VIPカー
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VIPカー(びっぷかー / VIP Car)とは、大型高級車を改造した車両(改造車)の事である。VIP(Very Important Person - 要人)が乗る自動車を標榜して改造(主にドレスアップ)されることから名付けられる。また、亜流としてミニバンや軽自動車をベースとするカスタムがある。
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[編集] 起源
- 関西圏では、大阪環状線を走っていた、暴走族としての走り屋が、警察のローリング族撲滅作戦により走れなくなった為に、一部の走り屋やチームが車をシビックなどから乗り換えて高級車をいじり始めたのが始まりとされる。(ジャンクションプロデュース代表の武富孝博氏もその一人で、かつては「ファイナルレーシング」という走り屋チームの一員だった。)
- 関東圏では暴走族車両として、トヨタ・マークⅡ・クレスタ・チェイサーなどの4ドアハイソカーを改造するジャンル、いわゆるチバラギ仕様が根付いており、その延長線上であるという認識もある。この傾向は仙台を中心とした東北圏でも見られる。
- 従来は上記暴走族向けの車両であったこの種の改造車は、1990年代後半から暴走を行わない10代から20代前半の男性層にも定着した。千葉県、群馬県、栃木県などの首都圏や、大阪府・兵庫県・宮城県などの大都市の縁辺部では専門中古車店も多く存在し、活発な取引が行われている。
[編集] 概要
- 外装の改造ポイントは、大径・大音量マフラーへの換装や、エアサスキット、車高調、ローダウンサスなどによるローダウン、威圧的なフォルムを作るエアロパーツの取り付け、インチアップした幅広アルミホイールを履く、オーバーフェンダー加工、ホイールのツライチセッティングなどさまざまである。
- 内装の改造ポイントは、応接室をモチーフに仕上げることが多いため、大理石調や木目調のカラーリングが施されることが多い。また、ルームミラーにフサとよばれる装飾品(ジャンクションプロデュース製)を下げるなど、和風のテイストを持った改造が成されることも多い。なお、スモークフィルムの貼り付けがなされることも多いが、2004年より規制が厳格化されたことには注意すべきである。
- 現在はシンプル志向の改造が多くのオーナーに好まれ、控えめなエアロパーツ、小振りなマフラーなど、上品さ、控えめをアピールとしたものが多い。また、前述の理由でスモークフィルムを装着しない車両も存在する。しかし外装とは反対に内装は多数の小型のモニターや、ハイパワーオーディオを装備しているものが主流である。
- また、ボディーカラーも、以前は原色系の派手なカラーが主流になった時期もあったが(1998年~2000年頃)、シンプル志向の改造がブームとなった現在では、シルバー、ブラック、パールホワイト、ワインレッドなど、一般的なカラーが好まれている。ただ、オールペイントをすることもまた一般的である。これは後述のベース車両が中古車主体であることに由来する。
- しかしながら、これらの中には本来のVIPが乗車する車両にはあり得ない改造も一部含まれている。
- 障害者専用の駐車スペースに駐車してある車は高確率でVIPカーだが、障害者の嗜好との関連は不明である。
[編集] 対象となる車種
- トヨタ・センチュリーや日産・プレジデントなどの社用車、レクサス・LS、レクサス・GS、トヨタ・セルシオ、トヨタ・アリスト、トヨタ・クラウン、インフィニティ・Q45、日産・シーマ、日産・フーガ、日産・セドリック/グロリアなどのオーナードライバー向け大型高級セダン (ハードトップとセダンを一本化する以前の150系以前のクラウン・Y34系以前のセドリック/グロリアなどはハードトップタイプがほとんど) が用いられる。新車を改造する豪者もいるが、中古車を改造するのが一般的。一部ではメルセデス・ベンツEクラス・Sクラス・CLSクラスや、BMW7シリーズなどの輸入車もベースになることがある。
- VIPカー的なドレスアップによって、その車種に対するイメージの悪化を嫌う人もいる。メーカにもそのような傾向があると思われ、2004年11月に発売されたトヨタ・マークXや、レクサス・LSでは、バンパーとマフラーが一体的にデザインされている。これを見習い、軽をはじめとするいろいろなクルマがバンパー一体マフラーにカスタムしているが、最近になってジャンクションプロデュースからレクサス・LS用のエアロパーツが発売された。
- ただ、純正のエアロパーツやホイールの中にも派手なパーツはあり、VIPカー的なドレスアップに限らず、メーカーがこういったユーザーによるクルマのカスタマイズを根本から否定しているとは考え難い。[1]
- 本来別ジャンルであるラグジュアリーカーにて対象となる車種もVIPカーの対象に含まれることがある。これは、主に両者のカスタム趣向や車の形態などに類似性があることによる。
[編集] パーツのブランドについて
- VIPカーにおいてはベース車両のランクもさることながら、パーツのブランドも重要視される。特に有名なのはインパル、ジャンクションプロデュース、エボリューション(オートクチュールブランド含む)、アドミレイション、WALD(ヴァルド)、インシュランス、ワイズ、アンクエルション、セッション、K-BREAK、ギャルソン(D・A・D含む)、ファブレスなどがある。特にセッションやK-BREAK、ブレーンなどのパーツメーカーは、全国的に有名であったVIPカーオーナーが設立したメーカーであるため、ユーザー感覚に近い製品のため人気がある。
- ホイールのブランドとしてはOZレーシング(フッツーラ・オペラ・ミケランジェロなど)、ワーク(レザックス・マイスター・エクイップ・ユーロラインなど)、BBS(LM・RGなど)、MAE、タケチプロジェクト(レーヴェンハート・ベルサリオなど)、SSR、スピードスターなどがある。また、上記にあげたジャンクションプロデュースやWALD、ファブレスなどは、自社でホイールの開発も手がけている。さらに、BMWチューナーのアルピナや、メルセデスチューナーのブラバス、ロリンザーなどのホイールが加工流用されることもある。一般に、稀少かつ高価なホイールほど格が上とみなされる。
- なお、改造はショップと呼ばれる板金屋で行うのが一般的である。全国に多々ある板金塗装店の中でも、いわゆる名店と呼ばれるショップは少なく、どこのショップによるカスタマイズかによってもクルマの格が変わってくるといえる。
[編集] チーム・イベントについて
- VIPカーのオーナーは、チームやクラブ、連合などと呼ばれる集団に属している者が多く、またミーティング、イベント、ドレコン(ドレスアップカーコンテスト)などと呼ばれる集まりに参加するものも多い。彼らは暴走族に見られる集会などとは違い、全国規模での集まりであることが多い。そのため、プレートと呼ばれるフロントガラスに提示する室内用装飾品や、ステッカーなどで自らのチームをアピールしていることが多々ある。
- 特に有名なチームは、北海道のクラブC・クイーン・シグナル、岩手県のVIPファンタジー・グレードA、仙台のジャスティス・トレンディ・ファイナル・ランティス・カルチェ、石川県のジャスティス、神奈川県のスペシャリスト、静岡県のアヴァンギャルドジャパン、愛知県のダイアモンド・ドリームアゲイン、岐阜県のインペリアル・エキスパート、滋賀県の魅返り美人、大阪府のクラブファイナル・ドレスアップカンパニー・アウトロー・カークラブジャパン・ロイヤルファミリー、ロイヤルスピリッツ、奈良県のローフォルムカラーズ、広島県のリミットレスカンパニー、福岡県のハイウェイスターなどがある。(現在は活動を行っていないチーム含む。)
- 全国規模のものでは、オールジャパンエレガントファミリー、オールジャパンファインジェネレーション-V、全日本TC連盟、寺崎軍団、大林軍団などがあり、また車種ごとのMJ-SPECIAL'Sやセルシオマスターズなどもある。さらに、シャイニングクイーンズなどの女性限定チームや、改造手法ごとのオールジャパンエクセレントブリスターズなど、ボディーカラーごとのキャンディーズ、シルバーソニックなど、細かいものも入れるとチーム数は2000を軽く超えるといわれている。
[編集] 注意点
- “専従の運転手がおり、オーナー本人は後席に乗車出来る一般社会のVIP”―ショーファーカーと違い、“オーナー自らハンドルを握って運転する”というポイントの違いには注意しなければならない。当然ながら一般にVIPとして扱われるのは前者である。
- なお、専門誌、特にVIPCAR誌が意図的に上記のような改造高級大型セダンを「ビップカー」と名づけたのは、ショーファーカーのイメージを敢えて打ち消すためであると公式コメントを行っているが、「VIP」は前述の通り「ブイアイピー」と発音するのが正しいものであるため、この意図は広く理解されることなく定着してしまい、誤りをそのまま使用したものと一般的に解釈されるようになってしまった。
- VIPカーという言葉の語源は、古くはY30型セドリックグロリアにあったブロアムVIPというグレードのためであるという説や、ヤングオート誌(現在休刊)のコーナー、VIPCLUBであったという説などがある。
- その特徴的なスタイリングで目立ちやすく、マナーの悪さも目立ってしまうため、悪印象を抱かれる事も多い。そのため、VIPカーに否定的な意見を持つ者は徹底的に嫌う傾向にある。
- 同様の理由でVery Immoral Person's carの略と揶揄されることもある。
- 車検証の記載事項を超える改造、安全性に問題がある改造、整備不良と扱われる改造などは継続車検が受けられないばかりか、警察に検挙されることもある。特にスモークフィルムの装着は一般的であるが、リア側だけでなくフロント側にも施行しフルスモーク化するのは違法であり、施工業者すら逮捕された事例もある。
- 高価な改造費用もさることながら、古い大型車だけにガソリン代や維持費は馬鹿にならず、また故障も多い。ただし、軽自動車やミニバン、最近生産された高級車をベースにするものはこの限りではない。