原典版
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原典版(げんてんばん、ドイツ語:Urtext Edition)とは、可能な限り忠実に作曲家の意図を再現することを目的とした、楽譜の版のことである。
なお、ドイツ語の接頭辞"ur-"は「オリジナル」を意味する。ドイツ語の慣習に従い、英語圏でも"Urtext"と語頭を大文字に書くことがある。
目次 |
[編集] 原典版の作成
原典版は、作曲家自身が書いた自筆譜や作曲家の弟子や助手が作成したコピー、出版譜の初版、その他初期の版を元に作成される。初版は誤植を含むことが多く、初版の出版後に作曲家自身が手書きで修正のチェックを入れることがあるが、そのようなものが最も重要な史料になる。ただ、史料が少ない場合や、訂正が為されていない場合、いくつもの版で内容が大きく食い違う場合などは、原典版の作成は困難になる。ベートーヴェンのように悪筆の作曲家の作品や、大規模に改訂が為された作品も同様に原典版の作成に困難が生じる。
最も基本的な問題点は、解釈の多様性が存在することである。もしも編者の解釈が狭ければ、演奏家が演奏する際の自由を不当に限定する結果となってしまうだろう。しかし一方で、あまりに特異であったり信憑性のない解釈までをも守備範囲にしてしまうことも、同様に演奏家に悪影響をもたらすだろう。
編者にとって最も危ない仕事は、誤植を訂正することである。興味深いほどに奇抜で、あるいは霊感を受けた結果として書かれたような音符が、「誤植」としておせっかいな編者によって削除されてしまう危険がある。これは決して机上の空論ではなく現実にしばしば見られる現象である。したがって、賢明な編者は脚注に音符の変更の報告を載せている。
チェリストのDimitry Markevitchが言うように、「理想的な原典版は存在せず、誠実さがゴール」なのである。
[編集] 版の種類
原典版はファクシミリ版とは異なる。ファクシミリ版は、初期の版をそのまま印刷機にかけてコピーしたものであるのに対し、原典版では内容が学術的に吟味され、それを元に新たに版を起こしている。さらに、原典版はファクシミリ版よりも読みやすくなっている。すなわち、ファクシミリ版は研究者によって参照される史料であり、原典版とはその研究の成果を一般の演奏家向けにまとめたものといえる。
原典版は解釈版とも異なる。解釈版とは、編者の個人的な解釈が記された版である。ディナーミクや発想記号が追加/削除されており、作曲家が意図したものを再現しているわけではない。極端な例では、作曲家が書いた音符が変更されていたり、1ページまるごと変更されていることもある。19世紀から20世紀の初期にかけて、著名な演奏家は多くの解釈版を発表しており、ハロルド・バウアー、アルトゥール・シュナーベル、イグナツィ・パデレフスキらのものが知られている。現在、教師達が解釈版を生徒に薦めることは滅多になく、原典版が好まれている。しかしながら、レコード以前の時代では、先鋭の演奏家の演奏に触れるために解釈版が利用されることもあった。現代でもこの目的で利用されている場合がある。
原典版と解釈版の折衷として、両者の音符を両方掲載している楽譜も存在する。そのような楽譜では、音符の大きさを変更することや、グレーで表示することによって両者が明確に区別できるようになっている。そのような折衷版は特に初期音楽の分野で目立って見られる。というのも、古い記譜法のために解釈上の困難が生じることが多いからである。
[編集] 原典版の価値
「原典(Urtext)」という語は、過剰な表現として批判されることがある。作曲家の意図を正確に再現したところで、それは変化しうるものであり、さらにそれが全てではないからである。そもそも、「作曲家の意図」なるものが明確に定義できるのかどうかすら疑わしい。
しかしながら、クラシック音楽の演奏家は頻繁に「原典」という語を使う。というのも、演奏家によって「原典版」が高く評価されているからである。作曲家の意図を知るのは良い演奏のための出発点でしかなく、そこから独立した思考や練習が必要と考えるのは自然であろう。現代の多くの音楽家はこの過程において、最も信頼に値する版を選ぶだろう。
[編集] 原典版の出版社
- ベーレンライター出版社
- ヘンレ社
- ペータース社
- ショット社/ウニフェルザル出版社 - ウィーン原典版
[編集] 参考文献
- ニューグローヴ音楽辞典の"Urtext" and "Editing"の項