国際コミュニケーション英語能力テスト
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国際コミュニケーション英語能力テスト(こくさいコミュニケーション えいごのうりょくテスト、Test of English for International Communication、通称「TOEIC(トーイック)」)は、米国に本部を置く教育試験サービス(Educational Testing Service; ETS)という団体が問題を作成し、日本では財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会(The Institute for International Business Communication)が主催する、英語を母語としない者のための英語の技能試験である。
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[編集] 歴史
日本の経団連と通商産業省(通産省; 現在の経済産業省)の要請を受けて、米国の教育試験サービス(Educational Testing Service; ETS)が、自らのTest of English as a Foreign Language (TOEFL)に基づいて開発した。試験の原案を考案したのは日本人のチームであると言われ、1979年10月4日付の朝日新聞夕刊[1]は、日本人チームで中心的な役割を果たした北岡靖男のインタビュー記事を掲載している。
[編集] 概要
受験者は聞き取り(Listening)100問と読解(Reading)100問の2部構成、計200問の試験を受け、各部門の合計点がスコアとして認定される。スコアは、素点による絶対評価ではなく、全受験生との相対的な成績によって算出され、10~990点の間(各部門 5~495点ずつ)で5点刻みで評価される。受験者数が非常に多いことから、スコアによる序列への信頼性が高い。受験方法には、個人で受験する「公開テスト(Secure Program Test; SP Test)」と、企業や学校内で随時実施する「IPテスト(Institutional Program; 団体特別受験制度)」の2つの方法がある。
60カ国で実施されていて、毎年延べ450万人[1]が受験する国際的な試験であるが、受験者の大半は日本人(150万人)と韓国人で占められている。そのためか現時点では日韓の2国と一部のアジア諸国以外では重要視する国も少なく、先行するTOEFLほどには国際的な評価も知名度もない。しかしフランスのエリート養成校であるグランゼコールの中にはTOEICで750点以上のスコアを取ることを卒業要件として課すところも現れ、TOEICの影響力がヨーロッパにも徐々に浸透しつつある。
設問内容は主に海外や日本の外資系企業のビジネス現場を想定している。語彙や語法に関する設問には日常生活に不必要なものも含まれ、英語の母語話者でも満点を取ることは難しい。一度取得すれば終身有効の検定資格ではなく、受験の時点における実力確認の試験なので合否判定はない。
企業のグローバル化に伴い、TOEICスコアが企業の採用や人事評価において用いられるようになっている。
[編集] リニューアル
「国際コミュニケーション」と銘打っておきながら聴き取りテストに北米の発音しか聞こえないのはおかしいという批判があったが、現在では改善が見られる。日本では第122回公開テスト(2006年5月実施)を皮切りに問題のリニューアルが行われた。主な変更点として以下が挙げられる。
- 問題文の長文化。
- 聴き取りテストでは米国発音やカナダ発音に加えて英国発音とオーストラリア・ニュージーランド発音が採用され、それぞれ25%の割合で聞こえてくる。但し、指示を出す声は常に米国発音である。
- 第1部の写真描出問題の数を削減。
- 第6部の誤文訂正問題を廃止、代わって長文穴埋め問題を導入。
- 第7部の読解で単一文書のみならず、e-mailのやりとりに代表されるような、読解すべき文書が2つのもの(double passage)を導入。
新旧両方のTOEIC受験経験者を対象に、(財)国際ビジネスコミュニケーション協会TOEIC運営委員会が行なったアンケート結果[2]によれば、56.8%がリニューアル後のTOEICは難しくなったと感じている。この傾向は下位層ほど顕著であり、10~395点の受験者では実に85.6%、400~495点の受験者では69.9%、500~595点の受験者では59.3%が「難しくなった」と回答している。ちなみに600~695点の受験者では58.9%、700~795点の受験者では48.6%で、800~895点の受験者では47.9%で、900~990点の受験者では39.8%が「難しくなった」と回答した。
なお、IPテストについては2007年4月以降新構成に移行予定。
[編集] 評価
スコアの10~990点に応じて、コミュニケーション能力のレベル(Proficiency Scale)がA, B, C, D, Eの5段階で評価される。また、スコア分布も公開され、受験者中のおおよその順位を知ることもできる。TOEICスコアとコミュニケーション能力レベルとの相関表は以下のとおりである。[3]
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レベル TOEICスコア 評価 ガイドライン A 860点~ Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる。 自己の経験の範囲内では、専門外の分野の話題に対しても十分な理解とふさわしい表現ができる。Native Speakerの域には一歩隔たりがあるとはいえ、語彙・文法・構文のいずれをも正確に把握し、流暢に駆使する力を持っている。 B 730点~855点 どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている。 通常会話は完全に理解でき、応答もはやい。話題が特定分野にわたっても、対応できる力を持っている。業務上も大きな支障はない。正確さと流暢さに個人差があり、文法・構文上の誤りが見受けられる場合もあるが、意思疎通を妨げるほどではない。 C 470点~725点 日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる。 通常会話であれば、要点を理解し、応答にも支障はない。複雑な場面における的確な対応や意思疎通になると、巧拙の差が見られる。基本的な文法・構文は身についており、表現力の不足はあっても、ともかく自己の意思を伝える語彙を備えている。 D 220点~465点 通常会話で最低限のコミュニケーションができる。 ゆっくり話してもらうか、繰り返しや言い換えをしてもらえば、簡単な会話は理解できる。身近な話題であれば応答も可能である。語彙・文法・構文ともに不十分なところは多いが、相手がNon-Nativeに特別な配慮をしてくれる場合には、意思疎通をはかることができる。 E ~215点 コミュニケーションができるまでに至っていない。 単純な会話をゆっくり話してもらっても、部分的にしか理解できない。断片的に単語を並べる程度で、実質的な意思疎通の役には立たない。
[編集] 問題構成(2006年5月からの新構成)
[編集] 聞き取り
このセクションは合計100問、制限時間は 45分間である(但し、稀に制限時間が変わる場合がある)。
- Part 1 - 写真描写問題(Photographs) - 1枚の写真を見て、その写真について放送される適切な英文を選ぶ。4択式で合計10問。
- Part 2 - 応答問題(Question-Response) - 質問文が放送された後、それに対する応答文が3つ放送され、適切なものを選ぶ。合計30問。
- Part 3 - 会話問題(Short Conversations) - 2人の会話を聞いて、その会話についての質問に対し最も適当な選択肢を選ぶ。質問文と選択肢は問題用紙に記載されている。4択式で合計30問。
- Part 4 - 説明文問題(Short Talks) - ナレーションを聞いて、それについての質問に対し適切な選択肢を選ぶ。1つのナレーションにつき複数問出題される。質問と選択肢は問題用紙に記載されており、4択式で合計30問。
旧構成の Part 3、Part 4の問題文は印刷のみであったが、新構成では印刷と共にテープによる読み上げが行われる。また1つの会話・説明文に対する問題数が2~3問と不定であったものが、新構成ではそれぞれ3問に固定される。
[編集] 読解
このセクションは合計100問、制限時間は75分間である。
- Part 5 - 短文穴埋め問題(Incomplete Sentences) - 短文の一部が空欄になっていて、4つの選択肢の中から最も適切な語句を選ぶ。合計40問。
- Part 6 - 長文穴埋め問題(Text Completion) - 手紙などの長文のうち複数の箇所が空欄になっていて、それぞれ4つの選択肢から最も適切な語句を選ぶ。合計12問。
- Part 7 - 読解問題(Reading Comprehension) - 広告、手紙などの英文を読み、それについての質問に答える。読解すべき文書が一つのもの(Single passage) が28問。「手紙+タイムテーブル」など読解すべき文書が2つのもの(Double passage)が20問。それぞれ4択式。
[編集] 問題構成(2006年3月までの旧構成)
[編集] 聞き取り
このセクションは合計100問で、制限時間は約45分間である。
- Part I - 写真描写問題(One Picture) - 1枚の写真を見て、その写真について放送される適切な英文を選ぶ。4択式で合計20問。
- Part II - 応答問題(Question-Response) - 質問文が放送された後、それに対する応答文が3つ放送され、適切なものを選ぶ。合計30問。
- Part III - 会話問題(Short Conversations) - 2人の会話を聞いて、その会話についての質問に対し最も適当な選択肢を選ぶ。質問文と選択肢は問題用紙に記載されている。4択式で合計30問。
- Part IV - 説明文問題(Short Talks) - ナレーションを聞いて、それについての質問に対し適切な選択肢を選ぶ。1つのナレーションにつき複数問出題される。質問と選択肢は問題用紙に記載されており、4択式で合計20問。
[編集] 読解
このセクションは合計100問あり、制限時間は75分間である。
- Part V - 文法・語彙問題(Incomplete Sentences) - 文の一部が空欄になっていて、4つの選択肢の中から最も適切な語句を選ぶ。合計40問。
- Part VI - 誤文訂正問題(Error-Recognition) - 文中4箇所に下線が引いてあり、うち語法が誤って使われているものを1つ選択する。合計20問。
- Part VII - 読解問題(Reading Comprehension) - 広告、手紙などの英文を読み、それについての質問に答える。4択式で合計40問。
[編集] LPI
TOEICそのものは上記の通り多肢選択式の試験だが、別料金にてLPI(Language Proficiency Interview)という口述試験を別途行っている。20~25分程度の面接の中で、発音、文法、語彙、理解力などが評価される。以前は本試験で730点(Bクラス)以上を得た受験者のみ対象だったが、2005年4月1日よりこの制限はなくなった。但し、公式ページでは730点以上取得者の受験が推奨されている。
評価はFSIスケールと呼ばれる各言語共通の基準により、0、0+、1、1+、…(以後4まで。ノーマークとプラスがある)…、5の11段階でつけられる。客観性を期すため、複数の採点者によって評価される方式をとっている。評価基準は非常にハイレベルに設定されており、ネイティブでない人がレベル3以上を得ることは稀だといわれている。
[編集] TOEIC Bridge
TOEICの姉妹版として、2001年に初・中級レベルの TOEIC Bridge(トーイック・ブリッジ)が始まった。聞き取り50問、読解50問(各10~90点)でトータルスコア20~180点で評価される。長文の文章が短くなっているなど、問題の難易度は従来のTOEICテストよりも下げられている。従来のTOEICは、企業での英語能力測定を主な目的として開発された。そのため、問題数も200問と多く高校生や英語の初心者が受けるには適していなかった。TOEIC Bridgeはこのような人を対象として開発された。TOEIC Bridgeの利用目的は高校生の留学選抜や英語特進クラス選抜やレベルチェック、大学の英語レベルチェック等多岐に渡る。
- 受験者の比較(2005年度 日本国内での受験者数)
- TOEIC 1,499,000人 (前年度比 +66,000人)
- TOEIC Bridge 109,200人 (前年度比 +26,000人)
[編集] TOEIC スピーキングテスト / ライティングテスト
2007年1月21日(日)に東京・大阪・名古屋等の主要都市で始動した[4]。実施に至った背景は、従来の200問マークシートテストでは会話能力や作文能力が測れないという難点があったが、ETSが研究を重ねた結果、従来のTOEIC / TOEIC Bridgeとは別個に実施されることになった。特にプレゼンテーションや音読、e-mail作成問題や論文作成等、従来のマークシートでは測れなかった部分を補完している。企業等の今後の需要が見込まれる試験である。
TOEIC スピーキングテスト / ライティングテストはETSのInternet-Based Testing (iBT)というシステムを介して実施される。ETS認定テスト会場のパソコンをインターネットにつなぐことでテスト問題が配信される。受験者はTOEICテスト(リスニング、リーディング)型のマークシート解答用紙で解答するのではなく、パソコン上で音声を吹き込んだり、文章を入力する方法をとっている。iBTによってさらに効率的、かつ標準化された公平な方式で受験者の解答を記録・評価し、受験後のフィードバックを行うことが可能となった。なお、問題レベルは現在のTOEFL iBTテストに準じている。
テスト構成はスピーキングが20分、ライティングが60分で、他に説明や指示(すべて英語)などを含めると90分程度を要する。テストスコアは0点~200点で表示される。
[編集] 註
- ^ 公式ウェブページ http://www.toeic.or.jp/toeic/about/index.html (2007-02-19)の記述による。