デルタ級原子力潜水艦
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デルタ級原子力潜水艦(-きゅうげんしりょくせんすいかん Delta class submarine、проекта 667Б "Мурена",667БД "Мурена-М",667БДР "Кальмар",667БДРМ "Дельфин")はロシア海軍が現在運用する戦略ミサイル原子力潜水艦の1つ。デルタ級の名称はNATOのコードネームによるもので、デルタI級からデルタIV級までの4つがある。ソヴィエト連邦・ロシア側の名称はプロイェクタ667B"ムレナ"、プロイェクタ667BD"ムレナM"、プロイェクタ667BDR"カルマール"、プロイェクタ667BDRM"デルフィン"である。
1972年にデルタI級が就役し、1990年にデルタIV級の最後の艦が就役した。その間に巨大化と先進化が行われた本艦級であるが、長射程のミサイルを運用するためにミサイル格納庫が大きくせり出している形の艦影はすべてに共通するものである。
目次 |
[編集] デルタI級
デルタI級は1972年から1977年にかけて就役した。ロシア本艦級はヤンキー級原子力潜水艦の後継艦級であり、より長射程の潜水艦発射弾道ミサイルR-29/RSM-40(NATOコードネームSS-N-8)を搭載している。全部で18隻建造されたが、第一次戦略兵器削減条約の発効に伴い、1998年までに全艦が退役している。
[編集] 諸元
- 全長:139m
- 全幅:11.7m
- 吃水:8.4m
- 水上排水量:7,800t
- 水中排水量:10,000t
- 機関:VM-4加圧水型原子炉×2基/蒸気タービン×2基/プロペラ×2
- 出力:52,000馬力
- 最高速力:水上16kt(km/h)、水中26kt(km/h)
- 乗員:120名
- 兵装
- 533mm(21inch)魚雷発射管×4基(計12発搭載)
- 406mm魚雷発射管×2基(計8発搭載)
- D-9ミサイル発射管×12、R-29(RSM-40)ミサイル
- 通信装置:「モルニヤ-1」
- ソナー:「ケルチ」
- 航法装置:「トボール」、「ツィクロン-B」
[編集] 同型艦
艦番号 | 名称 | 起工年 | 進水年 | 竣役年 | 建造所 | 所属 |
K-279 | 1992年除籍 | |||||
K-447 | 1973年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-450 | 除籍 | |||||
K-385 | 除籍 | |||||
K-457 | 1974年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-465 | 1974年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-460 | 1975年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-472 | 1975年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-475 | 1975年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-171 | 1975年 | セヴェロドヴィンスク | 除籍 | |||
K-366 | 1974年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-417 | 1974年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-477 | 1975年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-497 | 1975年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-500 | 1976年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-512 | 1976年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-523 | 1977年 | コムソモリスク | 除籍 | |||
K-530 | 1977年 | コムソモリスク | 除籍 |
[編集] デルタII級
デルタII級は1973年から1975年にかけて就役した。設計はデルタI級を改良したものであるといえるが、ミサイルの搭載数を増やすために排水量が増えている。次世代のデルタIII級の就役が早かったので、全部で4隻のみの就役となった。START-Iの発効に伴い1996年より退役を開始している。
[編集] 諸元
- 全長:155m
- 全幅:11.7m
- 吃水:8.6m
- 水上排水量:9,350t
- 水中排水量:10,500t
- 機関:VM加圧水型原子炉×2基/蒸気タービン×2基/プロペラ×2
- 出力:55,000馬力
- 最高速力:水上14kt(km/h)、水中25kt(46km/h)
- 潜行深度
- 最大:450m
- 実用:390m
- 乗員:126名
- 兵装
- 533mm(21inch)魚雷発射管×4基(計18発搭載)
- 406mm魚雷発射管×2基
- D-9Uミサイル発射管×16、R-29(RSM-40)ミサイル
- 通信装置:「モルニヤ」(アンテナ:「シーンテズ」)
- ソナー:「ルビコン」
- 航法装置:「トボール」
[編集] 同型艦
艦番号 | 名称 | 起工年 | 進水年 | 竣役年 | 建造所 | 所属 |
K-182 | 1973年4月 | 1975年1月 | 1975年9月30日 | 北洋艦隊 | ||
K-92 | 1973年 | 1975年 | 1975年12月17日 | 北洋艦隊 | ||
K-193 | 1974年 | 1975年 | 1975年12月30日 | 北洋艦隊 | ||
K-421 | 1974年 | 1975年 | 1975年12月30日 | 北洋艦隊 |
[編集] デルタIII級
デルタIII級は1976年から1981年にかけて就役した。デルタIII級はそれまでのデルタ級とは異なり搭載しているミサイルはMIRV式のR-29R/RSM-50(SS-N-18)となっており、それまでに比べて攻撃力が大きくなっている。全部で14隻が建造され、北方艦隊に5隻、太平洋艦隊に9隻が配備された。1993年春に発表された「艦艇整備10ヵ年計画」では、戦略原潜はタイフーン級とデルタIV級のみを残し、本型も含めた他のクラスは全て退役させる方針で有ったが、結局、維持コストの嵩むタイフーン級を早期退役させ、1990年代前半までに順次オーバーホールを済ませていた本型は残される事になった。なお北方艦隊所属のK-129は1990年代に潜水艇母艦に改造され、KS-129となった。
財政難などの理由により順次除籍され、現在は北方艦隊に3隻(特務原潜KS-129を含む)、太平洋艦隊には4隻が在籍し、運用されている。太平洋艦隊所属艦は、行動不能状態にあると報じられているが、時々、宗谷海峡を浮上航行する姿が海上自衛隊によって目撃されており、尚も健在であると見られる。2004年11月、同艦隊のK-223「ポドルスク」で、タンクへの過剰水圧のため飲料水タンクが爆発するという事故が起き、翌年、修理のため沿海州に向かう姿が宗谷海峡で目撃された。K-433「シヴァトイ・ゲオルギー・ポベドノーセッツ」は、2004年以降、毎年オホーツク海で弾道ミサイルの試射を行っており、2006年9月10日にも、千島列島のシムシル島沖でR-29Rミサイルを発射している。
ロシア海軍総司令官クロエドフ元帥は「就役中の667BDR(デルタIII級)の寿命を無期限に延長する」と発言したが、これは、本型を艦齢ぎりぎりまで目一杯使用するという意味と見られる。現在運用中の艦も2010年代には寿命を迎え、随時退役していく事になろう。
[編集] 諸元
- 全長:155m
- 全幅:11.7m
- 吃水:8.7m
- 水上排水量:8,940t
- 水中排水量:10,600t
- 機関:VM-4SG型加圧水型原子炉×2基/蒸気タービン×2基/プロペラ×2
- 出力:60,000馬力
- 最高速力:水上14kt(km/h)、水中25kt(km/h)
- 乗員:130名
- 兵装
- 533mm(21inch)魚雷発射管×4基(計18発搭載)
- 406mm魚雷発射管×2基
- D-9Rミサイル発射管×16、R-29R(RSM-50)ミサイル
- 通信装置:「ツナミ」、「モルニヤ」
- ソナー:「ルビコン」
- 航法装置:「トボール」(レーダー:「アルバトロス」)
[編集] 同型艦
艦番号 | 名称 | 起工年 | 進水年 | 竣役年 | 建造所 | 所属 |
K-424 | 1975年 | 1975年12月30日 | 1976年6月9日 | 北洋艦隊 | ||
K-441 | 1975年 | 1976年 | 1976年12月 | 北洋艦隊 | ||
K-449 | 1977年 | 北洋艦隊 | ||||
K-455 | 1978年 | 北洋艦隊 | ||||
K-490 | 1978年 | 北洋艦隊 | ||||
K-487 | 1978年 | 太平洋艦隊 | ||||
K-496 | ボリソグレブスク | 1979年 | 太平洋艦隊 | |||
K-506 | ゼレノグラード | 1979年 | 太平洋艦隊 | |||
K-211 | ペトロパヴロフスク・カムチャツキー | 1980年 | 太平洋艦隊 | |||
K-223 | ポドルスク | 1980年 | 太平洋艦隊 | |||
K-180 | 1980年 | 太平洋艦隊 | ||||
K-433 | スヴャトイ・ゲオルギー・ポベドノーセッツ | 1981年 | 太平洋艦隊 | |||
K-129 | 1981年 | 1990年代に特務原潜に改造。KS-129となる。 | ||||
K-44 | リャザン | 1981年 | 太平洋艦隊 |
[編集] デルタIV級
デルタIV級は1985年から1990年にかけて就役した。デルタIII級よりもかなり大型化されているが、その分は、静粛性の向上に充てられた。搭載しているミサイルはR-29シリーズの最終型R-29RM/RSM-54(SS-N-23)である。当初は12隻建造される予定であったが、ソ連邦崩壊により、竣工したのは7番艦までに留まり、続いて建造中だった8、9番艦の工事は中止された。竣工した7隻は、全艦運用中である。
1990年代には財政難により定期修理が中断し、一部の艦は戦略任務に就けない状態が続いたが、2000年以降は順次、改装工事が行われるようになり、これによって艦齢は35年に延長されている。ただしK-64は戦略任務から外され、BS-411の後継の特務原潜に改造中であり、今後、戦略任務に就くのは6隻となる。
ロシア海軍は、財政難を少しでも解消する為、1990年代末には戦略原潜の弾道ミサイルを使って人工衛星を打ち上げるという「副業」を何度か行い、1998年7月には、本型の「ノヴォモスコフスク」がドイツの科学衛星を打ち上げた。
2004年2月17~18日、プーチン大統領視察の元、本型の「ノヴォモスコフスク」と「カレリア」が弾道ミサイル発射演習を行ったが、2回とも失敗に終わった。ただしこれは、予算不足で耐用年数の切れたミサイルを使用したためと見られる。
その後、本型の「エカテリンブルク」が2004年の6月29日と9月8日に行ったミサイル発射は成功し、汚名を返上した。「エカテリンブルク」は、2006年5月26日に弾道ミサイルを使い人工衛星「コンパス-2」の打ち上げに成功している。2006年6月30日には「ツーラ」が弾道ミサイルの発射テストに成功、2006年9月9日にも、本型の1隻が北極海の氷下からミサイルの発射を行っている。
2007年3月5日、ロシア海軍総司令官ウラジーミル・マソリンは、5月に原子力潜水艦を使って南アフリカの人工衛星「サンバンディラ」を打ち上げる予定であると語った。打ち上げには、本型のいずれかの艦が使用されると見られる。
本型が装備する弾道ミサイルR-29RMは、ロシア海軍において「シネワ」(Синева)という愛称で呼ばれている。
[編集] 諸元
- 全長:167m
- 全幅:12.2m
- 吃水:8.8m
- 水上排水量:10,210t
- 水中排水量:12,100t
- 機関:VM-4SG加圧水型原子炉×2基/蒸気タービン×2基/プロペラ×2
- 出力:60,000馬力
- 最高速力:水上14kt(26km/h)、水中24kt(44km/h)
- 放射雑音レベル 艦速4ノット
- 200Hz以下 120dB(静粛性が高いレベル)
- 1KHz 90dB(静粛性が特に高いレベル)
- 乗員:130名
- 兵装
[編集] 同型艦
艦番号 | 名称 | 起工年 | 進水年 | 竣役年 | 建造所 | 所属 |
K-51 | ヴェルホツリエ | 1981年2月23日 | 1985年1月 | 1985年12月29日 | 北洋艦隊 | |
K-84 | エカテリンブルク | 1984年11月 | 1985年12月 | 1986年2月 | 北洋艦隊 | |
K-64 | ウラジーミル | 1985年11月 | 1986年12月 | 1988年2月 | 北洋艦隊 | |
K-114 | ツーラ | 1986年12月 | 1987年9月 | 1989年1月 | 北洋艦隊 | |
K-117 | ブリャンスク | 1987年9月 | 1988年9月 | 1990年3月 | 北洋艦隊 | |
K-18 | カレリア | 1988年9月 | 1989年11月 | 1991年9月 | 北洋艦隊 | |
K-407 | ノヴォモスコフスク | 1989年11月 | 1991年1月 | 1992年2月 | 北洋艦隊 |
[編集] 関連項目
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