真白き富士の嶺
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真白き富士の嶺 (ましろきふじのね) は、逗子開成中学校の生徒12人を乗せたボートが転覆、全員死亡した事件を唄った歌謡曲である。「真白き富士の根」、「七里ヶ浜の哀歌」 とも呼ばれる。1935年、1954年にはこの事件を題材にした同名の映画にもなった。 (なお、1963年 の日活による同名映画は事件とは関係ない。)
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[編集] 基本データ
「七里ヶ浜の哀歌」 の方が原題に近いが、一般には、歌い出しの歌詞から 「真白き富士の根 (嶺)」 と呼ばれた。
[編集] 歴史
- 1910年 (明治43年) 1月23日: ボート転覆事故発生。
- 1910年2月6日: 逗子開成中学校にて追悼大法会開催。
- 鎌倉女学校生徒らにより、鎮魂歌としてこの歌が初演された。
- 1915年 (大正4年) 8月: レコードが発売された。
- 1916年 (大正5年): 歌詞・楽譜が刊行された。題名は 「哀歌 (真白き富士の根)」。
- このころから演歌師によって一般に広められ、歌謡曲となった。
- 1935年 (昭和10年): 松竹により映画化。題名は 「真白き富士の根」。
- 1954年 (昭和29年): 大映により映画化。題名は 「真白き富士の嶺」。
[編集] 曲について
従来、「ガードン作曲」 とされてきたが、ガードンなる人物については何も知られていなかった。 賛美歌研究者である手代木俊一 (当時 フェリス女学院図書館事務室長) の研究で、実際にはアメリカ人ジェレマイア・インガルス (Jeremiah Ingalls, 1764年-1828年) の作と判明した。(1995年頃から読売新聞や逗子開成学園が手代木に取材し、この事実が一般にも知られるようになった。インガルス作曲であることを指摘した日本人は手代木が最初ではなく、既に1948年に遠藤宏が著書の中で指摘している旨、手代木自身が記している。)
- 1805年、ジェレマイア・インガルスは白人霊歌集 「クリスチャン・ハーモニー (Christian Harmony)」 を刊行した。同歌集に掲載された曲 「Love Divine」 に 「真白き富士の嶺」 はかなり似ており、同曲が起源と考えられる。 (同曲はイギリスの民謡を元にインガルスが編曲したもの、との指摘もなされている。) 手代木によれば、同曲には 2種類の歌詞が付けられていた。(1) 「To him who did salvation bring」 で始まる歌詞と、(2) 「The Lord into his garden's come」 で始まり第5節が 「When we arrive at home.」 で終わる歌詞とである。
- 1835年、アメリカ南部で刊行された賛美歌集 「サザン・ハーモニー (Southern Harmony)」 には、同曲は 「Garden」 の名で収録された。歌詞は 「The Lord into His garden comes」 で始まる歌詞が付けられた。
- 1881年-1891年に刊行された賛美歌集 「Franklin Square Song Collection」 では、さらに 「真白き富士の嶺」 に近い旋律となった。歌詞は、「The Lord into His garden comes」で始まり 「When we arrive at home.」 で終わる歌詞が付けられた。天国での来世に希望を託す歌である。(なお、「ガードン作曲」説は、当時の賛美歌譜に付されていたチューンネーム 「Garden」 を堀内敬三が作曲者名と見誤ったのが起源、と推測されている。)
国内においては、同曲は 1890年 (明治23年) 刊行の 「明治唱歌」 において、「夢の外」 (大和田建樹作詞) として採用された。三角錫子はこの唱歌の替え歌として 「七里ヶ浜の哀歌」 を作詞したのである。「夢の外」 の2番、「七里ヶ浜の哀歌」 の4番の歌詞については、共にキリスト教の影響が指摘されている。「七里ヶ浜の哀歌」 5番の 「悲しさ余りて 寝られぬ枕に」 は、「夢の外」 3番の 「うれしさあまりて ねられぬ枕に」 がヒントとなっている。
この曲は、歌謡曲経由で、再びキリスト教賛美歌に使用されるに至った。日本福音連盟 『聖歌』 (1958年) 623番、『新聖歌』 (2001年) 465番、聖歌の友社『聖歌(総合版)』(2002年) 669番の 「いつかは知らねど」 である (北川ひろし (1888-1974) 作詞、1957年)。歌詞の第1節、第2節、第4節は、原曲の 「When we arrive at home」 を意識したものとなっている。
[編集] 書籍
- 唱歌・童謡ものがたり (読売新聞文化部著、岩波書店刊、1999年8月、ISBN 4000233408)
- 讃美歌・聖歌と日本の近代 (手代木俊一著、音楽之友社刊、1999年11月、ISBN 4276120411)
- すると彼らは新しい歌を歌った 日韓唱歌の源流 (安田寛著、音楽之友社刊、1999年9月、ISBN 4276330874)
- 「唱歌」という奇跡 十二の物語 讃美歌と近代化の間で (安田寛著、文春新書、2003年10月、ISBN 4166603469)
[編集] 外部リンク
- 真白き富士の根 (逗子開成学園)
- ジェレマイア・インガルスの略歴 (英語。The Cyber Hymnalより)
- インガルス家人名リストより (英語)
- ローラ・インガルス・ワイルダーの非常に遠い親戚に当たると考えられる。
- Garden Hymn: Christian Harmony版
- Garden Hymn: Southern Harmony版 (1853年改訂版)。