蒸気タービン
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蒸気タービン(じょうきたーびん、英steam turbine)は、原動機の一種(タービン)であり、燃料の反応熱等で生成された水蒸気でタービンを回し運動エネルギーへ変換する外燃機関である。
蒸気機関には、蒸気をシリンダに導き、ピストンを動かして往復運動をさせるレシプロ機関型のものと、蒸気で羽根車をまわすタービン型のものとが存在する。本稿ではタービン機関型のものを説明する。レシプロ機関型のものについては蒸気機関を参照のこと。
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[編集] 蒸気タービンの歴史
古代アレクサンドリアの工学者・数学者であったヘロン(10年頃 - 70年頃)が考案したさまざまな仕掛けの中に、「ヘロンの蒸気機関」と呼ばれるものが存在する。これは、蒸気を円周上のノズルから噴出させることで回転力を得るものである。これが人類史上に蒸気機関が登場した最初のものであるとされる(これは現在のものとは原理が異なる)。
産業革命期(18世紀から19世紀にかけて起きた)に蒸気を動力源とする蒸気機関が実用化されたが、それらの大半はシリンダとピストンを使った往復運動をベースとするレシプロ式の蒸気機関であった。
蒸気タービンに関して、1629年にイタリアのジョバンニ・ブランカ(Giovanni Branca)が蒸気タービン(衝動タービン)の概念を図示したものを残している。その後、1882年にスウェーデンのド・ラバル(Carl G. P. de Laval, 1845年-1913年)が衝動式タービンを開発(試作)。1884年にイギリスのチャールズ・アルジャーノン・パーソンズ(Charles Algernon Parsons, 1854年-1931年)が多段階反動式タービンを開発(試作)、1889年に発電用に実用化。1895年にアメリカのチャールズ・ゴードン・カーティス(Charles Gordon Curtis)が二段階多速衝動タービンを開発、1898年にはフランスのラトーが現在のものの直系の原型にあたるタイプのタービンを実用化した。
[編集] 動作原理
高圧の水蒸気を減圧するとベルヌーイの定理により圧力エネルギーが速度エネルギーに変換される。この速度エネルギーを動力に変換する機械が蒸気タービンである。
熱力学第二法則により熱サイクルの最高温度と最低温度との差が大きいほど熱効率が高い。現在、事業用火力発電タービンの蒸気温度は約600℃であるが、今以上の蒸気高温化による熱効率の上昇は、タービンに高価な耐熱材料を使用しなければならないので難しい。
[編集] 蒸気タービンの特徴
- 特徴
- 長所:燃料の選択肢が広い。原子力やRDF、ごみ焼却場の廃熱を利用できる。燃焼が安定しているので排気ガスが比較的きれい。
- 短所:パワーウエイトレシオが大きい。復水器が必要等、付帯設備が大掛かりになる。。変動負荷、部分負荷運転に適していない。一般的には電動機のように回転方向を変えることが出来ない。
- レシプロ式蒸気機関と比較して
- 長所:膨張比が大きい為、熱効率が高い。パワーウエイトレシオが小さい。回転運動の為、振動が少なく、振動も高周波の為、減衰させやすい。摺動部が無く回転方向が一定の為、信頼性が高い。
- 短所:逆回転できない。変動負荷、部分負荷運転に適していない。
- ディーゼル、ガソリン機関等のレシプロ式内燃機関と比較して
- 長所:断続した爆発を伴わないので運転音が静か。振動が少なく、高周波振動の為、減衰させやすい。排気、吸気のカムや点火装置等が無く信頼性が高い。排気ガスがきれい。
- 短所:変動負荷、部分負荷運転に適していない。パワーウエイトレシオが大きい。復水器が必要等付帯設備が大掛かりになる。
- ガスタービンと比較して
- 長所:運転音が静か。排気ガスがきれい
- 短所:パワーウエイトレシオが大きい。復水器が必要等付帯設備が大掛かりになる。
- 電動機と比較して
- 長所:
- 短所:
[編集] 蒸気の利用方法による分類
蒸気の利用方法による分類には、次のものがある。
- 復水タービン : 蒸気を液化するまで冷却して利用するもの。
- 背圧タービン : 蒸気を液体にならない範囲で圧力を利用して、運動エネルギーとするもの。圧力の低下した蒸気は他で利用される。
- 抽気タービン : 蒸気を他での利用に必要な量だけ、サイクルの途中から取り出すもの。復水・背圧の組み合わせともいえる。
- 再熱タービン : タービンで膨張する蒸気を取出し加熱するもの。熱効率が向上すると同時に低圧タービン蒸気の湿り度が低下するので翼のエロージョン対策としても有効である。
- 混圧タービン : 圧力の異なる蒸気が供給される蒸気タービン。地熱発電で熱水を減圧して蒸気を得るダブルフラッシュサイクルなどに用いられる。
[編集] 理論サイクル
蒸気タービンの理論サイクルには、次のものがある。
- ランキンサイクル : 復水タービンの基本となるサイクル。
- 再熱サイクル : 蒸気タービンで圧力の低下した蒸気を再び加熱して使用し、熱効率を上げるもの。
- 再生サイクル : サイクルの途中から抽気した蒸気で復水を加熱して、燃料消費量を抑えるもの。
- 再熱・再生サイクル : 再熱サイクル・再生サイクルを組み合わせたもの。
- カリーナサイクル : 非共沸混合媒体を利用した高効率サイクル。
[編集] 蒸気タービンの構造
現在の蒸気タービンは、軸方向に蒸気が流れる軸流タービンがほとんどであり、半径方向に蒸気が流れるタービンは、ユングストロームタービンがほとんど唯一のものである。
タービン翼
- 静翼 : 動翼へと向かう蒸気の流れを変え、効率よく動翼に蒸気があたるようにする。
- 動翼 : 動力軸と結合されている翼。
衝動式・反動式 蒸気タービンは蒸気のエネルギーの利用のしかたにより衝動式と反動式に分類され、構造にも特徴がある。
- 衝動式 : 静翼部分で蒸気の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換し、静翼から噴出する高速の蒸気に当たる衝動力によって動力が発生する。一段落当たりの熱落差を大きく取れるので段落数は少ないが、翼は大型で幅広となる。
- 反動式 : 動翼内でも蒸気の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換し、動翼から噴出する蒸気の反動力も利用して回転力が発生する。一段落当たりの熱落差が小さく段落数は多くなるが、翼は小型となる。
車室 蒸気タービンでは蒸気の圧力を有効利用するため、多くの段階の膨張を繰り返している。大型の蒸気タービンでは、圧力に応じていくつかの部分に分割されており、上流から順に高圧・中圧・低圧タービンと呼ばれる。また、蒸気体積が大きくなるため低圧タービンは複数台が並列に配置されることが多く、翼は、非常に長いものとなっている。
回転速度 回転速度を上げるとタービンや発電機が小型になり設備費を抑制できるため、火力発電用タービンの回転速度は通常、50Hzでは3000rpm、60Hzでは3600rpmである。しかし、原子力発電用タービンは蒸気が低温・低圧・大流量であるため動翼が長く、遠心力緩和のため50Hzでは1500rpm、60Hz機では1800rpmが採用されている。
[編集] タンデムコンパウンド・クロスコンパウンド
高・中・低圧タービンを1つの軸に配置するものをタンデムコンパウンドと呼ぶ。一方、高・中・低圧タービンをプライマリとセカンダリの2軸に振り分けて配置するものをクロスコンパウンドと呼ぶ。タンデムコンパウンドに比べクロスコンパウンドは、大出力化が容易であり熱効率も高くできるが、設備コストが高い、建屋の占有面積が大きい、各軸の単独運転が不可能、運用・点検・保守が複雑などの欠点がある。
クロスコンパウンドでは、高圧と低圧の半分をプライマリ軸とし、中圧と低圧の残り半分をセカンダリ軸とする方式と、高圧と中圧をプライマリ軸とし、低圧をセカンダリ軸とする方式がある。前者は低圧タービン及び発電機を2つの軸で同一設計にできる利点があるが、最近の大型火力ユニットのクロスコンパウンド機では、後者が採用されることが多い。これは、セコンダリ軸の回転速度をプライマリ軸の半分とすることで低圧最終段動翼の遠心力を緩和し、40インチ以上の長い動翼を採用して低圧タービンの最終段の排気損失を低減することが可能なためである。また、この構成であれば復水器もセコンダリ側のみで良く、前者の構成に比べ設備コストの面でも有利となる。
従来、大型火力ユニットはベースロード運用が多く熱効率が重視されていたことや、高速回転に伴う低圧タービン最終段動翼の遠心力の制約などにより、500MW~700MW以下はタンデムコンパウンド機、それより大型のユニットははクロスコンパウンド機とされていた。しかし、近年では原子力比率の拡大やピーク負荷の尖鋭化に伴い大型火力ユニットでも建設コストの低減や運用性向上が重視されるようになったため、軽量のチタン動翼による遠心力の緩和や材料強度の改善などにより中部電力碧南火力4号機(2001年)において国内の1000MW級火力ユニットでは初めてタンデムコンパウンド機が採用された。
[編集] 蒸気タービンの部分負荷運転方式
[編集] 定圧運転
定圧運転は、部分負荷でもボイラーの圧力を全負荷時と同じにして、加減弁を絞って蒸気の流量を変化させるものである。
[編集] 変圧運転
変圧運転は、部分負荷時に給水圧力を下げてボイラーの圧力を低下させ、加減弁は全開としたままで蒸気の流量を変化させるものである。
変圧運転の効率は、定圧運転と比較して向上する。
- 加減弁の絞り損失がなく、部分負荷時の蒸気温度の低下がない。
- 高圧タービンの調速機が不要となり、内部効率が向上する。
- 部分負荷時に給水ポンプの必要動力が少なくなる。
- 圧力低下によるサイクル効率の低下がある。(他での効率上昇の方が大きい)
また、次の特徴もある。
- 高圧タービンの部分負荷時の温度低下がないため、負荷変動への追随に対する制約が少ない。
- 低負荷時の蒸気温度低下が無いため、停止時のケーシング温度を高くでき、再起動の時間を短くできる。また、温度変化に伴う熱応力による寿命消費も軽減できる。
- 部分負荷時に圧力を下げるため、機器の寿命を長くできる。
- 低圧タービンに供給される蒸気の湿り度が低下するため、低圧タービン翼のエロージョンが緩和される。
[編集] 付帯設備
- 保安装置 : 火力発電用などのように高速で回転する蒸気タービンは、定格回転速度より低い回転速度に共振点があるので、起動停止時に共振点付近の通過時間を短くしなければならない。また、許容最高回転速度以上で回転させると破損し、甚大な被害をもたらす。そのため、蒸気タービンには過大な振動や回転速度の異常などが発生した場合、自動的に蒸気の供給を停止させる保安装置が備えられている。
[編集] 関連機器
[編集] 用途
[編集] 関連項目
- タービン
- 蒸気機関 : レシプロ式の蒸気機関
- ターボ・エレクトリック方式
- 蒸気船
- 艦本タービン
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