情報経済学
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情報経済学(じょうほうけざいがく)とは、経済活動における情報の働きを扱う学問のことである。情報の経済学(じょうほうのけいざいがく)、情報経済論(じょうほうけいざいろん)などとも呼ばれる。
従来、経済及び経済学においては、「ヒト」「モノ」「カネ」が経済活動を構成する要素として重要視されてきたが、経済活動における人間行動の決定要素はもちろんこの3つには限られない。その中でも取り分け行動決定に影響を及ぼすものの1つが情報であり、以前から経済学、特にミクロ経済学において情報の非対称性を中心に研究が行われてきた。
経済学においてはこの他に、コンピュータソフトや映画、音楽を始めとする情報財の研究も行われており、また、近年の情報通信技術の発展により、情報通信産業に関する研究も活発化してきている。
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[編集] 情報の非対称性
情報の非対称性は、経済取引における主体者間(例えば企業と消費者)に存在する情報格差を指す言葉である。主体者間に情報格差が存在する場合、効率的な経済取引が阻害され、社会的損失を生み出す可能性が存在する。例えば、消費者は一般的に生産者である企業よりも商品について多くの情報を持たない。このため粗悪な商品を適正価格以上で販売される可能性がある(逆選抜)。また逆に、自動車保険に加入したために、それまでは多大な注意を払っていた運転が、以前に比べていい加減になる可能性も否定できない(モラル・ハザード)。これは保険会社が契約者の行動を常に把握できないことから生じる情報格差である。この他にも多数の例が存在するので、詳しくは以下の項目を参照されたい。
なお、2001年には、ジョージ・アカロフ、マイケル・スペンス、ジョセフ・E・スティグリッツの3名が、情報の非対称性に関する研究によりノーベル経済学賞を受賞した。
[編集] 情報財
情報財、例えば映画は、通常の財とは異なる点がいくつかある。1つは、財が非競合的かつ非排除的だということである。テレビで放送される映画を例に挙げれば、テレビを持っていれば何人でも同時に視聴が可能であり(非排除的)、また何度でも再放送が可能である(食品のように一度食べればなくなるということはない=非競合的)。このことから、情報財は極めて公共財に類似する性質を持つ。2つめは、再び映画を例に取ると、生産(撮影、編集など)に関しては多額の費用がかかり、また時間もかかるが、複製においては費用はほとんどかからず(限界費用が限りなくゼロに近い)、複製が容易である。情報財は市場を通じて取引される財であるが、一般財と異なる性質を持つため、上記の点を踏まえてのビジネスモデルや、財の流通に関する法則などの研究が行われている。
また、視点を移すと、例えば音楽は元々レコードやCDといった物質にデータを憑依させて初めて商品としての価値を持つものであった。この点も情報財の特徴であると言えるが、近年では情報通信技術が発達し、mp3などのデータとして商品の売買や所有が行われるようになり、これも新たなビジネスモデルとして研究対象とされている。同時にP2P技術を使用したファイル共有ソフトなどにより、著作権法を逸脱した形での商品の取引も生まれ、これについても新たな研究対象として、適切な規制に関する研究等が進んでいる。
情報財に関しての詳細は、以下を参照されたい。
[編集] 情報通信産業
経済学における情報通信産業についての研究は、ネットワーク型産業に関する研究の一分野である。ネットワーク型産業とは情報通信産業では電話やインターネット、他産業では鉄道や航空産業が該当する。ネットワーク型産業の特徴としては、初期投資が非常に高額であり、新規参入が進まず、自然独占が発生する傾向にある、ということである。独占による価格の高騰を防ぐため、政府による価格設定が法的に認められているのもこの分野の特徴と言える(詳しくは市場の失敗、公共経済学を参照せよ)。
かつては自然独占に関する価格設定の議論が主題であったが、バンドワゴン効果やネットワーク外部性といった概念が登場してからは、マイクロソフトとアップルコンピュータのOS競争や、セガサターンとプレイステーションなどの規格争いも主題となっている。これは、デファクトスタンダードを獲得した規格が、最終的には一人勝ちする傾向にあるからであり、自然独占によく似ているため、一種のネットワーク型産業であると認識されている。