宇宙船地球号
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宇宙船地球号(うちゅうせん・ちきゅうごう、Spaceship Earth)は、地球上の資源の有限性や、資源の適切な使用について語るため、地球を閉じた宇宙船にたとえて使う言葉。バックミンスター・フラーが提唱した概念・世界観である。またケネス・E・ボールディングは経済学にこの概念を導入した。
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[編集] 引用元
この言葉は19世紀のアメリカ合衆国の政治経済学者・ヘンリー・ジョージの名著、『進歩と貧困(Progress and Poverty)』(1879年)から引用されている。[1][2] 4巻の2章にはこうあるが、この時点では地球という「船」の貯蔵は無限であるとされている。
- 「我々が宇宙を航海するために使うこの地球とはよくできた船である。もし甲板上のパンと肉が少なくなってきたようなら、我々はただハッチを開ければよい。そこには開ける前は夢にも見なかった食料が新たに補充されているのだ。そして他者への奉仕のために、非常にすばらしい命令が下されている。ハッチが開くとともに食料に殺到する人々が『これは俺のだ!』と言うことを許可する命令である。」
[編集] フラーの世界観:有限な資源を何に使うべきか
「宇宙船としての地球」という言葉は、20世紀アメリカの建築家・思想家、バックミンスター・フラー(Buckminster Fuller)によって有名になった。彼は1963年、『宇宙船地球号操縦マニュアル(Operating manual for Spaceship Earth)』[3]を著し、宇宙的な視点から地球の経済や哲学を説いた。
彼はこの書籍で、地球と人類が生き残るためには、個々の学問分野や個々の国家といった専門分化された限定的なシステムでは地球全体を襲う問題は解決できないことを論じ、地球を包括的・総合的な視点から考え理解することが重要であり、そのために教育や世界のシステムを組みなおすべきだとした。彼は化石燃料や原子力エネルギーや鉱物資源などの消費について、彼独特の包括的アプローチを反映しながら次のように述べた。
- 「我々は、すでに手にしている科学力と技術力を適切に使えばすべての人類を幸せにすることが可能である。世界を飲み込む産業の進化は、規則正しく積み立てられ宇宙船地球号の船内に保存されてきた数十億年分のエネルギーの貯金を、天文学的な歴史から見ればほんの一瞬の間に消費し続けるほど我々が愚かであってはないことを規定している。これらのエネルギー貯金は、我々の宇宙船の『生命再生産保障銀行』の口座の中に蓄えられてきたが、この口座を我々はセルフ・スターター部門(始動部門)のみに消費すべきである。」
フラーは、地球の歴史とともに蓄えられてきた有限な化石資源を燃やし消費し続けることの愚を説き、これらの資源は新たな資源を地球外部(太陽など)から獲得するためだけに使われるべきだとした。彼は人類が石油やウランといった貯金を切り崩すことなく、地球外から得るエネルギーの収入だけで生活できる可能性がすでにあるのに、現存する経済や政治のシステムではこれが実現不可能であると述べ、変革の必要性を強調した。
[編集] ボールディングの概念:宇宙船のように有限な地球経済
1966年、アメリカの経済学者ケネス・E・ボールディングは『来たるべき宇宙船地球号の経済学(The Economics of the Coming Spaceship Earth)』[4]というエッセイのタイトルにこの言葉を使った。ボールディングはかつての「開かれた経済」は無限の資源を想定していた(彼はこれを「カウボーイ経済」と呼びたい誘惑に駆られると述べた)とし、続けてこう書いた。
- 「未来の『閉じた経済』は、同様に『宇宙飛行士経済』と呼ばれるべきだろう。ここでは地球は一個の宇宙船となり、無限の蓄えはどこにもなく、採掘するための場所も汚染するための場所もない。それゆえ、この経済の中では、人間は循環する生態系やシステムの中にいることを理解するのだ。」(デイヴィッド・コーテン(David Korten)は1995年の『企業が世界を支配するとき』の中で、「宇宙船の中のカウボーイ」というテーマを取り上げている。)
[編集] 詩的表現
国連事務総長のウ・タントは1971年3月21日の最初のアースデイ(翌年より4月22日となっている)で、「日本の平和の鐘」を鳴らす式典上こう述べた。
- 「これから毎年、平和で喜びに満ちたアースデイだけが、我々の美しい宇宙船地球号に来るように。地球号が温かくて壊れやすい生物という貨物とともに回転し、厳寒の宇宙を巡り続けるかぎり。」[5]
[編集] 関連項目
- バックミンスター・フラー
- ガイア理論 - 地球を自己組織化を行う一個の生命体と例えた仮説で、地球を機械・宇宙船ととらえる『宇宙船地球号』概念との間で対立を起こした
[編集] 参照
- 『宇宙船地球号操縦マニュアル』 バックミンスター・フラー著、芹沢高志訳、筑摩書房(文庫) ISBN 4480085866
- 『バックミンスター・フラーの宇宙学校』 バックミンスター・フラー著、金坂留美子訳、めるくまーる、ISBN 4480085866