分散系
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分散系(ぶんさんけい)とは、0.001~1マイクロメートル(10-9m~10-6m)程度の粒子が、気体、液体あるいは固体に浮遊あるいは懸濁している物質である。このように浮遊あるいは懸濁している状態を分散(disperse)と呼ぶ。また溶液の分散系は歴史的経緯によりコロイドとも呼ばれる。
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[編集] 分類
分散系では、分散している粒子を分散質(dispersoid)、粒子が分散している媒質を分散媒(disperse medium)と呼ぶ。分散系の成分は二つとは限らないので、一般には分散系において最も量の多い構成要素が分散媒と考えてよく、連続相の状態を取る。
分散系は分散質と分散媒の組み合わせで次のように区分され、次のような名称で呼ばれる。
分散する相(分散質) | ||||
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分散される相(分散媒) | 気体 | 存在しない: 気体同士は常に自由に混和する |
リキッドエアロゾル, 例: 霧, もや |
ソリッドエアロゾル, 例: 煙, ほこり |
液体 | フォーム, 例: ホイップクリーム |
ゾル 例: 塗料、インキ
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固体 | ソリッドフォーム, 例: 発泡スチロール |
ソリッドゾル, 例: オパール・ルビーガラス |
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一般に、分散質が液体ないしは固体の場合、分散媒により
- エアロゾル - 分散媒が気体
- ゾル - 分散媒が液体
- ソリッドゾル - 分散媒が固体
に分類される。
また物質構造の分類で、分散系に由来するものとして次のものがある。
- フォーム - 分散質が気体のもの
- エマルジョン - 分散質、分散媒ともに液体のもの、乳濁液とも言う。
- サスペンジョン - 分散質が固体、分散媒が液体のもの、懸濁液とも言う。
分散系溶液はコロイドとして知られていたのでコロイドエアロゾル(colloidal aerosols)、 コロイドエマルジョン(colloidal emulsions)コロイドフォーム (colloidal foams), あるいはコロイド懸濁体(colloidal suspensions)や コロイド分散体(colloidal dispersions)とも呼ばれる。
[編集] 性質
分散系は多様な物性を示す。例えば、分散系の粒子径は可視光の波長に相当するため光を散乱するために色々な光学的性質を示す。即ち、分散系のレイリー散乱・ミー散乱は朝もや、牛乳の濁りやオパールの光沢として表れる。
また、分散系溶液(コロイド溶液、ゾル)の粘性はその分散系の構成により多様な性質を示す。例えば多くのゾルは構造粘性と呼ばれるずれ応力に対して見かけの粘性度が低下する性質を示したり、逆にゲルと呼ばれるような流動性を失い固体様の性質を示したりする。
[編集] チンダル現象
チンダル現象(―げんしょう)は分散系に光を通したときに、光の入射方向より斜めより見ると光の通路が見える現象で、主に光がレーリー散乱により一様に散乱されて生じる。ジョン・チンダルによって発見されたためこの名がある。レーリー散乱の強度は粒子径の4乗に逆比例するので、色がついて見える場合がある。この色は粒子径によって決まるので粒子の種類を反映しない。
[編集] 凝析・塩析
凝析(ぎょうせき、英:Coagulation)は、分散質粒子同士が吸着集合して沈降する現象であり、イオン性物質(塩)により引き起こされる凝析は塩析(えんせき、salting‐out)と呼ばれる。
一般に分散質粒子の表面は電荷が存在しており、同種の粒子には同種の電荷が存在する為に粒子質量が小さい場合は、分子間力よりも表面電荷の斥力が大となる為、粒子の凝集が妨げられ分散系は安定化する。また、親水コロイドの場合疎水コロイド同様に表面電荷を持つとともに水和により多数の水分子が配位している為にさらに安定化している。保護コロイドのように表面電荷にたんぱく質等が吸着してたんぱく質の表面電荷によりさらに安定化している場合もある。
分散系にイオン性物質を加えると、表面電荷にイオンが吸着することで表面電荷が中和されるので、分子間力による凝集作用を増強する。親水コロイドや保護コロイドは保護層を形成している水和している水やたんぱく質などに塩やエタノールが吸着して分散質表面から引き剥がしてから表面電荷が中和されるので、より大量の凝析・塩析物質を添加する必要がある。
各種ゾルに対するイオンの凝結能力(臨界ミセル濃度の逆数)で測定すると、
- 陰イオンについては
- クエン酸塩 > 酒石酸塩 > 硫酸塩 > 酢酸塩 > 塩化物(Cl-) > 硝酸塩 > 塩素酸塩
- 陽イオンについてはあまり明確ではないが
- Li+ > Na+ > K+
の順に凝結能力が高い。この性質は1888年に発見したF.ホフマイスターにちなんで、ホフマイスター系列(-けいれつ、Hofmeister's series)と呼ばれる。
タンパク質は表面電荷(イオン性の側鎖)の量と分布とによって沈殿が起こるイオン濃度が異なるため、塩析はタンパク質の分離・粗精製の手段として用いられる。
つぎに凝析・塩析の例を示す。
- ポリビニルアルコールに硼砂を入れてスライムを作る
- パスタを茹でるときに食塩を加えて、表面のタンパク質を凝固させて、ツルツル感を与える。
- 油脂を鹸化して石鹸を作るとき、最後に多量の食塩を加えて石鹸を沈殿させる
- 河口付近の三角州は海に含まれる大量のイオンに泥などのコロイドが凝析して沈殿を起こすために生まれる。
[編集] ゲル
他の言語へのリンク
ゲル(gel)とは流動性を失った分散系溶液(ゾル)で、分散質同士の分子間力で構造を形成する為に分散系全体が異常粘性を示し流動性を失う。分散質間の結合は弱く、且つ一時的なものなので温度変化や応力などにより容易にゾル状態に変わり流動性を復元する。
次に代表的なゲルを示す。
- ゼリー
- 豆腐 - 大豆タンパク質のゲル
- コンニャク - マンナン(D-マンノースを成分とする多糖)のゲル
- シリカゲル - 水ガラス(ケイ酸ナトリウム)のゲルを脱水乾燥させたもの
- ナパーム - ガソリンと界面活性剤から構成されるゲル
特に水分を失って空隙を多く含むものをキセロゲル(xerogel)、分散媒が水のものをヒドロゲル(hydrogel)、分散媒が有機溶媒のものをオルガノゲル(organogel)と呼ぶ。
[編集] チキソトロピー
チキソトロピー(thixotropy)は、分散系溶液の状態が応力に対してゾルとゲルとの間で入れ替わることで表れる現象でゲル化しやすい分散系溶液に見られる現象である。応力の無い状態においてはゲルの状態にあり流動性を示さない。しかし、外力が加わるとゲル構造の分子間力の一部あるいは全部が破壊される為、ゾル状態となるため流動性を復元する。また、外力が作用しなくなると再びゲル構造が再生される為に再び流動性を失う。
[編集] 関連項目
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