無限軌道
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無限軌道(むげんきどう)とは、起動輪、転輪、誘導輪を囲むように一帯に接続された履板(りばん)の環であり、起動輪でそれを動かす事によって不整地での車両の移動を可能にするものである。農業機械、建設機械、雪上車、戦車などに使用される。
この無限軌道は、2度の世界大戦により発達した技術である。
無限軌道には、クローラー(Crawler)、トラックベルト(Trackbelt)、履帯、キャタピラーなど、複数の呼び名がある。一般用途では、無限軌道と呼ばれる。軍事用語では、履帯(りたい)と呼ばれる。クローラーとは、豪雪地帯で使う軽自動車やトラックやバスなどにオプションとして取り付ける無限軌道の名称である。他にも、農業機械用の無限軌道も、クローラーと呼ばれている。建設機械の無限軌道は、キャタピラー(またはキャタピラ)と呼ばれることが多い。キャタピラーは、米国キャタピラー社 (Caterpillar Inc.) の登録商標である。
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[編集] 種類
材質、接合方式、構造により分類される。 走行性能においてはダブルブロックダブルピン構造の物が最も良好であるが、部品点数が多くなるため、現在の第三世代戦車では主にシングルブロックダブルピンが用いられている。
[編集] 材質
通常、鉄の合金が用いられるが、軽量のトラクター等では、履帯が一体化したゴムキャタピラが用いられる。
[編集] 接合方式
- シングルピン
- 長い1本のピンで片方から接合する。部品点数が少ないため耐久性は高いが履帯が取り付けにくい欠点を持つ。
- ダブルピン
- 短い2本のピンで両方から接合する。シングルピンとは逆の性質を持つ。
[編集] 構造
- シングルブロック
- キャタピラを構成するピースどうしを直接ピンで接合する方式。部品点数が少なく安価であるが柔軟性に欠け、外れやすいという欠点を持つ
- ダブルブロック
- キャタピラを構成するピースを接合部品を介してピンで接合する方式。部品点数が多く高価でその分信頼性に劣るが、柔軟性に優れ、外れにくいという利点を持つ。
- 蛇腹方式
- キャタピラのピンを左右にも折れ曲がるように接合した方式。イギリス装甲車に一部使用された。ステアリング型の装甲車にも巻けるキャタピラとして開発され、前輪を左右に振る車輪に同期させるため、キャタピラ自体も左右に折れ曲がるように設計されている。
[編集] 転輪
- 大型転輪
- 第二次世界大戦のソ連戦車によく見られる転輪。転輪上部で上側の履帯を支える。高速走行時に有効とされるが、転輪の装着数が必然的に少なくなり、転輪間の幅が大きくなるため不整地走行性能に難がでる。履帯幅の延長などで改善が可能。なおこの転輪形式を「クリスティー方式」と呼ぶ場合があるが、正確にはサスペンションの形式を指す。
- 小型転輪
- 戦車の登場初期より存在した転輪方式。小さな転輪を数多く装着することで、転輪間の隙間を小さくでき、不整地走行性能が向上する。しかし速度性能に限界が生じ、高速度を求める車両には向かない。
- 中型転輪
- 大型と小型の良いところを妥協してとった大きさの転輪。上側の履帯を支える為の小さな上部支持転輪を持つ。両者の可もなく不可もない性能で現在主流の戦闘車両用転輪形態として落ち着いている。
- 千鳥転輪
- 第二次世界大戦中のドイツ軍の後期に生産された中~重戦車に利用した転輪形態。大型転輪と小型転輪の良いところをすべて盛り込もうとして開発された。大型転輪一個と二個を交互にはさみ重ね合わせるようにした形態の転輪である。これによりキャタピラの間隔を小型転輪並にし、不整地性能の向上を期待することができる上、高速高機動かつ大型の車体が製造可能な特徴を持つ。しかし破損した転輪を交換する際に無傷の転輪も外さなければならない煩雑さというメンテナンス上重大な問題があり、接地圧の解消にはそれほどの結果を出せなかった。大戦以後この形式を使う車両はほとんどない。
- 起動輪(スプロケット・ホイール)
- 前後いずれかの端に位置し(エンジン配置などに依存)、動力軸と繋がっている。ギア状になっていて履帯と噛みあって動力を伝達する。
- 遊動輪(アイドラー・ホイール)
- 起動輪と反対側の端に位置し、位置を前後させて履帯の張り具合を調整する。金属履帯は使用と共に接続ピンと周辺の磨耗により伸びて来るため調整が必要になる。
[編集] 舗装路への影響

ゴムキャタピラでは問題とはならないが、そうでないキャタピラで舗装路を走ると、舗装を傷める恐れがある。その為、建設機械の場合、移動の際はトラック又は低床式トレーラー(重機キャリア)に載せて運ぶ事となる。戦車等の装軌式装甲戦闘車両もトレーラー(戦車トランスポーター)に搭載して移送する事が多いが、日本を含む先進国が装備している戦車等の装軌式装甲戦闘車両の多くは、路面を傷めない様にゴム製の肉球(ゴムパッド)を着脱できる履帯(履板)を使用している事が多い。履板の形状が違えば着脱可能なゴムパッドの形状も当然異なり、種類は色々あるが、日本の90式戦車では横長のゴムパッドが使われている。路面にゴム跡が付くものの、接地面がゴムなので舗装路を余り傷めず、騒音も軽減出来る為、公道などを走行する際はゴムパッドの装着は必須となっている。また、戦車が配備されている陸上自衛隊の一部駐屯地近くの道路では、アスファルトの舗装を完全に撤去し、コンクリートで舗装した公道を戦車が走行するといった例もある。