定義は無い。が、絶対的な点はアメリカ有色人種を意識している点である。
- このため、アメリカを常に意識していないものはスポーツコンパクトでは一切なく、たとえ北米に販売されている車両を用いてカスタムしても、アメリカを意識しないカスタムはスポーツコンパクトとは言わない。またスポーツコンパクトの手法を取り入れたドレスアップをしていても、自己満足に留まる物で他人に見せる事を考慮/配慮されていない場合はあくまで「スポーツコンパクト風」という事になる。
- 日本国内においては、「アメリカ在住の車愛好家が羨ましがるであろう事をする」という点も見逃せない点である。
- 愛好家は愛車を一つのショー、ストリートパフォーマンスとして車を完成させるよう意識している、大道芸人のような存在ともとれる。そのため、面識の無い通行人でも挨拶して頼めば写真撮影にも気軽に応じるケースが多い。
- 狭義としては公式又は代理店などを通じて北米向け仕様が輸出販売されていた米国産以外の車両がベースとして限定されるが広義としてはアメリカ以外のメーカー産の車両がベースとなる。
- 但し近年北米においても定義が変遷しており、日本車や欧州車のほか小型あるいはスポーツコンパクト向けとしてリリースされたアメリカ車もスポーツコンパクトの範疇に含まれる(ダッジ・ネオン、SRT-4やシボレー・コバルト等)。現地の雑誌・ショーにおいても同一カテゴリとされることが多い。元々北米において外車は一括りに「ユーロ」と呼称されており、特に日本車を区別する場合にライスロケットと呼称される。
- 映画ワイルドスピードシリーズにてこのような車両が数多く出現し、映画公開以降にスポコンの人気が出たが賛否両論である。
- 愛好家の中には新車価格150万円、中古価格50万円程で手に入れた車両に1000万円近くの改造費を投入する者もいる、決してベースとなる車両が高価で高級である事は重要視されず、どのようなカスタムが、どのようにセンスよく仕上げられているか、コンディションを保たれているかが評価の指針となっているため、新車価格500万円のスポーツカーを少々改造した物(者)より、廉価な(スポーティーな)ファミリーカーを過激にかつ美麗に仕上げた物(者)が賞賛される。
- 「スポーツコンパクト」はあらゆる細分化されたジャンルを含むため、愛好家は一般の人との会話などではスポコンと言い、愛好家同士では別の呼称をすることがある(JDM、USDM、ローユーロ等)。但しこういった名称は雑誌にて決められたものが多く、先述の通り定義が厳密には定まっておらず曖昧なため、オーナー自身もジャンルに拘っていなかったり把握していないことがあり、自己申告で成り立っている部分もある(全てが必ずしもそうというわけではない)。
[編集] 主な改造方法
基本的に走行・運動性能の向上のみならず、見せる(魅せる)事を重要視する傾向がある。欲張りなカスタムといえる。
下記の物はその一例に過ぎず、またカスタムの方向性により重複したり一部のみを行う等様々である。
注意 これらの改造には車検に対応しない、もしくは対応させるためには構造変更申請が必要となる事柄が含まれます。
内外装・外観上のカスタム
- オールペイント(車体全体の全塗装の事。オールペンとも言う)
- 各メーカーのエアロパーツを装着する
- アンダーカーキットと呼ばれるネオン管やLEDを並べた管を車体底部&車内などに装着する
- バイナル グラフィックスと呼ばれるステッカーを車のサイドやボンネットに貼る。漢字、カタカナなど日本語のステッカーもある。
- ハイドロと呼ばれる物で車高を高くしたり低くしたりする(時には車を跳ねらせる)又は車高調整式サスペンションの装備で車高を下げている。
- カーオーディオを装着し、トランクの中などにウーファーやアンプ、モニターなどを装着する
- メーター類の加工・変更や追加
- ドアのガルウイング化
- ボンネットなどをカーボン製にする
- テールランプ等を通常の赤から、レンズのみ白など他の色にする(赤くは光る)やユーロテールと呼ばれる別デザインの物に取り替える。
- ヘッドライトをデザインの違う物に取り替える(リフレクター式からプロジェクター式へ交換等)
- ボディスワップと呼ばれる手法で、他車種向けに設定されている部品をボディ側を大きく加工して取り付け、市場に流通している車に対して個性化を図る(それは時として原型となった車が何であったのかすら分からないこともある)
- スムージングと呼ばれる手法で、モール類やナンバーポケット、時にはドアノブまでをも埋め込み、ボディ全体をフラットに見せる(これは元々ローライダーの手法でもある)
- エンジンルーム内各部のメッキ処理やバフがけ研磨、塗装による装飾 (時にエンジン本体やミッションケース、サスペンションアーム類にまで及ぶ。)
- 可能な限り配線類やヒューズボックスなどを隠したりチューブで包むなどの美観向上処理
運動性能面のカスタム
- ナイトロ(ニトロ)を装着し車をパワーアップする(ナイトラス・オキサイド・システム参考)
- ハイドロと呼ばれる物で車高を高くしたり低くしたりする(時には車を跳ねらせたりする)又は車高調整式サスペンションの装備で車高を下げている。
- バケットシートや多点式シートベルトなどを初めとしたカラフルな内装部品を装着する
- ホイールのインチアップ(17~20インチが定番。これは直進安定性の向上の意味もあるが、大径ホイールを装着することにより車体を大きく見せようとするアメリカにおける通例的な手法でもある)
- メーター類の加工・変更や追加
- ボンネットなどをカーボン製にする
- より高性能なエンジンへの換装やターボチャージャー、スーパーチャージャー等、加給器の搭載とトランスミッションの換装(ATからMTに変更など)
- 高性能でより見た目の良いブレーキシステムへの換装
- ワイドトレッド化(ワイドボディ化)による走行安定性の向上を狙いつつインパクトのある外観への改造
- ロールケージやスポット増しなどレースカーと同様の手法による補強(機能面よりもその見た目を重視して採用される事が多い)
- 高性能なマフラーやヘダース(エキゾーストマニホールド)などへの換装(好みの部品がない場合は特注製作される事は稀ではない)
[編集] その他
- スポコンに使用される車種の類似性から、ドリフト方面で使用されるドリ車などにもその影響が及んでいる事がよくある。狭義としてはドリ車はスポコンとは似て非なるジャンルであり完全に別物であるが、広義として派手な装飾を施し魅せる事を意識したドリ車をスポコンの派生ジャンルの一つとして組み込む動きがある。これはドリフト関連ショーや用品メーカーの商業的戦略からであるが、実際には国内のドリ車の多くは走行パフォーマンスに主眼を置いておりスポーツコンパクトとは趣が異なっている。
- 2006年9月公開(本国では6月)のワイルドスピード第3作目はドリフト+ドレスアップをされた車両による非合法レースを主な要素としているが、上記のようなパターンとは逆でドリ車ではなくスポコン車両によるドリフト走行となっている点には注意が必要である。
- 明確なポリシーが無いように見受けられる取ってつけたような改造のほか、カーレース(モータースポーツ)などで用いられる車などを真似たカーコスプレ・レプリカや、アニメやビデオゲームに登場する架空会社や団体のステッカー、萌え要素(キャラクターステッカーなど)の強い構成などは、この分野の愛好家にとって同一視される事を嫌う傾向にある。(ただし、これらは日本においてはスポコンとは違うジャンルのため、目立った交流は無いとされている。)しかし過去に現地においても所謂ジャパニメーションと呼ばれる日本製アニメーションやビデオゲームの題材をリスペクトし、バイナルなどにその要素を反映していた時期があった(これは日本からのインポートシーン全般を漢字などと同様に日本文化として一括りにして捉えられていたことがあった為)。これは現地の著名なチューナーなどによって行われていた(例:「RO_JA motorsports」プロデュースのシビックなど(外部リンク))こともあり、一定の認知もある為、その手法自体を全て否定することもできない(扱い自体は日本におけるアメリカンコミックやカートゥーンを題材にしたものと同程度の感覚であり、現地でもこの内容については賛否がある)。
- イベントや交流ミーティングでは、アメリカを意識したカスタムをする他ジャンルとは親和性が高いとされる(ラグジュアリー、エキゾチックカー、スーパーバイク、ローライダー、トラッキン等)。しかし反面、日本従来のVIPカー、バニング、暴走族などとは親和性が低く、基本的に交流などは無いとされている(個人間で仲が良いことはある。また、イベントによっては趣旨がかぶっている場合もある)。ただし、他ジャンルとは一線を画している比率が高いため、他ジャンルからの理解はあっても、あまり芳しいとは言えない節がある。
- スポーツコンパクト愛好者はライフスタイル面でも自ら演出している傾向にあり情報や部品の輸入、海外愛好家との交流のために実用英語を学ぶ者も居る。
- 2006年6月現在、日本国内において「スポコン」専門誌は同年5月にD-CAR誌の突然の休刊をもって事実上消滅したため、雑誌媒体による情報は再び海外からの輸入雑誌に頼らざるを得なくなった。スポコン専門雑誌の登場が望まれている。
- あえて何かに例えるならば、永遠に完成せずストイックに理想像を追求する点で「盆栽」と言う者や、そのカラフルでポップなデザインをわざと採用し高級感と現実味(生活感)を消していく事から「おもちゃの車を実際に造っている」という者も居る。ヨーロッパのある雑誌では「MANGA-RACING」と題されて国内の著名なビルダーと作品車両が紹介された。
[編集] 活動の盛んな地域
求む執筆者
- 国内
- 海外
[編集] 主なショー・イベント
国内
- X-5 外部リンク クロスファイヴ公式サイト
- HIC(ホット・インポート・チャレンジ) 外部リンク ホットインポートチャレンジ公式サイト
- HIN(ホット・インポート・ナイト)外部リンク HIN公式サイト
- ACG(Audio Car Gallary)外部リンク ACG公式サイト
- Do真ん中ミーティング
海外
- SEMA show
- Hot Import Night
[編集] 参考資料
- KKマガジンブックス『Compact Racer』