放射能
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放射能(ほうしゃのう)とは、放射線を出す能力のことである。
放射能の強さは、1 秒間に原子核が崩壊する数で表され、ベクレル(記号Bq)という単位で表す。かつては、1 グラムのラジウムが持つ放射能を単位とし、これを1 キュリー(記号Ci)としていた。1 グラムのラジウムは毎秒 3.7×1010 個のα線を放射しているので、1 キュリーは 3.7×1010 ベクレルということになる。
放射能はあくまである放射性物質が放射線を出す能力を指す言葉であり、具体的な物質を指す言葉ではない。喩えて言うなら、電球を放射性物質、電球から出る光を放射線としたとき、放射能に当るのは電球が光を発する能力のことである。
しかし、報道や日常会話では、「放射能を持つ物質(放射性物質)」と「放射線」と「放射能」との概念上の区別があいまいで、危険物というニュアンスで放射能の語がひと括りにされ誤用されている。すなわち、原子力関連の事故に於いて「放射能漏れ」と報道されることがあるが、それは誤った使用例であり、「放射性物質の流出」とか「放射線の誤照射」といわれるべきものである。
ただし、特定の種類の放射線を吸収した原子が、受け取った励起エネルギーをエックス線・γ線として再放出したり、放射壊変により他の放射性元素に転換することがある。このような現象は放射化と呼ばれる。これについては、「放射能力が漏れた」とも言えなくはない。
また「放射能=毒」的な意味合いで、僅かでもあると怖い・悪いことのようなイメージで扱われることがあるが、これは極めてヒステリックな対応で誤りである。そもそも、そこらの地面や空気、海草、野菜等にも放射能はあり、人体は人類発生時点から自然に被曝している。問題とされるべきはあくまで程度である。
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[編集] 放射能標識
放射線が発生している場所(身近な例では、病院のエックス線撮影室など)には、右記のような放射能標識が表示される。
UnicodeにはU+2622に放射能標識がある:
- ☢
蛇足だが、放射能標識はバイオハザードのシンボルと並び、立ち入り禁止・危険を伴う区域とのイメージの一般への浸透から、危険な施設、極秘の軍事施設などを象徴するマークとして映画やテレビゲームに印象的に用いられたり、ステッカーなどに利用されたりしている。
[編集] 放射能のしくみ
[編集] 放射線と放射性同位体
放射能を持つ物質を放射性物質と呼ぶ。 放射能は物質に含まれる放射性同位体の原子核崩壊に伴って放射線が放出されることに起因している。
原子核崩壊にはいくつかの形式があり、これを崩壊モードという。 主な崩壊モードにはアルファ崩壊、ベータ崩壊、ガンマ崩壊がある。
崩壊に際して放射線が飛び出すが、その粒子は崩壊モードに応じた数メガ電子ボルトの運動エネルギーを持っている。 これを崩壊エネルギーという。 このエネルギーはもとの原子核と崩壊後の原子核の質量欠損の差でまかなわれている。
崩壊エネルギーは最終的に熱エネルギーに変わる。このため、放射性物質はしばしば高温を発している。この熱エネルギーを回収して電気エネルギーに転換するしくみが原子力電池である。
崩壊モードと崩壊エネルギーを図で示したものが原子核崩壊図である。
[編集] 半減期
放射性同位体は壊変に伴ってそれ自身が減っていくため、放射能はある割合で減っていく。これを減衰という。ある放射能が半分に減る時間はその核種ごとに常に一定であり、これを半減期という。
半減期が短い放射性同位体は早く消えるが、比放射能は高くなる。
[編集] 崩壊生成物
ある放射性同位体が放射線を放出した後にできる核種を崩壊生成物という。 しばしば崩壊生成物もまた放射性同位体であるので、さらに崩壊を起こして別の核種に壊変していく。 こうしてできる一連の連鎖を崩壊系列という。
[編集] 放射平衡
ある放射性同位体が崩壊してできた子孫核種もまた放射性である場合、子孫核種の半減期の方が短ければ、親核種の放射能と子孫核種の放射能がずっと一定の比率に固定される。 この状態を放射平衡という。
[編集] 放射性物質の利用
放射線が物を透過する性質を利用するため、放射性物質がさまざまな分野で利用されている。 例えば、火災感知器では空気の密度を測るために放射性物質(密封線源)が使われている。
また、放射線が細胞分裂を止める性質があるので、医療器具の滅菌、ジャガイモの発芽防止などに放射性物質が利用されている。 ある種の病気の治療薬として放射性物質を投与することがある(バセドウ病のような)。この場合は非密封線源である。
この他、蛍光塗料の添加物、静電気除去、製鉄、ランプの覆い、蛍光灯の点灯管などに、放射性物質が利用されている。
[編集] 放射線の測定
放射線は目には見えず熱くもないので、検知するために特別な測定器具を用いるのであるが、測定したい線種と目的に応じて適切な器具を選ばなければならない。
個人の被曝線量を知るためにはフィルムバッジやガラス線量計が安価・軽量でよい。臨界ベルトを着用する場合もある。 表面汚染を検出するにはガイガー=ミュラー検出器など。空間線量を測定するには、シンチレーション検出器などが用いられる。 分析には半導体検出器が多く用いられる。
[編集] 放射線防護
人体が放射線にさらされることを被曝という。 あまりに多くの放射線に被曝すると、健康に悪影響がある。このような悪影響を総称して放射線障害という。
放射線障害を防止するため、放射性物質を取扱う施設の仕様、放射性物質の購入・保管・廃棄の管理、汚染の管理、管理被服や保護具の着用が定められている。
[編集] 単位
現在の放射能の単位はSI単位系でベクレル(記号Bq)を用いている。それ以前は、キュリー(記号Ci)であり、これはまた現在でも補助単位としても使用されている。放射能研究の当初は標準単位がなくアーネスト・ラザフォードも独自の単位を使用していたが、標準となる単位の必要性を感じていたラザフォード自身が基準委員会の委員長となり、1910年の第一回国際放射線学会にて 1 グラムのラジウムが持つ放射能を単位とした1 キュリー(Ci)が定義された。その後、1974年にSI単位として国際度量衡総会でベクレルを採択し1975年から国際標準として用いられている。日本においては法改正がなされた1989年からベクレルが公式使用されている。