スーパークルーズ
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スーパークルーズ(supercruise)とは、航空機が超音速で長時間の飛行(巡航)を行うこと。超音速巡航とも。2000年代現在の新型戦闘機に要求されることもあり、F-22やユーロファイター タイフーンなどがこの能力を備えている。これらの機体はアフターバーナーを使用せずとも超音速飛行が可能であり、結果として長時間にわたって超音速飛行が可能になっている。
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[編集] スーパークルーズが可能な航空機
[編集] 歴史
そもそも超音速機が登場した当初において、アフターバーナーを使うことなく超音速飛行を行える機体は、ライトニングの原型機 P.1 、あるいはセンチュリーシリーズのYF-107戦闘機など、いくつか存在した。しかしYF-107が結局F-105との競争に敗れて制式採用されなかったように、特筆すべき性能では無かった。
その後、SR-71のようなマッハ3で超音速巡航可能な偵察機、あるいはコンコルドやTu-144のようなマッハ2で超音速巡航可能な旅客機が登場するが(ただしアフターバーナーは使用する)、当時はその高速性自体が話題になったのであって、超音速巡航については特筆すべき性能として語られる事は無かった。
その状況が変わるのは、70年代以降である。超音速戦闘機にターボファンエンジンが採用されるようになったのである。ターボファンエンジンはターボジェットエンジンに比べて燃費効率が良い反面、特性がより低速向きであり、超音速飛行には向かない。音速を突破するにはアフターバーナーの使用が不可欠になった。またターボファンエンジンとアフターバーナーの組み合わせは、出力増大効果はターボジェットとアフターバーナーを組み合わせた場合よりも高い反面、その際の燃費効率は逆に悪化したのである。結果として超音速飛行にはアフターバーナーが必要不可欠になり、燃料を短時間で消費するため、超音速巡航など不可能になってしまったのである。ただしベトナム戦争 の経験から、戦闘機にそもそも超音速域での性能は求められなくなった。超音速領域ではほとんどまっすぐに飛ぶ事しかできず、格闘戦など不可能であり、偵察機や旅客機ならともかく、戦闘機においては超音速で長時間飛ぶ事に意味は無いと考えられたのである。
さらにその状況が変わるのは90年代になってからである。戦闘機が敵レーダーの目をかいくぐり、ミサイルによる迎撃を避けるには、亜音速での低空侵入という方法が一般的であった。ところがこれでミサイルはかわす事ができても、対空砲火による被害は大きくなるという問題があった。しかし。ステルス技術が開発されたため、レーダーをかわす事が簡単にできるようになったため、逆に対空砲火を避けるためには高空を超音速で侵入するほうが効果的と考えられるようになった。そのため、再び戦闘機に超音速巡航性能を持たせる事が、着目されるようになったのである。
そこで新たに開発されたのがF-22戦闘機である。F-22が搭載するP&W製 F119エンジンは、バイパス比が低いターボジェットに近いターボファンエンジンであり、高速向きの特性を持ち、アフターバーナーを使わなくとも音速突破が可能である。上記のステルス性に加えて、推力偏向ノズルも備え、超音速領域においても高い運動性を誇る。50年代の「たまたまアフターバーナー無しで音速を突破できてしまう」戦闘機とは、次元が異なる超音速巡航戦闘機である。
なお、ユーロファイター タイフーン、ラファールも、アフターバーナー無しでの音速突破が可能な超音速巡航戦闘機であるが、F-22のようなステルス性や推力偏向ノズルは持っておらず、その超音速巡航にどの程度の効果があるかは疑問である。
[編集] その他
「アフターバーナーを使わなくとも音速を突破できる事」が超音速巡航の定義であるかのような解釈が広まっているが、これは間違いである。超音速巡航という言葉には「超音速で長時間飛行する事」という以外の意味はない。アフターバーナーを使わずとも音速突破できるというのは「長時間飛行するための条件」でしかない。アフターバーナーを使うと燃料消費量が格段に増えるがために、結果として長時間の超音速飛行が不可能になるだけに過ぎない。上述のSR-71、コンコルド、ツポレフTu-144は、(使用の仕方はそれぞれで異なるものの)音速突破にはアフターバーナーの使用が必須であるが、長時間の超音速飛行が可能であるので、立派に超音速巡航が可能であると言える。逆にエンジンをF110-GE-400に換装したF-14戦闘機は、アフターバーナー無しでも短時間であれば音速突破が可能であるが、これは超音速巡航とは言えない。
小型の戦闘機のほうが大型の旅客機より高速であるという先入観を持っている人にとっては、この事実はいささか奇異に思えるかもしれない。しかし機体に燃料をたっぷりと搭載できる大型機であれば、アフターバーナーを使用して燃料を大量消費してもなお、超音速で長時間飛べるのである。実は旅客機のほうがよほど超音速巡航はやりやすいのであって、これを小型の戦闘機で可能にするのは大変な事なのである。