同一性
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同一性(どういつせい)(英:identity)とは、あるものが他のものと等しくある性質をいう。差異性の対語。
特に自己同一性(self-identity)というとき、あるものがそれ自身(self、ギリシア語のautosに由来)と等しくある性質をいう。
同一性は哲学上重要な概念のひとつであり、同一性によって、あるものは存在ないし定在として把握される、あるいは定立される。
[編集] 同一性の諸相
哲学では、本質(ほんしつ)(希 ουσια (ousia), 羅 substantia / essentia)とは、あるものがそのものであると云いうるために最低限持たなければいけない性質、もしくはあるべきものをいう。伝統的には、「それは何であるか」という問いに対する答えとして与えられるもの。これに対し本質の対語である実存(existentia)とは、外に立ち出たものex-sistereの意であり、現実に存在することをいう。プラトンのイデア説では、感覚的事物(~であるもの)に対しては範型たるイデア(~そのもの)が実在するとされる。アリストテレスでは、「魂とは可能的に生命をもつ自然物体(肉体)の形相であらねばならぬ」と語られる。ここで肉体は質料にあたり、魂は形相にあたる。なにものかでありうる質料は、形相による制約を受けてそのものとなる。また質料と結びついてのみ形相が存在するとされる。カントにおいては「私は思惟する」という自覚の同一性は実在的同一性ではないとされる。いわゆる実存主義では、実存が現在の瞬間における決意において自己自身に開かれること・自己自身に再びかえり・自己自身を繰り返して取り戻すことは反復と呼ばれる。関連する思考実験として「スワンプマン」という話がある。これは沼で雷に打たれて男が死に、同時に別の雷によって死んだ男の原子レベルコピーがドロから出来上がる、という話である。関連する哲学的ゾンビは、内面的な経験を欠く他は、観測できる一切の物理的状態に関して普通の人間と区別できないゾンビを意味する。同一性に対する差異に関連した語に「違い」と「遅れ」を兼ね備えた差延(デリダの造語)がある。
仏教では、同一性が否定される無常、および同一性を担う自己自身が否定される無我が説かれる。
言語学では、修辞技法としてのメタファー metaphorは、同一性よりはむしろ類似性similarityをあらわす潜在的な直喩 simileと解される。たとえば「彼はライオンである」というようなメタファー(A is B)であれば「彼はライオンのようである」という潜在的な直喩(A is like B)と解される。
論理学では、同一律において「AはAである」とする。また同値性のあるとき「AはB」でありかつ「BはA」であり「A=B」である。とくに集合の同値性では内包が異なっても外延は同一となる。尚「AはBである」という場合、「要素Aは集合Bに属する」と「集合Aは集合Bに含まれる」が区別される。
物理学では、時空連続体においては、過去・現在・未来がすでに同時に存在していると解釈される。
心理学や精神医学では人格の連続性、すなわち時や場所によらずに自分は自分であると確信できる連続した自我状態は、自我同一性(ego identity)といわれる。ヤスパースは、私がするという能動性、私は一人であるという単一性、私は時間が流れても私であるという同一性、外界と他人に対する自我の意識(自他の区別)という自我の四つの特性をあげている。通常は1つの身体につき1つの同一性が矛盾しない状態で存在するが、これが損なわれる精神疾患に性同一性障害(身体の性と同一性が矛盾する疾患)や解離性同一性障害(1つの身体に複数の同一性が存在する疾患)などがある。このような障害においては、本人が喪失した記憶を有する別人格が登場する。
著作権法では、著作者人格権の一種である同一性保持権(どういつせいほじけん)とは、著作物及びその題号につき著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利のことをいう(日本の著作権法20条1項前段)。
経済学では、交換経済においては、貨幣は将来の財・サービスと交換可能な点、記号ないし代理としての同一性を有する。ただし、交換価値が何らかの方法で保証される必要がある。
工学では、互換性を満たす部品は、機能の点で同一性を保証され、置き換え可能である。そのためには、あらかじめ標準としての規格を定めておくことが必要である。
生物学では、生物の単位としての個体は、物質を分解して得たエネルギーで合成を行う異化および同化(代謝)において恒常性を維持し、エントロピーを外部に排出する定常開放系として、まとまった一個体としての活動を行う。自然界での具体的な生物は、個体としてその姿を現す。また生命の特徴の一つに自己複製がある。自己複製に関連した語には、自己言及性をもち無限の自己複製を可能とするオートポイエーシス、自己複製(生殖)の単位を遺伝子として捉えた利己的遺伝子および単位を情報として捉えたミームがある。
[編集] 関連項目
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