着衣水泳
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着衣水泳(ちゃくいすいえい)または着衣泳(ちゃくいえい)とは、洋服や体操着など、通常では水中で着用することのない衣類を身に付けたまま、河川や湖や海やプールなどで泳ぐことである。通常、水着やウェットスーツなどの水泳用の衣類ではない衣類を身につけて泳ぐ場合、水泳用の衣類よりも水を多く吸収し、衣類が体に密着していないので水に対する抵抗力が大きく身体の動きを制限するため、遊泳に巧みな人間でさえも泳ぐのが困難である。そのため、水難事故時の護身術として、泳法の習得を目的にした訓練とは別に、このような訓練を行うことで生存率を高めることも可能とされる。
[編集] 教育現場における着衣水泳
小学校などでは、河川や湖などの水面への転落あるいは船の遭難の際に用いる護身術の習得を目指し、通常の水泳の授業以外に体育の授業の一環として行われる。泳ぐか浮くことで自ら対岸までたどり着くか、救助隊が到着するまで生き延びることを目的とする。場合によってはペットボトルやリュックサック、あるいはビニール袋(ゴミ袋やレジ袋)などを膨らまして、浮き袋の代用品として使用することがある。
日本の教育現場における水泳の授業は、長年、競泳重視だった。しかし運河の多いオランダや東南アジアの一部の国などでは古くから学校教育の一環として、こうした護身術としての着衣水泳の教育を行っていた。近年は日本の学校教育でも、水難事故を防止するために取り入れられるようになった。
水中では実際に水着を着用した時と動作が異なることを体感するために、児童・生徒は私服や運動靴など、日常的に着用している衣類を身に付けた上で入水する。体操着に裸足で入水する場合もあるが、私服や運動靴などを着衣するほうが体操着よりも動きづらく、実際の場面により近いとされる。
[編集] その他の状況に置ける着衣水泳
いわゆる護身術としての着衣水泳とは別であるが、着衣の上での遊泳が推奨されるケースがある。熱帯や亜熱帯などの低緯度地帯で海水浴を行う場合、比較的高緯度地帯から観光で来た者にとっては通常の生活環境で受けているものよりはるかに強い紫外線を体に浴びることになる。また、熱帯や亜熱帯の珊瑚礁域では造礁珊瑚の骨格由来の鋭くとがった石灰岩が海岸に多く見られ、これによる怪我の恐れがある。これらの要因による皮膚の損傷を防ぐため、観光などでこうした地方で海水浴を行う場合は、Tシャツなどを着用して体の露出部を少なくすることが望ましい。
日本では、競泳のみならず遊泳、レジャーのときも水着を着用するのが一般的である。しかし国や地域によっては、水着が普及していない、あるいは水着に着替える習慣がないために着衣水泳が行われている地域がある。たとえば韓国、タイ、フィリピン、ベトナムなどでは男女とも、水着ではなく通常の衣服で泳ぐ人々が多いことが知られている。日本でも沖縄など南の島々では陽射しが強いため、地元の人々が海で泳ぐ際に水着に着替えて肌を露出することはほとんどない。また本土でも海岸や川沿いの地方では、地元の子供に学校以外の水泳で水着に着替える習慣がなく、普段着のまま着衣水泳が行われていることがある。またイスラム教の場合、女性は宗教上の理由から肌の露出を少なくするために着衣水泳を行う。