医療保険
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医療保険(いりょうほけん)とは、医療機関の受診により発生した医療費について、その一部又は全部を保険者が給付する仕組みの保険である。
[編集] 概要
巨額の医療費の発生による貧困の予防や生活の安定などを目的としている。長期の入院や先端技術による治療などに伴う巨額の医療費が、被保険者の直接負担となることを避けるために、被保険者の負担額の上限が定められたり、逆に保険金の支給額が膨らむことで保険者の財源が圧迫されることを防ぐため、被保険者の自己負担割合や自己負担金が定められていたり、予め保障範囲が制限されていたりすることが多い。 医療保険は、多くの国で公的医療保険と民間医療保険の組み合わせにより構成されている。
公的医療保険は予め被保険者の範囲が行政によって定められている医療保障制度である。日本では、被用者だけでなく自営業者なども加入できる国民健康保険制度が全国的に整備されており、いわゆる「国民皆保険」とよばれる制度が構築されている。アメリカ合衆国やヨーロッパの多くの先進国でも公的な医療保険制度を用意しているが、対象者の範囲や財源方式については国により異なる。例えばアメリカ合衆国においては、高齢者を対象としたメディケアや低所得者を主に対象としたメディケイドなどの公的医療保障制度があり、前者は連邦政府予算と自己負担金、後者は連邦政府からの補助金と州財源により運営されている。また、イギリスでは税金を財源とした国民保健サービス(NHS)と呼ばれる公的医療保障制度を国が運営している。
これに対して、民間医療保険は、一般に任意加入であり、契約者の財産や所得に応じて、複数の保険会社が用意するメニューからプランを選ぶことが可能である。民間医療保険の仕組みや医療保障制度における役割は、国ごとに大きく異なる。日本では公的保障の補助的役割を果たしており、任意加入である。アメリカ合衆国ではマネジド・ケアという民間医療保険が一般的である。マネジド・ケアは大きく分けてHMO、POS、PPOの三種類がある。多くの州では任意加入であるが、マサチューセッツ州では、何らかの医療保険への加入が義務付けられている。
なお、民間医療保険については、任意加入であることから、自己の健康状態に不安がある人ほど保険加入のインセンティブを持つため、いわゆる逆選択により健康状態の不良な被保険者群団が形成されるおそれがある。特に手術給付金など、加入者が受診を選択できる保障でこの傾向が強い。また、保険金詐欺を目的に保険加入するといったモラルリスクの問題もある。
[編集] 日本における医療保険の状況
公的医療保険については、国民健康保険制度が全国的に整備されている。
(日本の公的医療保障制度についての詳細は国民健康保険制度を参照)
民間医療保険は、公的医療保険の補助的な役割を果たしている。すなわち、長期の入院や急な手術に伴って発生する医療費は多額になることが多く、公的医療保険による保障のみでは患者の負担がおおきくなるため、予め民間医療保険に加入して多額の出費に備えることを目的としている。このため、病気の診断結果、傷害の程度、手術の種類、通院や入院の日数などに応じで予め定められた給付額が支払われるというプランが多い。例えば日額5,000円の医療保険の場合、対象となる入院日数に応じて、5,000円×日数分だけ保険金が支払われる。なお、プランによっては入院初期は給付の対象とならないこともある。
民間医療保険は民間の生命保険会社や損害保険会社により運営されている。国からの直接の助成はないが、支払った保険料は一定の条件のもとで、所得税計算上の控除額(生命保険料控除)の対象となる。
従来、民間医療保険は「第三分野保険」と呼ばれ、外資系保険会社が独占的に販売してきた。これは、国内の生命保険会社は人の生死を保障の対象とする「第一分野保険」を扱い、国内の損害保険会社は損害の実損填補を行う「第二分野保険」を扱い、外資系保険会社がその他の保険を扱うという棲み分けができていたためである。このため、単体の医療保険やがん保険は外資系保険会社が販売し、国内の保険会社は生命保険などに付随する特約という形で医療保障を提供してきた。しかし、近年の保険業界の自由化や規制緩和に伴い、この構図は崩れてきている。2001年7月からはすべての保険会社に第三分野保険の販売が解禁された。
この第三分野保険の解禁によって、新たな収入源を求めていた各損害保険会社は一斉に医療保険を販売しだしたが、2006年11月には多数の損害保険会社で、医療保険を中心とした第三分野保険において保険金の不当不払いが大量に行われていたことが明るみになった。(詳細は第三分野保険#第三分野保険における不当な不払いを参照)