国家の承認
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国家の承認(こっかのしょうにん)とは、新しく成立した国家を正式に主権国家であると認めることを指す。ただし、国家の成立の方法や、承認の条件などについて、学説対立がある。
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[編集] 概説
分離独立や国家の分裂などにより、新しい国が誕生した際に、その国を主権国家としての法的な権利を認めることの表明を行う場合がある。その表明が国家の承認である。承認の方法には、広報的な表明である明示的な承認や、国際機構への加盟を認める黙示的な承認、の二種類がある。国家の承認の要件には実効性の要件としての「国家の三要素」(領域・住民・実効的支配)が慣習国際法の観点から考えられている。
[編集] 政治性
国家の承認は実際には、承認する側の政治的な判断が大きく関わる。そのため、国家の承認には政治的な背景が如実にあらわれることも多い。そのため、国家の要件を満たすにも拘らず、多数の国家から承認を得られていない国家も存在する。その例として、中華民国(台湾)が挙げられる。中華民国は主権国家として国家承認されることは、同国を領有すると主張する中華人民共和国の政治的な立場と直接的に対立姿勢を示すことになる。同じような例として西サハラなどがある。
[編集] 国家承認と政府承認
国家に関わる承認は、3つの異なる様相があるとされる。ひとつは同じ地域に先行する国家がない場合で「国家承認」と呼ばれる。もうひとつは同じ地域に先行する別国家があった場合で「政府承認」と呼ばれる。また、内戦などで事態が確定しない間、暫定的に行われる「交戦団体承認」もある。
ここでいう「政府」とは中央政府(連邦制国家における連邦政府も含む)。また、三権分立などにより中央政府の権限が複数の機関に分かれている場合も、全てまとめて1つの政府と見做す。なぜなら、いずれの機関も1つの憲法秩序に基づいて運営されているからである。したがって、1つの国家には、1つの中央政府しか存在しえない。
なお、1つの国家に二つの政府が出現し、両者の実行支配地域が長期にわたって固定された事例としたは台湾問題がある。その場合、各国はいずれかの政府を承認するか、もしくは、もう一方を新国家として承認するかの選択を迫られる。
[編集] 国家承認
- 新たな国家が成立した場合に、その国家を国際法上の主体的存在としての国家であることを認めることを国家承認(こっかしょうにん)という。具体的には、無政府地帯の新規政府樹立や、既存国家の一部地域の分離独立などの場合を意味する。
[編集] 政府承認
- それまで国家を統治してきた政府が、革命・クーデター・内戦などによって崩壊した後、異なる勢力が当該国家を代表する政府を名乗った場合、それを認めることを政府承認(せいふしょうにん)という。選挙による政権交代など、正当な国内手続きを踏んだ新政府の成立の場合、こうした承認の必要はない。
- また同じ地域に先行する国家があった場合に、新国家を承認するケースも、政府承認にあたる。つまり、新国家は先行の国家を継承することがもとめられ、実質的に政府が交代したと看做されるからである。仮に新国家が先行国家が締結した条約等の継承を拒否した場合は、第三国との係争が生じ、承認が得られにくくなる。ソビエト連邦のように旧国家が複数に分裂した場合は、通常一カ国のみ(ソ連の場合はロシア)が先行国家を継承する。ただし、債務などの経済財政事項は、先行国家を構成していた当事国間で協議のうえ決定されることもある。
[編集] 交戦団体承認
- 反乱や内乱が持続した場合、反乱団体にも本来の正統な政府と同等の交戦当事者として資格が与えられる。そうしなければ、戦闘中における(戦前の)戦時国際法(ハーグ陸戦条約など)の遵守や和平交渉が期待できないからである。当然、交戦団体承認を行った国家も、その内戦に関して国家間の戦争と同等の義務を負うことになる。
- ただし、戦後の国際人道法(ジュネーヴ条約など)は承認の有無に関わらず、いかなる交戦団体も国際人道法の遵守を求めている。
[編集] 国家の要件
国家として承認するかどうかを考える上で、「国家の要件(必要な条件)」が前提となる。国家の要件だけではなく、さまざまな他の条件も加味して、各国家が他国家を承認するかどうかが決定されるが、「国家の要件を満たしているかどうか」が大きな要素であることは間違いない。
[編集] 国家の要件として掲げられるいくつかの事項
国家として承認するかどうかの判断をするには、その対象が「国家としての要件」を満たしていることが前提となる。ゲオルク・イェリネックの説が、最低限の「国家としての要件」として事実上の国際習慣法と化している。具体的には、以下の3条件である。
- ある程度以上確定された一定の領土を持つこと。
- 国民が存在すること。
- 統治機構を持ち実効的支配をしていること。
また、モンテビデオ条約は、これら以外に「諸外国との関係に参加する能力」(外交当事者能力)を追加している。
[編集] 国家の要件の意義
国家として認められるに足りる「国家の要件」については、さまざまな学説がある。しかし一般には、厳密に「新国家が国家としての要件を満たしているかどうか」という判断に基づいて機械的に国家の承認が行われたり行われなかったりするわけではなく、承認する側の国家の内政的事情によって承認が行われるかどうかが決められることが多い。基本的な「国家の要件」について考えることは重要だが、それが現実世界で特定の国家を承認するかしないかを決定するものではないことに注意が必要である。
[編集] 国家の要件と国家承認に関して
国家の要件に関していくつか付帯的な考え方がある。列挙する。
- 尚早の承認
- 国家の基本的3要件を満たす前に国家承認が行われることがあり、これを「尚早の承認」と呼ぶ。典型的には、植民地の分離独立などに際して、独立する側と旧宗主国側に争いがある場合、旧宗主国と対立する別の国家が独立する側を早々と承認するといったケースがあげられる。たいていの場合、旧宗主国側からは「内政干渉」といった外交的非難が浴びせられる。
- 逆に「国家の要件をすでに満たしている国を承認しない」ということは、国際社会では普通に行われている。なんらかの否定的ないし敵対的な意思表示と受け止められることもあるが、多数の事例があることから「尚早の承認」ほどには問題視はされない。
- 国家要件の追加的条件
- 国家の要件として、特に「政府承認」について、前述3要件に加え「民主的政治体制の採用」「国際法遵守の意思」などを追加する学説もある。ただし、それらは特定の価値観を押し付けるものであるとして強く否定し、政府承認は国家の基本的3要件のみを基準として判断される外交関係の存在確認にすぎないとする考え方もある(エストラーダ主義)。とはいえ、承認が外交関係の存在確認にすぎないと主張しても、ある特定の国家を承認している国と承認していない国との間である程度の対立が生じる可能性は否定できるものではない。
[編集] 国家承認・政府承認の方法
国家承認・政府承認には、2種類の方法がある。いずれも先行して国際法上の主体として認められている国家からのアクションを要する。
- 明示的承認:先行して存在する国家から新しい国家に対して「宣言」「通告」などによって明示的に承認が宣言される場合。
- 黙示的承認:外交使節の派遣や受け入れ、条約の締結など、相手を国家として認めていることが前提の行為がなされることによって、反射的に承認がなされたとみなされる場合。
なお、慣習的に「事実上の承認(撤回が許される)」と「確定的な承認(原則として撤回が許されない)」という2つの区分が可能であるとする説もある。
[編集] 効果
国家承認・政府承認は、いずれも個別的なものである。つまり、どこかの国が特定の国を国家として承認したとしても、それが他の国が特定の国を国家として承認するかどうかについては影響を与えない。ただし、「多くの確立された国が承認している」ということをもって「国家として認められている」と受け止めることは可能であり、そういう意味で国家や国際関係というものは「閉鎖的なサロン」のような構造を持っているということは言える。
この観点からは、「確認(宣言)的効果説」と「創設的効果説」が対立している。
- 確認(宣言)的効果説(Declarative theory of statehood)
- 創設的効果説(Constitutive theory of statehood)