ダークインパクト
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ダークインパクト(DARK IMPACT)は、2006年4月、タミヤよりリリースされたラジオコントロールカーである。カテゴリは電動・1/10スケールの四輪駆動(シャフトドライブ方式)バギーに属する。
ダークインパクトには、同社のオフロード向けモデルとしては最新型となる、DF-03タイプのシャーシが初めて採用されている。このシャーシは、先代のDF-02タイプが抱えていた処々の問題点を改良しつつも、高いコストパフォーマンス性が維持され、初~上級者までを広く満足させる設計となっている。
ラジオコントロールブームの本格的な再来を目指して来たタミヤにとって、ダークインパクトは正にそのリバイバルを決定付ける為に投入されたとも言える、極めて重要な戦略車である。
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[編集] 基本スペック("DF-03" Shaft Driven 4WD System)
- 全長…387mm 全幅…250mm 全高…145mm 全備重量(標準)…1,156g
- ホイールベース…272mm 最低地上高…24mm
- C.V.A.ダイヤフラム式オイルダンパー(ミニ/ショート)
- 前後アジャスタブルロッド式セミ・ダブルウィッシュボーン(四輪独立懸架)
- ボールデフ標準装備(F/R)
- タイヤ(F/R)…ハイデンシティスパイク コンパウンドK、サイズ62-57-25-28/62-57-35-38
- フルボールベアリング仕様
- シャーシ…ABS製バスタブフレーム / セミモノコック構造
- 搭載モーター…540タイプ
- 駆動形式…ミッドシップ・モーター、シャフト駆動4ホイールドライブ
- プリセット減速比…9.17:1(S=78,P=26:m=0.5)
- 価格:¥17.800
[編集] DF-02シャーシからの主な改良点
先代の登場(2004年6月)より2年を待たずの投入となったDF-03シャーシだが、その基本設計は根本的な部分からも大幅に見直されており、外観からはもはや同じ血統であることすらも感じられなくなっている。
- センターマウントバッテリー+ミッドシップ
DF-02ではシャーシ左側に確保されていたバッテリー搭載位置が、センターへの縦置きとなるレイアウトに変更されている。これは前輪への駆動伝達機構がないRRバギーで既にスタンダードとなっている配置だが、DF-03ではセンターシャフトを左にオフセットし、バッテリー着脱をシャーシ底面の開口部より行うようにすることで実現され、結果理想的なマスバランスを得ることに成功している。一方でモーターは横置きとなった為、反トルク作用がロールに影響を及ぼすことがなくなった。こうした改良により、DF-03は左右のコーナリングフィールに差のない、素直なコントロール特性を獲得している。
- ボールデフの標準装備とフルベアリング仕様
先代ではギアデフが装備され、また一部にプラベアリングが使用されていた。こうした装備品の充実は、DF-03がよりレースシーンを意識したモデルであり、あらかじめハイパワーモーターの搭載を想定した設計がなされていることを強く印象づけている。
- 前後オーバーハングの切り詰め
クラッシュ時の衝撃から機体を守るため、DF-02シャーシは大きなバンパーを前後に装備していた。本来の目的に対しては高い効果を発揮したものの、ジャンプの着地時にはその長いオーバーハングが逆に仇となり、路面との干渉を起こして挙動を不安定にさせるという弱点をも内包していた。DF-03ではこのバンパーが潔く取り払われており(正確には超小型化)、着地安定性の向上が図られている。
- ホイールアライメント・ジオメトリ調整幅の増大
DF-03のサスペンション・アッパーアームには、両ネジシャフトが標準装備として与えられている。またステーにも多数の取り付け穴が用意されており、ダンパー、アームのセットパターンに多彩なバリエーションを持たせている。こうした改良により、DF-03はユーザーの微妙なリクエストにも十分に応え得る、ワイドなセッティングレンジを手に入れた。
- 前後バルクのセパレート化
DF-02はエントリーモデルとしての組立工程の簡素化が重視された為か、バルクヘッドとシャーシフレームが一体型となっており、バルクの破損時にはシャーシそのものの交換を余儀なくされていた。新型ではこれらの部分が分離された構成となり、整備性の大幅な向上に一役買っている。またスキッドプレートには角度がつけられ、フラットであった先代に対しギャップ走破性でアドバンテージを得た格好となった。
DF-02がオンロードモデルのTT-01タイプを基本プラットフォームとしているのに対し、新型であるDF-03のフォルムからはむしろ、初代であるDF-01のコンセプトに近しいものを感じ取ることが出来る。ピュア・オフローダーとして、改めて専用に設計された感の強いDF-03は、全てにおいて先代より飛躍的な向上を果たしている。
[編集] 登場の背景
[編集] 長い厳冬の果てに見えた光明
1980年代に全国各地で巻き起こった第1次R/Cカーブーム(電動バギー)が終焉を迎えて以降、ホビーとしてのラジオコントロールは長い氷河期へ突入していた。もちろんタミヤはこの間もニーズを喚起するため、第1次ブームでは主役となれなかったオンロードカテゴリ(ツーリングカーモデル)にユーザーの目を向けさせるなど、競技人口の縮小に歯止めをかける数々の方策を打ち出している。
泥砂とは無縁のオンロードマシンは、過酷な条件下を走るバギーよりもトラブルが少なく、またメンテナンスも比較的手間がかからないというメリットを持っている。一方ターマックのサーキットにはダートコースと比べ、コースコンディション維持のランニングコストが安く、さらには室内への敷設が容易であるという利点があった。ツーリングカーを中心としたオンロードカテゴリは上記の優位性を背景に勢力を伸ばし、遂にはR/Cスタンダードカテゴリの座をオフロードバギーより奪取するまでに至ったのである。
当時国内では実際のモータースポーツシーンも盛り上がりを見せていた。その中で活躍するマシンをドライブする感覚が得られる、オンロードR/Cの魅力は決して小さくはなかったはずだが、結果として先のブームを彷彿とさせるまでの勢いは得られていない。近年のエンターテイメントの多様化や、景気悪化が囁かれる中での高額な初期投資がネックとなり、1次ブームを支えた少年たちの心を掴むことが出来なかったのである。以降もR/Cと言うホビーは、大人がそれなりのお金を掛けて楽しむものであるという意味合いを強くしていった。
一方で主役の座を明け渡したオフロードバギーはその後も停滞を続け、末期状態に於いては目立ったモデルチェンジもなく、数機種が細々とラインナップされるだけになっていた。2004年には久々の新型となるグラベルハウンド(GRAVEL HOUND;DF-02)が登場したが、この年最も話題となったのは年末に現れた復刻版ホーネット(The HORNET)である。
[編集] 帰って来たかつての少年レーサー達
ホーネットは第1次R/Cカーブームを象徴する名車である。普及型として価格が抑えられたこのマシンは当時驚異的な販売台数を記録し、後発のホットショット4WD(HOT SHOT)と共にブームの牽引役を担った。タミヤは古き良き時代の遺産であるホーネットを現代に蘇らせ、社会人となったかつての少年レーサー達を呼び戻す作戦に出たのだ。
ブーム隆盛の当時にあってもホビーR/Cは、子供に与えるおもちゃとしてはいささか高価過ぎるものであった。公園で複数のバギーが砂埃を上げて疾走する中、それらを指をくわえて見ていることしか出来なかった少年もまた、決して少なくはなかったのである。この復刻バギーはそんな『ちょっぴり苦い思い出』を持つ成人達をも刺激した。再び店頭に並んだホーネットはあの頃を思い出した彼らに次々と持ち帰られ、数日後には各地の店舗で品切れとなったのである。
明けて2005年、タミヤはあたかもホーネットの成功を予見していたかのように、休むことなく次の手を繰り出す。新型となるDT-02タイプのシャーシを採用したRRバギー、スーパーファイターG(SUPER FIGHTER G)の投入である。オンロードモデルとのプラットフォーム共有が難しいRRバギーに於いて、新型は即ちオフローダーとしてのニーズのみに採算性を託した専用設計であることを意味する。DT-02の誕生は、国内各社のRRバギーが実質壊滅状態にある中、ダートカテゴリの復活を目指すタミヤの意思表示であった。
3月のスーパーファイターGリリースから3ヵ月後、タミヤは再び2つのサプライズを用意した。過去の絶頂期を支えたホーネットの兄弟車、グラスホッパー(The GRASSHOPPER)の復刻と、スーパーファイターGのグレードアップバージョンとなるデザートゲイター(DESERT GATOR)の登場である。当時ホーネットを上回るコストパフォーマンスで人気を博したグラスホッパーの復刻は、同じく青年の社会人層に歓迎を持って受け入れられた。一方のデザートゲイターは既にホーネット、スーパーファイターGを手に入れていたユーザーにとって、ステップアップに最適なレーシングカスタマイズが施されている。低く構えた先鋭的なボディスタイルや、エントリーモデルとしては極めて良好な走行性能も支持され、ダークインパクトと並ぶ現行オフロードバギーの主力として展開されている。
上半期の攻勢でオフロードカテゴリの再興に確信を得たタミヤは、広告戦略にも大々的なものを打ち出す。缶コーヒー飲料のジョージアに、第1次ブームで活躍した旧車バギーのミニチュアを付属させるという、これまでにない規模のキャンペーンを行ったのである。このキャンペーンは旧モデルの再生産に関する、ターゲット層への認知度を一気に高めた。時を同じくして、同社のWebページ内には『ACTION!』と銘打たれたオフロードモデル専用のスペースも設置され、その気運は否が応にも盛り上がりを見せる。これらの中で大きく宣伝されたマイティフロッグ(The FROG)、マンタレイ(MANTA RAY)、サンダーショット(THUNDER SHOT)、トップフォース(TOP FORCE)の各復刻モデルはこの年の年末までに相次いでリリースされ、その勢いはもはや出戻り組だけを歓喜させるには留まらず、現代の少年達をもその魅力の虜とし始めたのである。
こうして第2次R/Cカーブームを確実なものにするための土壌は整えられた。
[編集] タミヤの精神を受け継いだダークインパクト
2006年の4月、四駆バギーとして事実上の専用設計がなされたDF-03は、ダークインパクトとして遂にデビューを果たした。プロトタイプであるTRF406Xの面影をうっすらと残すこのマシンは、競技用のベース車両として十分なのりしろを確保しつつも、アンダー2万円の車両本体価格で手に入るというリーズナブルさを実現している。当初の段階ではTRF406Xが醸し出していた雰囲気から、新型はトップクラスのレースシーンを強烈に意識したハイエンドモデルとなることも予想されていた。しかし、第2のホットショットとなる宿命を受けて世に出たダークインパクトに、キット段階での圧倒的高性能は必要とされなかったのである。
ライバル各社がコンペティションモデルのみをラインナップする中、一貫して入門者向けキットを世に送り続け、ホビーR/Cというジャンルそのもののメジャー化に努めるタミヤ。どのような状況下であっても、同社が『初心者にも分かりやすく、作りやすい』の精神を置き去りにすることは決してない。そんなタミヤが用意してくれたのは、やはり誰もが気軽に手を出せるユーザーフレンドリーなキットであった。
[編集] ピュア・レーサーとしてのDF-03
前項で述べた通り、オフロードレーサーとしての要素が多数盛り込まれたDF-03は、レースシーンにおいても十分に活躍出来るだけのスペックを備えている。テストベッドのTRF406Xは全日本選手権へも投入されていることから、このフィードバックを受けたDF-03が、元来は競技車としての設計である事は容易に導き出せる。その真価を発揮するためには欠かせない、フロントワンウェイ、スリッパークラッチといった一線級オプションの開発に関しては、当然ながら大いに期待して良いはずである。
またタミヤは、現代のオフロードレースシーンに於けるデファクトスタンダードへの合流にも積極的に取り組んでいる。ダークインパクトに装備される新設計のホイールは、同社の従来型から径・幅とも拡大されており、海外製のレーシングタイヤを装着することが出来るようになっている。リアウイングの取り付け角度も路面に対しほぼ水平となるように見直され、同じく水平設置を前提としているサードパーティ製のカスタムウイングに対応する形となった。
子供から大人まで、また初心者から熟練者までを広くターゲットとしているダークインパクトは、誰にでも簡単に組み立てることの出来るイージーさを持つ一方で、目の色を変えたユーザーの要求にも応える懐の広さがある。
[編集] 熱問題
この車両は、耐久性や走行性能より、むしろモーターやアンプの「排熱性」の面で課題を残しているといえる。
マスバランスを最適化しようと、モーターを「横置き」でシャーシのセンター部分に搭載しているが、これがリアバルクヘッド・シャーシの間にすっぽりと覆われているため、モーターの排熱性が悪く熱ダレを起こしやすいどころか、その熱がモーターマウントから一次スパーギアを支持する金属製シャフトを伝わり、リアギアボックス内のプラ製ギアが一気に駄目になりやすいうえ、ボディがシャーシを隙間無く覆っておりラジオコントロール装置類の排熱も悪く(現行のアンプは温度が上がりすぎると、自動的に電流を遮断する安全装置が組み込まれているため)、結果的にパワーアップ、ロングドライブに耐え切れない車体となってしまっている。
モーター冷却用ヒートシンクは現在同社より発売中であるが、装着しても効果の程は少々疑問である。高出力モーターを搭載するのであれば、ボディに放熱用の穴を開けるなど、熱対策を施しておいたほうが良いであろう。
また、1次スパーギアを覆うギアカバーの設計に少々問題があり、キットによっては組み付けた時に隙間が開いてしまったり、新車時はぴったりと閉じていても、使い込むに従い熱などの影響で歪みが生じ、隙間が開いてしまう場合もあるので、この部分もスポンジの挿入やテープを張り込むなど、防塵対策を施しておくと良い。
[編集] 同系統車種
- キーンホーク
- アバンテMk.II