倍数性
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倍数性(ばいすうせい、英語: ploidy または polyploidy)とは、生物あるいはその生活環の一時期において、生存に必要な最小限の染色体の1組(ゲノム)を何セット持つかを示す概念。
倍数体(ばいすうたい、英語: polyploid)とは、倍数性に基づいて表現した生物の分け方。 一倍体(半数体 )、二倍体、三倍体など。
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[編集] 用語としての「ゲノム」と倍数性の関連
ゲノムの最初の定義は「配偶子がもつ1組の染色体」であったが、その後定義が変更され、使われる分野も広がった。倍数性の説明に用いる「ゲノム」は、現在の「生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」という定義から外れるものではないが、最初の定義に近く、「生存に必要な最小限の1組の染色体」ことを指す。生物のゲノム構成を記号で示すときは、二倍体であればAAやBBのように、四倍体であればAAAAやAABBのようにあわらす。
[編集] 倍数性
倍数性とは、ゲノムを何セット持つかを示す概念である。
ゲノム1セットに相当する染色体数を n、倍数性を n, 2n , 3n ...のように示し、それぞれ一倍性(単相・半数性:monoploidy, haploidy)、二倍性(複相:diploidy)、三倍性(triploidy)...と呼ぶ。 それらの倍数性の生物(倍数体)は、一倍体(半数体)、二倍体、三倍体という。 また、一倍体ゲノムのDNA量はC値と定義される。
英語では二倍体以上の倍数性を示すpolyploidy(倍数性・多倍性)も同時に使われる用語である。
[編集] 倍数体
倍数体(ばいすうたい)とは、倍数性に基づいた生物の区分。
有性生殖をする動物の多くは、両親から配偶子を通してそれぞれ1セットのゲノム受け取り、計2セットのゲノムを持つ二倍体(ヒト, 2n=46など)である。 一方、植物には様々な倍数体が存在している。それらは、農業で役に立つ特性を持つことがあり、作物の品種・種として成立している。
植物の倍数体は、同質倍数体と異質倍数体とに分けられる。 1種類のゲノムを複数持つ場合を同質倍数体といい、2種類以上のゲノムで構成されている場合を異質倍数体という。 動物の場合は原則として異質倍数体はないが、生殖能力がない種間雑種(レオポンやラバ)は異質二倍体と考えることもできる。
[編集] 同質倍数体
同質倍数体(autopolyploid)とは、同じ種類のゲノムを複数持つ倍数体。しばしば、「同質」を省略して表記される。
三倍体や四倍体では細胞・器官・植物体全体が大きくなる傾向があり、農作物の遺伝的改良(育種)に利用されている。倍数体は種子ができにくいこと(不稔・部分不稔)もあるが、逆に三倍体の不稔を利用して「種無し」の品種を作ることにも利用されている。人工的に倍数性を増加(倍加)させるには、コルヒチンなどの薬剤を使う。 また、倍加に伴って環境適応性が向上することがある。この現象は、高緯度地帯に倍数性が高い植物が多いことの一因と推定されている。
以下、同質倍数体の例を挙げるが、通常は同質倍数体に含めない一倍体も、便宜上、併せて取り扱う。
- 一倍体(半数体)
- 二倍体の配偶子の状態。植物では、花粉培養などで半数性の個体を作り、遺伝的に固定する技術がある。動物の例としては、蜂や蟻など膜翅目昆虫では、雄は半数体である。
- 同質三倍体
- 栄養繁殖性の植物では、三倍体であることがそれほど珍しくない。園芸植物などでも見られ、作物としてはバナナやフキ(蕗)の栽培品種などがある。人工的に作った三倍体の例は、四倍体と二倍体を掛け合わせて作った「種なしスイカ」の例がある。また、魚類でも、三倍体を作成し、大型化した魚を養殖することが試みられている。
- 同質四倍体
- 同質四倍体の代表例にジャガイモがある。
[編集] 異質倍数体
異質倍数体(allopolyploid)とは、2種類以上のゲノムで構成されている倍数体。異なるゲノムを持つ植物間の雑種に由来すると考えられている。各ゲノムが2セットずつである場合、減数分裂の際に各ゲノムの染色体が娘細胞に均等に分配されるため、生殖能力は正常である。
染色体数を倍数性を明らかにして示すときは、例えば6セットのゲノムからなる場合、2n=6x=42のように書く。
特殊な呼び方として、2種類のゲノムを持つ異質四倍体(2n=4x)を複二倍体(amphidiploid)という。人工的に複二倍体を作った例としては、ハクラン(ゲノム構成AACC:ハクサイ+キャベツ)などがある。
- 異質倍数体の例
[編集] 単複相性
単複相性(haplodiploidy)とは、一つの生物種の生活環に単相(半数体)と複相(二倍体)があること。
植物の例の解説は、生活環#規則的な生活環「単複世代交代型」を参照のこと。 動物の例としては、受精卵(二倍体)が雌となり、未受精卵(半数体)が雄となる膜翅目昆虫(蜂・蟻)がある。