現住建造物等放火罪
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現住建造物等放火罪(げんじゅうけんぞうぶつとうほうかざい、刑法第108条)は、人が現に住居に使用しているか、または現に人のいる建造物等(建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑)を放火により焼損させる犯罪を規定したものであり、また、これは条文上公共の危険の発生が必要とされない抽象的危険犯とされる。
目次 |
[編集] 法定刑
現住建造物等放火罪の法定刑は死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役と規定されており、現行法上殺人罪(刑法第199条)と全く同等の法定刑を有する重罪とされている。 なお、このように現住建造物等放火罪が重く処罰されるのは、延焼により不特定多数の国民の生命を危険にさらすおそれがあるためである。
[編集] 適用範囲
日本国外で罪を犯した日本国民にも適用される。(属人主義、刑法第3条1号)
[編集] 未遂
現住建造物放火罪の未遂は刑法第112条で処罰される。
[編集] 予備
現住建造物等放火罪の予備についても刑法第113条で処罰され、その法定刑は2年以下の懲役である。ただし予備罪については情状によりその刑を免除することができる。
[編集] 法規
刑法における、現住建造物等放火罪の関連法規は以下の通り。
第3条
- この法律は日本国外において次に掲げる罪を犯したものに適用する。
- 一 第108条及び第109条第1項の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪。
第108条
- 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船、または鉱坑を焼損した者は、死刑または無期若しくは5年以上の懲役に処する。
第112条
- 第108条及び第109条第1項の罪の未遂は罰する。
第113条
- 第108条又は第109条第1項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
[編集] 用語の意義
現住建造物等放火罪(刑法第108条)の法文に用いられている用語の意義については以下の通り。
[編集] 現に人が住居に使用する
犯人以外の人が起臥寝食の場所として日常使用していることをいい、犯人のみがその建造物等に居住している場合は含まれない。
[編集] 現に人がいる
放火の際に、犯人以外の人がその場に居あわせることをいい、居住者全員を殺したうえで家屋に放火する場合には、放火については非現住建造物等放火罪が適用される。
[編集] 建造物
土地に定着する建築物であり、屋蓋を有し、牆壁や柱材によって支持され、また少なくともその内部に人が入れるものを指す。
[編集] 汽車
蒸気機関車に車両を牽引させることにより、軌道上を走行する交通機関を指す。
[編集] 電車
電力により軌道上を走行する交通機関を指す。
[編集] 艦船
軍艦および船舶を指す。
[編集] 鉱坑
鉱物を採掘するために設けられた地下施設を指す。
[編集] 焼損
焼損の意義については、以下のような学説の争いがある。
- 独立燃焼説
火が媒介物を離れて目的物に燃えうつり、独立に燃焼を継続する状態になること。
- 効用喪失説
目的物の重要部分が焼失し、その本来の効用を喪失すること。
- 燃え上がり説
目的物の重要部分が燃えはじめ、容易に消すことができない状態になること。
- 毀棄説
毀棄罪の基準により、火力によって目的物が損壊すること。
なお、1989年7月7日の最高裁判所第2小法廷判決においては、エレベーターの壁約0.3平方メートルを焼損しただけでも、この犯罪の構成要件に該当すると判示された。
[編集] 罪数に関する判例
[編集] 放火罪同士
- 1個の放火行為により、2棟の現住建造物を焼損した場合、現住建造物放火罪の単純一罪となる。(大判大正2年3月7日刑録19輯306頁)
- 1個の放火行為により、現住建造物と非現住建造物を焼損した場合、現住建造物放火罪の包括的一罪となる。(大判明治42年11月19日刑録15輯1645頁)
[編集] 他罪との関係
- 火災保険金を詐取する目的で放火し保険金を得た場合、放火罪と詐欺罪は併合罪となる。(大判大正5年12月12日刑集9巻893頁)
- 他人の住居に侵入して放火した場合、住居侵入罪と放火罪は牽連犯の関係に立つ。(大判明治43年2月28日刑録16輯349頁)