ヒッグス粒子
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ヒッグス場とは、1964年にエディンバラ大学のP.W.ヒッグスによって提唱された、素粒子の質量獲得に関する理論に現れる場のことである。ヒッグス場によって質量を獲得するメカニズムをヒッグス機構と呼ぶ。[1]
ヒッグス機構では、宇宙の初期の状態においては全ての素粒子は自由に動きまわることが出来たが、自発的対称性の破れが生じて真空に相転移が起こり、真空にヒッグス場の真空期待値が生じることによって素粒子がそれにあたって抵抗を受けることになったとする。これが素粒子の動きにくさ、すなわち質量となる。 もともと自発的な対称性の破れによる相転移という概念は物性物理学における超伝導状態を説明するために考え出された。そこではスピン1/2の電子がクーパー対を作りスピン1のボソンとして空間に凝縮(参照:ボース凝縮)しているのである。現在の宇宙の状態もこのように空間にヒッグス粒子が凝縮していると考えられる。
ヒッグス場が存在すれば、ウィークボゾンに質量があることを説明することが出来、しかもヒッグス機構によるWボソンとZボソンの質量比が実験結果と一致するため、素粒子の標準模型組み入れられ、その検証を目指した実験が行われてきている。
ヒッグス場を量子化して得られるのがヒッグス粒子(ヒッグス・ボゾン)であり、素粒子の標準模型の中で唯一未発見の粒子であり、その発見は高エネルギー加速器実験の最重要の目的のひとつとなっており、2007年冬より稼働予定のLHC加速器での発見が期待されている。
高次の対称性が破れ低次の対称性に移る際、ワイン底型ポテンシャルの底の円周方向を動くモードは軽いが、ワイン底を昇るモードには沢山のエネルギーが必要である。 前者が南部・ゴールドストンボソンと呼ばれ、それは W ボソンの一成分としてとりこまれる。 実験検証の望まれているヒッグス粒子はワイン底を昇るほうのモードに対応するものである。
[編集] 参考文献
- S.W.Weinberg, The quantum theory of fields Vol.2, pp.295-354, Cambridge University Press 1996
[編集] 注
- ^ 同じようなメカニズムは、1964年にブリュッセル大学のロペール・ブルーとフランソワ・エングレールも独自に提唱していた。その他にも同時期に同様のメカニズムを提唱した人物は多数存在する。
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- P.アトキンス, 斉藤隆央 訳, ガリレオの指 -現代科学を動かす10大理論-, pp.235-236, 早川書房 2004(原書: P.Atkins, Galileo's Finger -The Ten Great Idea of Science, Oxford University Press 2003)