ダウンフォール作戦
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ダウンフォール作戦(Operation Downfall)とは、太平洋戦争時アメリカ軍が計画した「日本本土上陸作戦」の作戦名である。計画発動前に日本が降伏したために、この計画は中止された。
ダウンフォール(Downfall)とは英語で「失墜」「滅亡」などといった意味があり、文字通り頑なに抵抗を行い続けているであろう日本に対し、その本土での陸上作戦を行い、戦争を終結させるために検討された作戦である。
予想された戦闘の全体概要については本土決戦を、日本軍の防衛作戦については決号作戦を参照
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[編集] 日本本土上陸作戦
[編集] 誕生
日本本土上陸作戦が現れたのは、カイロ会談の時に「日本の早期無条件降伏のためには本土上陸も必要」という認識が最初と言われている。アメリカ統合参謀本部は上陸作戦を検討、1945年2月のヤルタ会談直前に骨子が完成。アメリカとイギリスに了承されることになる。
[編集] 骨子
ダウンフォール作戦は次の2作戦から構成されている。両作戦では、数発の原爆投下、及び毒ガス使用、農地への薬剤散布によって食料生産を不可能にする事も検討されたという。
[編集] オリンピック作戦(Operation Olympic)
オリンピック作戦は、九州南部への上陸作戦であり、目的は関東上陸作戦であるコロネット作戦のための飛行場確保であった。作戦予定日はXデーと呼称され、1945年11月1日が予定されていた。海上部隊は空前の規模であり、空母42隻を始め、戦艦24隻、400隻以上の駆逐艦が投入予定であった。陸上部隊は14個師団が参加予定であった。これらの部隊は占領した沖縄を経由して投入される。なお、これの欺瞞作戦はパステル(Pastel)作戦と命名されていた。
作戦の事前攻撃として、種子島、屋久島、甑列島などの島嶼を、本上陸5日前に占領することも検討された。これは、沖縄戦の時と同じく、本上陸海岸の近傍に良好な泊地を確保することが目的である。この泊地は、輸送艦やダメージを受けた艦の休息場所に使われる。
上陸部隊はアメリカ第6軍であり、隷下の3個軍団が、それぞれ宮崎、大隅半島、薩摩半島に上陸することとなっていた。日本軍の3倍以上の兵力になると、アメリカ軍では見積もっていた。大隅半島には、日本軍の防御施設があったものの、宮崎や薩摩半島には防御施設があまりなかったということも判断材料となった。
なお、航空基地の確保が目的のため、南部九州のみの占領で作戦は終了し、北部九州への侵攻は行わないことになっていた。
[編集] コロネット作戦(Operation Coronet)
オリンピック作戦で得られた九州南部の航空基地を利用し、関東地方への上陸する作戦である。上陸予定日はYデーと呼ばれ、1946年3月1日が予定されていた。コロネット作戦は洋上予備も含めると25個師団が参加する作戦であり、それまでで最大の上陸作戦となる予定であった。上陸地点は、湘南海岸や九十九里浜が予定されており、湘南海岸には第8軍、九十九里には第1軍が割り当てられていた。
[編集] 日本側の対応
1945年初期、大本営は本土決戦を想定して、さまざまな体制変更を試みている。 その中でもっとも大きな変更は、軍を本土防衛を主眼にして命令系統を2つに分割したことである。東日本を第一総軍、西日本を第二総軍に振り分け、それぞれの司令部を市谷と広島においた。これは、それぞれ米軍の2つの作戦にも対応している。 なお、第二総軍は広島市への原子爆弾投下で壊滅した。
[編集] 論争
しかし、この計画は、統合参謀本部内で意見が分かれるようになる。統合参謀本部議長のレーヒ元帥は、「すでに壊滅している日本に対し作戦を遂行する必要なし」として中止を提案。海軍作戦本部長キング元帥も、「地上兵力投入による本土侵攻より海上封鎖が有効」と主張。戦略空軍総司令官アーノルド元帥も「本土への戦略爆撃と海上封鎖が有効」と言う慎重論が出た。彼らがこのような主張をしたのは、日本軍との各諸島での戦闘、とりわけ硫黄島や沖縄戦での損害の大きさに本土戦での犠牲者の数を懸念したためである。
それに対し、「本土侵攻による大戦の早期終結を」と主張するマッカーサー元帥に、陸軍参謀総長マーシャル元帥と太平洋艦隊司令長官ニミッツ元帥が支持した。
最終的に作戦は承認。マッカーサーに対し作戦準備指令が下る。
[編集] 作戦中止
ルーズベルト大統領死去の跡を継いだトルーマン大統領は、ポツダムでの会議中、原爆実験の成功の報を聞き、ソ連の日本参戦を阻止するため、そして日本を単独で屈服させることが可能になったことから作戦中止を決定する。
[編集] 関連書籍
- 『日本殲滅 - 日本本土侵攻作戦の全貌』(トーマス・アレン、ノーマン・ポーマー、翻訳・栗山洋児/光人社)
- 太平洋戦争初期からダウンフォール作戦に至る米軍の作戦計画を追ったドキュメント。
- 『日本本土決戦』(檜山良昭/光文社)
- 日本が降伏せず、本土侵攻作戦が実行されていたらという想定で書かれた小説。いわゆる架空戦記のはしりと言える作品ではあるが、絶望的で凄惨な展開に終始するところは他と一線を画する。なお、この作品中では、「ダウンフォール作戦」は、日系人兵士の部隊を潜入させて天皇にトルーマン大統領の親書を手渡し、軍部から保護して脱出させ、終戦を呼びかけさせるという、コロネットの補助的作戦の名称として扱われている。
- 『幻の本土決戦 房総半島の防衛』(千葉日報社)
- コロネット作戦実行―米軍上陸の場合は最前線になる事が予想された、房総半島東岸の防衛体制の跡をルポ。
カテゴリ: 戦争スタブ | 太平洋戦争の作戦と戦い