漁船
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漁船(ぎょせん)とは一般に、漁業に用いられる船舶である。漁法やその目的とする漁場によりその船の大きさや構造は大きく異なる。
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[編集] 漁船法の制定背景
太平洋戦争後の食糧難解決のため、戦後大量の漁船が建造された。しかし、それらの急造漁船はその機能性および安全性などに劣るものが多く見られた。こういった背景から、漁業の振興及び漁船の適正化を図るため、1950年(昭和25年)、議員立法により漁船法が制定された。
[編集] 漁船の定義
漁船は漁船法で以下のように定義されている。
- もつぱら漁業に従事する船舶
- 漁業に従事する船舶で漁獲物の保蔵又は製造の設備を有するもの
- もつぱら漁場から漁獲物又はその製品を運搬する船舶
- もつぱら漁業に関する試験、調査、指導若しくは練習に従事する船舶又は漁業の取締に従事する船舶であつて漁ろう設備を有するもの
上記の定義から、漁船法上の漁業種類は刺網漁業、定置漁業といった一般的なもののほか、漁獲物運搬船、真珠養殖船なども含まれる。また、水産系の大学および試験研究機関の有する調査船や漁業取締船は官公庁船として分類されている。
上記の分類から遊漁船は漁船に含まれず、一般には小型船舶登録を受けている。ただし漁船との兼用も可能である。
[編集] 漁船の登録
漁船は漁船登録を受けた上で船名と漁船登録番号を船体に標示しなければならない。
[編集] 漁船の分類
漁船登録は漁船法による以下の分類にしたがって漁船登録を行う。
- 1級船(100トン以上の海水動力漁船)
- 2級船(5トン以上100トン未満の海水動力漁船)
- 3級船(5トン未満の海水動力漁船)
- 4級船(5トン以上の海水無動力漁船)
- 5級船(5トン未満の海水無動力漁船)
- 6級船(淡水動力漁船)
- 7級船(淡水無動力漁船)
上記の分類は重複することも可能である。例えば、海面と内水面両方で用いる5トン未満の漁船であれば、3級船と6級船の両方で登録する。
[編集] 船名
船名は任意である。例えば「第八幸福丸」といった「第・・丸」という船名が多いが、「丸」を付けなくても良い。「丸」を付けるのは単なる伝統や慣習に過ぎない。また、「第・・」という番号も全くの任意であり、「第八」と言っても8隻同じ名称の船があるとは限らない。むしろ縁起を担いで第八、第八十八、といった形で命名している場合の方が多い。船名に使用できる文字は平仮名、片仮名、漢字およびアルファベットに限られ、屋号などを船名に用いることはできない。
[編集] 漁船登録番号
漁船登録番号は各都道府県が配布し、必ず船体に標示しなければならない。形式としては以下の例の形式を採る。
例)HK2-10000
前2文字のアルファベットが所属都道府県を示す。例に掲げたHKは北海道である。次の1文字(数字)は1~7が入り、1級船から7級船を示す。ハイフンの後は各都道府県の配布する登録順の番号である。この番号は漁船の所有者が変わっても県外に出ない限り保持される。
[編集] 漁船の構造
漁船は船体、推進機関、漁業設備から成る。船体や推進機関についても漁業に特化した構造を有している。
[編集] 船体
旅客船や貨物船との大きな違いとして、漁船は一定した航路を走らず複雑な航跡を示すことから、複雑な動きに適した構造で設計される。また、揚網作業などでバランスを崩しやすいことから、復原性が重視される傾向にある。ただし各漁業の形態によりその最適とされる構造は異なるため、漁船であれば全ての漁業に用いられるものではない。例えば定置漁業であれば、揚網を行い易いように平たくブルワークの低い形態の船体を、いるか突棒漁業ではいるかを追うため船足の速い、幅の狭い船体を用いる傾向にある。しかし一隻で複数の漁業を兼業することも多い。
内水面漁業の場合、海面漁業における3級船相当の漁船を用いることが多いが、広い湖では5トン級の漁船も用いられている。
[編集] 材質
かつての船体は木船が中心を占めていたが、昭和40年代からFRP(強化プラスチック)船が登場した。現在、20トン以下の漁船はFRPと軽合金(アルミニウム)が中心を占めている。なお、1級船は現在も鋼船がほとんどである。
[編集] FRP
5トン未満の、とくに船外機を用いる小さな漁船の大部分はFRP製である。FRPは一つの型から大量に製作することでコストを低減できるため低価格である一方、船外機級の船では漁業者間で要求する仕様に大きな違いが見られないためである。プラスチック成型によるため、同じ設計であれば個々の船の違いは非常に小さく、船体が軽いなどの利点がある。また、多少の穴や傷についてもプラスチックで埋めることで修復が容易である。一方、プラスチック製である上にガラス繊維を混合しているため、廃船時のコストや処理方法が問題になっている。
[編集] 軽合金
軽合金船は鋼船に比べて軽く、FRP船よりも剛健であることが特長である。造船技術、設計方法は金属であるため鋼船に近く、過去の技術資産が生かせる。また金属であることから、廃船時にはリサイクル可能であるため、近年はFRPから移行する漁業者も増加している。
[編集] 鋼船
鋼船は重量が重くコストも高くなるため、現在は小型漁船ではあまり用いられない。しかし鋼の剛性を超えるFRPや軽合金はないことから、大型の底びき網漁船や遠洋漁業にはもっぱら鋼船が用いられる。また、漁業取締船などもその業務上、鋼船が用いられる。
[編集] トン数
漁船のトン数は通常の船舶と同様に「船舶の総トン数の測度に関する法律」に基づき算定(測度)されている。漁業許可の一部は使用する漁船についてトン数の制限が定められているため、必要以上の大きな漁船を建造することはない。一般の小型船舶は小型船舶検査機構が、大型船舶は国土交通省運輸局が測度するが、漁船については都道府県が測度している。
[編集] 推進機関
漁船の機関は主に以下の3種類に分類される。
- 船外機
- 漁船の外側に付ける、舵の一体化した簡易な小型機関で、電気点火式ガソリン機関がその主流である。3トン以下のFRP船で多く見られる。
- 船内機
- 船内に設置された大型機関。主流はディーゼル機関である。5トン以上はほとんどが船内機を使用している。
- 船内外機
- 船内機、船外機の折衷型。機関は船内機関室にあるが、舵が機関と一体になっている。3~5トン程度の漁船で使用されている。ディーゼルが主流である。
戦後直後の近海は焼玉機関が中心を占めていたが、現在は存在しない。漁船は旅客船や貨物船と異なり細かい動作が多く、網を引いたりするため負荷に強い機関でなければならない。近年は一部で電気推進機関の利用も試みられている。
漁船機関の出力(馬力数、キロワット)は漁船法に基づく性能の基準によってトン数毎に上限が定められており、漁船用機関として認められた機関以外は用いることが出来ない。
[編集] 漁業設備
漁船を最も特徴づけるものが漁業設備である。一般には建造時に設備するが、後に増設や撤去等を行うこともある。漁業種類と漁業設備の対応例を以下に挙げる。
上記の設備、とくにいか釣り漁業やさんま棒受け網漁業に用いられる集魚灯などについては大量の電源供給を要することから、推進機関とは別に発電機を設備している漁船も見られる。 発光ダイオードを使ったLED集魚灯の場合、従来の集魚灯よりも重油使用量が10-20%程度で済むという。
一つの漁船で複数種類の漁業を季節に合わせて行う場合、上記の漁業設備を季節ごとに撤去又は設備する例も多く見られる。中には上甲板上の設備を大きく変えるため、毎回総トン数を変更する漁船もある。
[編集] 鮮度保持
過去に行われた母船式遠洋漁業や、遠洋かつお・まぐろ漁業では冷凍設備を有するが、沿岸漁業ではそのような設備はほとんど見られなかった。しかし近年の高鮮度による付加価値志向により、滅菌海水による水氷の積載や冷蔵設備を有する沿岸・沖合漁船も増加している。
[編集] 外部リンク
- 法令データ提供システム - 漁船法
- 漁船統計表(農林水産省図書館)